身寄りのない高齢者の「家じまい」成年後見人が向き合う
身寄りのない高齢者が急遽入院し、誰も手をつけられないまま残された借家。
島根・浜田市で、行政書士の中谷雅晴さんが成年後見人として、本来の職務の範囲を超えながらも「誰かがやらなければ」と家じまいを引き受けた。
少子化・晩婚化が進む日本で、今後さらに増えると見込まれる「家族のいない家じまい」問題の実態を取材した。
散乱する家財に残された思い出…処分は?困惑する家主
浜田市にある築50年ほどの一軒家。
室内には物が散乱し、至るところにたばこの吸い殻が転がる。
ベッドの周辺には焦げた跡もあった。
「ここがいつも寝起きされていた居間ですが、寝たばこして焦がしちゃって。それがきっかけで強制的に入院という形になっちゃいました」と語るのは、行政書士の中谷雅晴さんだ。
この家にはかつて80代の女性がひとりで暮らしていた。
認知症を患い、たばこの火の不始末が度重なったことで、2025年夏に急遽入院。
再び自宅に戻る見込みは小さく、退去が必要な状況となった。
しかし、女性には身寄りがなく、家の片づけは誰にも手がつけられないままだった。
困り果てたのは、家主の古城満秀さん・小百合さん夫妻だ。
「いくら大家としてでも、中のことまで介入できない」と小百合さんは言う。
満秀さんも「自分たちだけで処理しようと思ったら、いる物といらない物が分からない」と途方に暮れていた。
業者に依頼すれば数十万円の費用がかかる。
高齢の夫婦が自ら片づけるにも限界があった。

「見て見ぬふりもできない」後見人が肩代わりしたわけ
この状況に動いたのが、女性の成年後見人を務める中谷さんだった。
成年後見人とは、認知症などにより判断能力が十分でなくなった人に代わって、弁護士や行政書士などの専門家が財産の管理などを担う制度だ。
家じまいは後見人の義務ではない。
それでも「お困りになってる方がいらっしゃる以上は見て見ぬふりもできない。できるとこまではしてあげないと」と、中谷さんは動いた。
実はこの約2か月前にも、中谷さんは別の家じまいを肩代わりしていた。
身寄りのない70代の男性の成年後見人として選任されており、同様の状況に直面していたのだ。

1カ月がかりの「家じまい」支えたのは成年後見人の使命感
中谷さんは女性の財産の範囲内で片づけの一部を業者に依頼したが、処分すべき家財が多く、費用が賄いきれない分は自らの手で作業を進めた。
「何十年分なんだろ、なかなかないな」と業者も驚くほどの荷物。
カーテンには大量のほこりが積もり、長年の生活の歳月を感じさせた。
作業の合間、中谷さんは女性の写真を手にしていた。
「思い出はお金で買えないじゃないですか、どうしても。大事にしてあげたいなって」…大切な思い出の品が守られたのは、中谷さんが動いてくれたからこそだ。
ごみ処理場への搬入も自らの手で行った。
そうしてコツコツと片づけを続けること1か月、ようやく家の中が空っぽになった。

「片付いて一安心」家主も一歩踏み出せる
家の中が片づいた数日後、中谷さんは家主の古城さんを呼んだ。
室内を確認した満秀さんは「きれいになってる」と目を輝かせた。
「片付いて一安心です」と安堵し、古城さんはようやく家の今後について考えることができる状況になった。
鍵を返して、中谷さんの家じまいは幕を閉じた。
中谷さんは「今回の場合、本人に代わって処分をすることができるのは、成年後見人だけだった。こうなった以上はやるしかないという覚悟で心の中で『許してね』と思いながら、物を処分させていただいた」と振り返る。

「家族なき家じまい」少子化・晩婚化進む日本の未来
この問題の背景には、少子化・晩婚化の深刻な進行がある。
総務省によると、生涯子どもを持たない人の割合は年々増加しており、2005年生まれの場合、最大で女性は4割、男性は半数にのぼると見込まれている。
身寄りのない高齢者の単身世帯は今後も増加が予想され、「片づける家族がいない家じまい」は、日本社会が直面する新たな課題となっていく。
「私が人力でできるところでやって、どこまでいけるかなっていうのがね。誰か助けてみたいな感じで」と中谷さんは語る。
一人の行政書士の奮闘は、制度の「すき間」に落ちてしまう問題を浮かび上がらせている。
誰にでもいつかは訪れる「家じまい」。
自分や家族のためにも、家の「その後」についてあらかじめ話し合っておくことが、今まで以上に重要になっている。


