韓国の音楽シーンで今、予想を超える大逆転劇が起きている。その主役は、中小規模の芸能事務所からデビューした5人組ガールズグループ「リセンヌ(RESCENE)」だ。
2年前にリリースした曲が、今になって音楽配信チャートの頂点へ駆け上がる「逆走」現象を引き起こし、一気に注目の存在となった。アイドルグループが熾烈な競争を繰り広げている現在のK-POP業界では、中小事務所に所属するアイドルの成功は容易ではない。
「中小アイドルの奇跡」とも呼ばれるリセンヌの成功には、何があるのか。

「中小アイドルの奇跡」
「リセンヌ」のメンバーは韓国人4人に日本人1人の構成で2024年にデビューしたものの、大きなヒットもなくほぼ無名に近い状態が続いていた。
しかし、2026年7月、事態は一変する。
2年前にリリースされた楽曲「Love Attack(ラブ・アタック)」が、韓国最大級の音源プラットフォーム「Melon(メロン)」のTOP100チャートで初の1位を獲得したのだ。
さらに勢いは止まらず、7月8日に発表したKARAのカバー曲「Pretty Girl」も音楽番組で1位を記録し、一躍人気アイドルの仲間入りを果たした。
「本当に突然のことでした。1位になれるなんて、こんな時間(タイミング)に思いもしませんでした」(1位獲得時のメンバーのコメント)
1位獲得を受けて実施された緊急ライブ配信で、メンバーらはファンに感謝し、感激の涙を流した。
ギャル動画でブレイク
リセンヌがブレイクしたきっかけは何だったのか。
中小事務所所属のリセンヌは、資金不足でプロモーションに高額な費用はかけられず、音楽番組への出演も容易ではない。このためリセンヌは、費用がかからないライブの自主配信やYouTube動画を活用する戦略を取った。このうちリーダーのウォニが日本人メンバー・ミナミと組んだ「ギャル」動画が、爆発的なブレイクの引き金となった。
1990年代から2000年代初めに日本で社会現象となった「ギャル文化」は、韓国でも注目されている。ギャルを象徴する「デカ目」メイクや、蛍光色を使った派手なファッションは視覚的なインパクトが強く、SNSでギャルファッションをまねるのが流行した。
動画ではミナミがウォニにギャル風のメイクやポーズを教える中で、ウォニの出身地である慶尚南道の巨済(コジェ)に向けて、「コジェ、ヤッホー!」と叫ぶ。これがネット上で大ヒット。裏Vサインとともに叫ぶこのギャル風の挨拶はSNSで「2026年上半期を代表するミーム(流行語)」の一つとして瞬く間に拡散され、自治体である巨済市をも巻き込む大きなトレンドとなった。
通常のK-POPグループは「ヒット曲→バラエティ・YouTubeでファン獲得」という順序で人気を拡大していくが、リセンヌは「YouTubeで親近感を獲得→メンバーに好感→楽曲が聴かれる」という逆のパターンを示したのである。
大手アイドルとの格差
K-POPが世界的な注目を集め始めた2010年代以降、中小芸能事務所の経営環境は厳しさを増した。グループを成功させるために必要な制作費やマーケティング費用が高額化しているためだ。

業界関係者によれば、競争力のあるミュージックビデオ1本の制作には10億ウォン以上かかることもあるという。さらに、アイドルを育成・定着させるには、3年間で数十億~100億ウォン前後、日本円で数億~10億円程度が必要になるというのが「業界の定説」とされる。韓国コンテンツ振興院の調査では、2023年の企業1社当たりの年間音楽制作費は、大企業が平均431億1000万ウォンだったのに対し、中小企業は平均14億9000万ウォンで、約29倍の開きがあった。
大手事務所は、長期間の練習生教育や高額な映像制作、世界規模の宣伝を行える。一方、その成功モデルが業界全体の基準になると、資金力の乏しい事務所が独自のグループを長期的に育てることは難しくなる。
韓国メディアによると、2026年上半期に発売初週で100万枚以上を売り上げた14組のうち、中小事務所はわずか2組で、年間でチャート400位以内に入る新人グループも2年間で43.6%急減したとされる。業界内からは「リセンヌが中小アイドル神話の最後の事例になるかもしれない」との懸念も示されている。
若者の共感
大手芸能事務所所属のアイドルは練習生として体系的な訓練を受け、厳しい競争を勝ち抜いてデビューに至る。ダンス・歌ともに高い実力を持ち完璧なビジュアルを備えたアイドルが多いため、差別化しにくいとの指摘もある。また、「完璧」「神秘的」なイメージが強調され、ファンにとっては近寄りがたく感じられる面もあろう。
一方、リセンヌは対照的な魅力を持つ。ウォニの親しみやすい巨済方言やミナミの日本語(ギャル語)は、友達同士の会話を見ているような身近さがあり、飾らないキャラクターは、等身大の存在と感じられる。
初期の動画には学校のグラウンドで歌う姿や、ドライブスルーでグループ名を教えてもスルーされてしまうシーンなどが収められ、無名時代の苦労も隠さずに伝えている。
夢をあきらめず、厳しい環境の中でも努力を重ね、2年越しでヒットチャート1位を獲得したリセンヌの歩みに、SNSでは「努力しても無駄ではないと思わせてくれた」と共感する若者の声が相次いだ。
「みんなが韓国に希望はない、ドブ川から龍が出る(貧しい環境から出世する)のは不可能だと思っている中で、“努力は裏切らない”、“まだ希望はある”と全力で叫んだグループ」
「夢に向かって困難な旅を選んだのは、誰にでもできることではない。とても尊敬する」

若者の雇用率低下や就職自体を放棄する「休む」青年の増加が社会問題となる韓国で、不利な条件を覆したリセンヌは、多くの若者に「努力が報われる物語」と受け止められ、共感を集めた。「雲の上の存在」ではなく、自分と重ね合わせ「応援したくなる存在」として、リセンヌは若者たちの希望の象徴ともなったのである。
SNSをきっかけに「奇跡」の逆転劇を成し遂げたリセンヌは、中小事務所にも逆転の可能性が残されていることを示した。しかし、偶然生まれたミームとメンバーの個性に依存する方法が、他のグループにも再現できるとは限らない。リセンヌの“奇跡”は希望であると同時に、中小事務所が奇跡に頼らなければ生き残れないK-POP産業の厳しさも映し出している。
(フジテレビ客員解説委員、甲南女子大学教授 鴨下ひろみ)

