何にでもかけたくなる関西の食卓の定番「ポン酢」が今、生産停止に追い込まれています。
背景にあるのは深刻なすだち不足。
一大産地・徳島県を取材すると見えてきたのは、すだち生産現場の過酷な状況。
すだち農家は「高齢化になって、この暑さで作れない」と話します。
専門家は「何もしなかったら2050年ぐらいですだちの生産がなくなる」という予測も。24年後にはすだちの収穫量がゼロになってしまうというのです。
関西人の食卓を支えてきた調味料、そして、すだちの未来はどうなってしまうのか?徹底取材しました。
■「旭ポンズ」が発売以来初の生産停止
関西で広く親しまれてきた「旭ポンズ」が、ことし6月から生産を停止しています。
商品誕生からおよそ60年、初めての事態です。
【旭食品 高田雅規専務】「なんぼこちらが『こんだけ作りたい』と言っても、もの(すだち)がないと作れない。過去には当たり前にとれたものが、当たり前じゃなくなってきている」
ことし確保していたすだち果汁の品質が何らかの原因で悪化し、追加注文を試みたものの、収穫量が少なくて調達が難しかったということです。
生産再開はことし10月を予定していますが、すだちの収穫量減少への不安は続きます。
販売休止を受け、「旭ポンズ」はネット上での転売も確認されています。
■価格は倍以上に うどん店にも影響
すだちの品薄は、飲食店にも影響を与えています。
大阪・本町にあるうどん店「UdoKyutaro」では、夏限定の冷やかけうどんに徳島県産すだちを1杯あたり2個使用しています。1日に2箱分を消費することもあるといいます。
店主の太田博和さんによると、すだちの価格はかつて1箱680円ほどだったものが、今では1500〜1600円ほどにまで高騰しているといいます。
「だしにすだちの酸味とかうま味が出ているんで、最初グビグビっていって、爽快感感じてもらって、その後うどんいってもらうみたいな」と太田さんは語り、すだちがメニューに欠かせない存在であることを強調します。
すだちの収穫量は、この10年間で半数以下にまで落ち込んでいます。
■農家の高齢化と猛暑が追い打ち
全国のすだち出荷量の98%を占める徳島県。その一大産地・神山町を取材班が訪れると、生産の厳しい現実が見えてきました。
すだち農家歴40年の長尾英智さん(79)はすだち自体の耐暑性を「暑さには平気で強い」と説明します。
しかし、問題は作物ではなく、収穫する人間のほうです。
長尾さんは「高齢化になって、この暑さで作れない。今は(収穫量が)20%ぐらい減った」と話します。
すだちの収穫時期は8月中旬からのわずか1カ月半。その期間に収穫を終えなければ、実が黄色く変色し、味も変わってしまいます。
さらに、すだちの産地には寒暖差のある山間部が適しているため、農地は急斜面に広がっています。高齢の農家にとって、この地形での作業は大きな負担となっています。
神山町では10年前と比べ、農家の数が4分の3にまで減少しました。
■徳島以外での生産が難しい理由
なぜ徳島以外ですだちの生産が広がらないのか。その理由は、長年にわたって築かれてきた貯蔵技術にあります。
まるきん農園の佐々木裕之さんが案内してくれたのは、祖父の代から引き継いだすだちの貯蔵庫です。庫内は保存に適した温度に管理され、日光も遮断されています。これにより、きれいな緑色のすだちを1年中出荷できるのです。
【まるきん農園 佐々木裕之さん】「この冷蔵技術も、祖父の代、60年前から培ってきた細かい技術があるので、それをすぐ同じように(まね)するっていうのは難しい」
こうした先人から受け継がれた技術が他の地域では確立されておらず、産地が徳島に集中している現状が続いています。
■専門家が示す衝撃の試算「2050年で終わってしまう」
農作物の流通に詳しい徳島大学の中澤慶久教授は、すだち生産の未来について驚きの試算を示しています。
【徳島大学 中澤慶久教授】「収穫量を計算すると、何もしなかったら2050年ぐらいで(すだちの生産が)終わってしまう」
24年後にはすだちの収穫量がゼロになるという見通しです。
農家の減少と他地域での生産の困難さが重なる中、解決策を見出すことが急務となっています。
■新品種「勝浦1号」に期待
こうした状況を打開しようと、新たな動きが始まっています。
徳島県庁が品種改良を進めてきた新品種「勝浦1号」です。
従来のすだちは10月に入ると実が黄色くなり始めますが、この新品種は10月になっても緑を保ったままでいられます。収穫時期を長く確保できるため、農家の作業負担を分散させることができます。
【徳島県農林水産部 安宅秀樹研究員】「もっと規模を拡大して広くやりたいのに、収穫時期が1カ月半しかないから、規模拡大できないという人もいる」
新品種がその課題を解消する可能性を指摘しています。
味はほとんど変わらないといい、一部の地元農家はすでに新品種の栽培に乗り出しています。
■食文化を守るために
焼き魚にひとしぼり、うどんの出汁に爽やかな酸味を加える。すだちは長年、関西の食卓を彩ってきた食材です。
しかし今、高齢化・猛暑・担い手不足という複合的な問題が、その存続を脅かしています。
品種改良という技術的なアプローチは一つの光明ですが、担い手の確保や産地の持続可能な体制づくりなど、解決すべき課題は依然として多く残っています。
すだちという特産品を未来へ引き継ぐために何ができるか。産地だけでなく、社会全体で考えていく必要があるのかもしれません。
(関西テレビ「newsランナー」2026年8月25日放送)
