不安で泣いていた女の子が笑顔で手術室に

手術前夜、4歳の女の子は自分で手術用キャップを頭に被せ、笑顔を見せた。
前日まで家で泣いていたとは思えないほどだ。

その変化を引き出したのが、チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)、木村春香さんの「プレパレーション」だった。

全国でわずか50人 子どもの心を支える専門職

チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)とは、医療施設で病気の子どもが安心して治療に臨めるよう、本人とその家族を心理的・社会的に支援する専門職だ。

日本の国家資格ではないが、アメリカの団体が定める臨床経験などの条件を満たし、試験に合格することで資格を得られる。
現在、国内に在籍するのはわずか50人ほどという希少な存在だ。

出雲市にある島根大学附属病院では、9年前にCLSを導入。
2026年1月、2人目のCLSとして木村春香さんが小児病棟に着任した。

愛知県出身の木村さんは、高校卒業後の18歳で渡米し、大学で子どもの発達学を学ぶ中でCLSという職業に出会った。
資格取得後、「CLSの導入実績がある現場で経験を積みたい」と、島根大学附属病院への着任を選んだ。

CLS・木村春香さん
CLS・木村春香さん
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治療に向かう心の準備 医師でも看護師でもない役割

CLSの主な役割のひとつが、「プレパレーション」だ。
遊びや会話を通じて、診察や治療を受ける前に子どもの心の準備を整えるための取り組みを指す。
処置中の付き添いや、子どもと家族への継続的なサポートも担う。

木村さんはその役割について、「私たちが一緒に遊んだり、分かりやすい言葉で説明したりすることで、持っていた不安や心配を私たちに共有してくれるので、つなぎをできるお仕事としてCLSは重要な役割を果たしているのでは」と語る。

医師や看護師と子ども、家族の間に立ち、言葉と遊びで不安を和らげる。
それがCLSの仕事の核心だ。

遊びを通して子どもの不安を軽減
遊びを通して子どもの不安を軽減

小さなノートに刻む「学び」の毎日

現在、島大附属病院の小児センター病棟には15人ほどの子どもが入院している。
木村さんの1日は、医師・看護師とのミーティングから始まる。

体の痛みを的確に表現し伝えることが難しい子どもの患者に、どのように接するか。
それぞれの立場から意見を交わす場で、木村さんはポケットから取り出した小さなノートに盛んにメモを取り続ける。

木村さんは「医療知識が全くなく、1から学んでる状態で『こういう疾患が来たときにメモしたな』で振り返っています」と話す。

CLSは医療行為を行わないが、子どもや家族に説明するためには医療知識が欠かせない。
ミーティングを終えると2階の外来へ移動し、看護師とコミュニケーションを取り、子どもとの会話に使うおもちゃや本を消毒する。

外来と病棟の間を「けっこう早歩きです」と笑いながら、慌ただしく往復する毎日だ。

メモを取る木村さん
メモを取る木村さん

「手術」ってなに?子どもに寄り添い説明

この日の午後、木村さんが向かったのは、翌日に脚の手術を控えた4歳の女の子の病室だった。
初対面だったにもかかわらず、木村さんはすぐに女の子の隣に座り、写真を使いながら手術室に入るまでの流れを丁寧に説明し始めた。

用意したぬいぐるみでお手本を見せると、女の子は自分の頭に手術用キャップを被せ、笑顔を見せた。
呼吸器のマスクも実際に手に取りながら確認した。
不安そうな様子はすでにない。

傍らで見守っていた母親は「家では手術も近づくにつれ、怖がって泣いていたりもしたので、こんなにテンション上がっていて拍子抜けしている。分からないままだと多分、不安も強くなるので、分かった上で手術に臨めるのはありがたい」と話す。

手術を受ける女の子も「ちょっとしんどい時とか話してくれたりして楽になる」と、支えになっている様子を語った。

子どもとの距離を縮め不安に寄り添う 手術までの“つなぎ”を担う
子どもとの距離を縮め不安に寄り添う 手術までの“つなぎ”を担う

安心感、空気感を作ってくれる 医療者も頼りに

CLSの存在は、医師や薬剤師からも高く評価されている。

島根大学附属病院小児外科の真子絢子医師は「本人や家族がどこまで理解しているか把握することすら十分にできていないと思う場面があるが、間に入っていただいて、十分な理解を深めてもらうことをしてもらっている。いていただかないと困ります」と語る。

狩野園子薬剤師も「いるといないでは全然違う。最初の取っ掛かりを作ってくださるのがCLS。医療者とご家族をつないでくれる、安心感、空気感を作ってくださっていて。これは医療職ではできないのでは」と、言葉を添える。

医師や薬剤師とともに医療を支える「欠かせない存在」
医師や薬剤師とともに医療を支える「欠かせない存在」

新人「CLS」子どもの笑顔が「原動力」に

8歳の男の子は8月に手術を受ける予定で、事前説明のために来院していた。
両親が主治医から話を聞いている間、木村さんはタブレットを一緒に見ながら男の子のそばに付き添った。

「患者さんが来て自分できょう頑張ったとか、きょう頑張れたとか思って帰ってもらうことがやりがい。あしたも頑張っていこうと思う」と、着任からまだ間もない木村さんだが、子どもたちの笑顔が日々の原動力だという。

病気に向き合う子どもとその家族の心を支えながら、島根の地での新人CLSの奮闘は続いている。

CLS・木村さん やりがいを語る
CLS・木村さん やりがいを語る
TSKさんいん中央テレビ
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