丸くてこんがりきつね色。中にたっぷりのあんこが入ったあの食べ物、あなたは何と呼んでいるだろうか?
「大判焼き」「今川焼き」「回転焼き」…その呼び名は、なんと100種類以上あるとも言われている。
関西テレビ「newsランナー」は、岡山駅から名古屋駅まで東西およそ367キロを横断する大調査を実施した。
対象は200人。取材班が新大阪駅を基点に東西へ分かれ、新幹線の駅沿いで地元の人に呼び名を聞いて回った結果、関西独自の傾向と、関西とそれ以外の地域を隔てる”境界線”の存在が浮かび上がった。
■ 大阪・黒門市場では「大判焼き」 でも買った人は「回転焼き」
多くの人でにぎわう大阪・黒門市場。外国人観光客にも人気のこの食べ物は、「ワッフルみたいな味だね。おいしいよ」(プエルトリコからの観光客)、「めちゃおいしい!」(スペインからの観光客)と好評だ。
店頭では「大判焼き」として販売されているが、購入した人からは別の呼び名も聞こえてきた。
購入客:回転焼きとすぐ言ってしまいですけど、関西は大体、回転焼きですかしら?
7月28日は「ナ・ニ・ヤキ」の日と呼ばれ、“この名前をみんなで議論する日”だった。
では、関西の人たちはそれぞれの地域でこの食べ物をなんと呼んでいるのだろうか。

■ 兵庫県は「御座候」一強 西明石駅では半数、姫路では7割が回答
新神戸駅では取材開始早々、父と娘で呼び名が異なるという微笑ましい場面も。
父親が「回転焼き」、娘は「大判焼き」と答え、父が「なんで大判焼きって呼ぶの?」と聞くと、娘は「だってママが言ってたもん!」と返した。
しかしその後、新神戸駅周辺では「御座候」という答えが相次いだ。
「御座候」とは、兵庫県姫路市に本社を置き、関西を中心に70店舗以上を展開するチェーン店の社名兼商品名だ。「お買い上げ賜りありがたく御座候」という感謝の言葉から名付けられたという。
隣の西明石駅ではおよそ半数、姫路駅ではなんと7割の人が「御座候」と回答。相生駅でも6割が同じ答えを返し、兵庫県全体では80人中43人と半数以上が「御座候」だった。
「圧倒的に御座候。店の名前を呼んでるだけなんですけど」と姫路駅周辺の住民は笑いながら話した。

■ 「御座候」一強に他の店は?
まさに、「御座候」一強と言えるような状況を、兵庫県内の他の店はどう感じているのだろうか。
神戸市長田区の「いろは」では、40年以上前から店名にちなんだ「いろは饅頭」として販売している。
店長の坂元昭人さんは御座候の知名度を認めつつも、「まぁ結構人気あるからな。子供が100円持って走って来るのかわいいよ。『おっちゃん饅頭ちょうだい』ってな」と話す。
取材中、実際に小学生が店に駆け込んできた。
小学生:カスタードクリーム一つください。
この食べ物の名前は?と尋ねると、「いろは饅頭です」と即答。「『御座候』じゃないんだね?」と聞くと、「はい」と迷わず返した。
地域に根ざした店の名前が、子どもたちの日常語として息づいているそんな光景だ。

■ 米原で突然現れた”未知のワード”「暫(しばらく)」
京都駅でも「御座候」「御座さんのお菓子」という回答が続いた。
主要な駅や百貨店に出店する「御座候」の戦略が、高い知名度を支えているとみられる。
ところが米原駅まで来ると、「大判焼き」の回答が増え始め、「御座候」を答える人が現れなくなった。
そこへ、まったく予想外のワードが飛び出す。
「しばらく」「しばらくですかね」
”暫(しばらく)”…聞いたことのない名前に取材班は驚く。しかも米原駅ではおよそ半数の人がこの名前を答え、長浜市出身と名乗る男性がその出どころを教えてくれた。

■御座候に技術を学んで作ったという「暫」
急きょ滋賀・長浜市へ向かった取材班が訪れたのは、明治元年創業の飲食店「茶しん」。
社長の廣瀬直樹さんによると、およそ70年前から「暫」という名前で販売しているということだ。
その由来は歌舞伎十八番の演目「暫」。「庶民の味方」という内容の話にちなんで、「皆さんの味方になるような願いを込めてこの名前をつけている」とのことだ。
さらに驚いたのはそのルーツ。
茶真商店 廣瀬直樹社長:姫路に有名な御座候さんがあるということで、そこで教えていただきました。
あの「御座候」で技術を学んで作ったものだったのだ。

■姫路を中心に「御座候」が強い兵庫県、米原で「暫」、関西圏を離れると「大判焼き」が主流に
調査のゴール・名古屋では「大判焼き」という答えが戻ってきた。
367キロの調査結果をまとめると、姫路を中心に「御座候」が強い兵庫県、米原で「暫」というご当地ネームが存在する滋賀県、そして関西圏を離れると「大判焼き」が主流になるという分布が浮かび上がった。

■「米原と岐阜羽島に境界線があるのでは?」と専門家
この結果について、方言の観点からこの食べ物の呼び名を研究する奈良大学総合研究所の岸江信介特別研究員はこう話す。
岸江信介特別研究員:やはり米原と岐阜羽島ですね。やっぱここに大きな境界があるんじゃないかと思うんですね。東海道でいうと、関ケ原まで東の文化圏が1つあって、滋賀に入ると関西。それをうまく物語った調査結果じゃないかなと。
関ケ原を境に言葉や文化が東西に分かれ、それがこの食べ物の呼び方にも現れているという指摘だ。
さらに岸江さんはこんな見方も示した。
岸江信介特別研究員:地元の人たちが持つアイデンティティーみたいなものを、こういうものに託して、名称がその中で息づいている。方言がどんどんなくなっていく時期だが、この食べ物だけはまだ根強く各地で言い方が残っているのではないか。
ちなみに岸江さん自身が答えた呼び名は「太鼓焼き」。出身の三重県での呼び方だそうだ。
(関西テレビ「newsランナー」2026年8月5日放送)


