病気と向き合う子どもたちに“夜空からプレゼント”
「たった15分間の花火ですが、同じ空を見上げて同じ時間を過ごしてもらう。それだけで十分だと思っている」。
そう語るのは、鳥取大学医学部の杉原誉明教授だ。
7月19日夜、米子市の鳥取大学附属病院で、入院中の子どもたちとその家族のために特別な花火大会が開催された。
病気と向き合いながら日々多くの「我慢」を強いられている子どもたちに、忘れられない夏の夜を届けようという思いが、夜空いっぱいに咲き誇った。
浴衣姿でジュースやかき氷…病院で“縁日”
午後5時、病院の駐車場に子どもたちが次々と集まってきた。
かわいらしい浴衣姿も目を引く中、屋台にはジュースやかき氷が並び、キッチンカーも出店。
まるで本物の縁日のような賑わいが病院の一角に生まれた。
「いろいろなものがある」と目を輝かせる子どもの声が上がる。
内臓の病気で入退院を繰り返しているという2歳の男の子も、うれしそうな表情でその場を楽しんだ。
付き添いの家族は「いろいろなイベントがあることで本人も楽しいですし、一緒に楽しめる」と話した。
この縁日コーナーは、病院スタッフが手作りで開いているものだ。
2022年から始まったこの取り組みは、入院生活の中でつらい経験を重ねる子どもたちに、少しでも楽しい時間を届けたいという現場の思いから生まれた。
2026年は、20人の子どもたちがそのひと時を共有した。

一夜限りのお祭り フィナーレは特別の花火
日が暮れた午後8時、お祭りはいよいよクライマックスへと向かった。
まず医学部の学生によるダンスパフォーマンスが披露され、続いてプロジェクションマッピングが病院の建物に夏の風景を映し出した。
そしてフィナーレは、打ち上げ花火だ。
15分間に約500発が夜空へと放たれ、大輪の光が子どもたちの顔を鮮やかに照らした。人生で初めて花火を見る子どもが驚きの表情を見せる場面もあれば、音楽に合わせて思わず踊りだす子の姿もあった。
「楽しい気持ちになった」と語る患者の言葉が、その夜の空気を凝縮している。
「ふだん入院生活でつらいことがたくさんあると思うが、笑顔で買い物してくれているのをみると、とてもうれしい気持ちになる」と杉原教授は話す。
花火を見上げる子どもたちのそれぞれの表情の中に、日常のつらさを一瞬忘れさせる力があったことは間違いない。

子どもたちに忘れられない夏を クラファンで応援も
この花火大会を支えたのは、全国からの善意だ。
クラウドファンディングを通じて寄せられた寄付金は、目標額の300万円を大きく超える440万円に達し、花火大会の経費に充てられた。
地元だけでなく、遠く離れた場所に住む人々もこの取り組みに心を寄せたことになる。
「きれいな花火で、すごくうれしかった。こんなことをしてくれるなんて感謝しかないですね」と語る家族の声が、その温かさを物語る。
初めての花火を体験した子どもの家族も「いろいろな姿を見られて良かった」と目を細めた。
「それぞれの思いを持って、夜空に上がる花火を見てほしい」と杉原教授は言う。
病気と闘う子どもたち、傍らで支え続ける家族、そして手作りでこの場を整えたスタッフ。
それぞれが異なる思いを胸に同じ夜空を見上げた15分間は、夏の忘れられない記憶として刻まれた。


