品川と名古屋を最速40分で結ぶリニア中央新幹線。静岡工区の着工にGOサインが出た。しかし、トンネル工事で出た土砂によって消えてしまう森がある。静岡市はいま市民とともに、その森の姿を記録している。先人が守ってきた“森の姿”を残すために。

「発生土置き場」は大井川上流に6カ所
膠着していたリニアの静岡工区のトンネル工事。川勝前知事に代わって就任した鈴木静岡県知事は2026年7月、静岡工区の着工を容認することを明らかにした。しかし、川勝前知事は「トンネル工事は、南アルプスには百害あって一利なしです」と厳しく批判。反対する理由は水の問題だけではない。
トンネルを掘って出た土砂を永久的に置いておく「発生土置き場」が、大井川上流に6カ所できる。

美しい“巨木の森” すべて伐採へ
静岡市内から北へ約100km。現れたのは、美しい「燕沢の森」。7月19日、市民や企業などからの参加者が植生調査に訪れた。南アルプスの植物を研究し、リニアの専門家による会議の委員も務めた静岡大学の増澤武弘 客員教授は「燕沢の森は平地で巨木がたくさんあり “巨木の森”に近い」と説明した。
燕沢の森には、静岡工区の発生土の97%にあたる360万立方メートルの土砂が置かれる。これは東京ドーム3杯分に相当する。21階建てのビルに相当する高さで最大65mまで土砂に埋もれる予定だ。
静岡大学の増澤客員教授は、この巨木の森について「2026年か2027年には、伐採されることになっている」と話す。
元の森に近い環境に戻す植生調査
この日、市民たちは木の種類を調べ、大きさを測り、記録していた。静岡市は増澤教授とともに、市民を募ってこの取り組みを3年前から毎年続けている。静岡市環境共生課は、森のデータを蓄積し、工事が終わって山を復元するときの基礎データにしたいと考えている。JR東海は、盛り土に災害対策を施し、表面を通常の土で覆ったあと、緑化する予定だ。この森で採取された種子を育て、元の森に近い環境に戻そうとしている。
参加者の中には高校生もいた。聖光学院高等学校の3年生、阪脇鉄平さん。阪脇さんは学校でリニアについて調べていて、着工までの合意形成に、住民参加のプロセスが足りていなかったと感じている。阪脇さんは、「リニア工事によって、どういった自然環境が失われるのかを見て、自分が発信することによって、危機感を少しでも住民に持ってもらえれば」「住民がもっと議論に関わるべき」と考えている。それで、今回の植生調査にも手を上げた。

大切に守って来た森を残すために
調査の結果を集計してみると、見えてきたことがあった。木の高さと直径ごとの本数に、それぞれ2つのピークが現れる。通常の自然林は小さい木が多く、大きい木は少ないためL字型のグラフになる。不自然な2つのピークからわかるのは“人の関与”。

静岡大学の増澤武弘 客員教授は「大木の森にするため、少しだけ手を入れている。ですから大きな森が育ってきた。本来だったら切って材木に使いたいところですが、東海パルプ(当時の土地所有者)は切らずに残したんです」と説明した。
ただの自然林ではなく、昔、人が手をかけて大切に守っていた森だということが、データから見えてきた。
「巨木の森」の北側(千石非常口ヤード)では、すでに伐採が始まっている。(*2026年2月に締結した準備工事に関する協定に基づき着工)これは燕沢の森の近い将来の姿だ。
聖光学院高校3年の阪脇さんは、この植生調査を通じて、多種多様な木や植物があり、大切しなければならない環境だと感じたという。そして「今回のデータを生かしながら、自分たちの世代で(新しい森を)作り上げたい」と語った。
ただ、すべての森が伐採されるわけではなく、守られる森もある。燕沢の森のすぐ横にある「ドロノキ」の群落だ。
2万年前にシベリアから広がってきたドロノキの日本列島の南限がこの場所で、オオイチモンジという絶滅危惧種のチョウが来る木でもある。10年以上に及んだ議論の中で守るべき森として、発生土置き場の範囲から除外された。

トンネル工事が終わったとき、以前よりさらに素晴らしい森にすることが、自然に手を入れる私たちに課せられた責任だ。
(テレビ静岡)

