狭い居間を埋め尽くす、何十匹もの犬。
床も見えないほど密集し、互いの体に折り重なるように身を寄せ合っている。

あまりに異様で痛ましい光景に、写真を見た多くの人が「AIで作られた画像ではないか」と疑った。しかし、これは実際にイギリスの住宅で暮らしていた犬たちの姿である。

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同じ場所から保護された犬は、実に264匹。
家の中には犬があふれ、暖炉の中にまで入り込んでいた。

スタッフ全員が涙…“崩壊”なぜ起きた?

犬たちの保護にあたったのは、RSPCA=イギリス王立動物虐待防止協会である。救出に携わったRSPCAのカール・ソーンダーズさんは、当時の状況をこう振り返る。

RSPCA カール・ソーンダーズさん:
264匹の犬がいた状況は、本当に胸が痛むものでした。動物たちがそこから出てくるのを見て、私たちスタッフ全員が涙を流しました。

取材班が施設を訪れると、ずらりと並ぶ犬の飼育スペースから、絶え間なく鳴き声が響いていた。

ここでは、保護された動物たちが治療やリハビリを受け、新しい家族との出会いを待っている。

RSPCAは「王立」の名を冠しているが、政府機関ではなく、民間の慈善団体だ。

イングランドとウェールズで動物虐待などの通報を受け、専門の調査官が現場の状況を確認する。必要に応じて警察や自治体と連携し、動物の保護や、悪質なケースにおける法的責任の追及につなげている。

面談を繰り返し適性を見極めてから譲渡する
面談を繰り返し適性を見極めてから譲渡する

今回の「多頭飼育崩壊」は、なぜ起きたのか。

カールさんは、犬だけでなく、世話をしていた人たちも追い詰められていた可能性を指摘する。

RSPCA カール・ソーンダーズさん
犬たちの世話をしていた、あるいは世話をしようとしていた人たち自身が、良い状態ではなかったということです。そして、状況が手に負えなくなってしまいました。

保護直後の様子。小刻みに震えていた
保護直後の様子。小刻みに震えていた

飼育されていた犬の多くは避妊や去勢がされておらず、住宅内で繁殖を繰り返していたという。数が増える一方で、世話や衛生管理が追いつかなくなり、問題が一気に拡大したとみられている。

RSPCAウェストノーフォーク、ゼネラルマネージャーのカール・ソーンダーズさん(左)
RSPCAウェストノーフォーク、ゼネラルマネージャーのカール・ソーンダーズさん(左)

RSPCA カール・ソーンダーズさん:
糞や汚れにまみれ、毛はひどく絡まっていました。すべての犬の毛を剃らなければなりませんでした。私たちが経験した中でも、最悪のケースの一つでした。

犬たちは麻酔をかけられ、固く絡まった毛をすべて剃り落とされた。

人も首輪もボウルも怖がる

保護されたその日のうちにワクチン接種やマイクロチップの装着、ノミや寄生虫の駆除、全身のシャンプーも行われた。しかし、必要だったのは医療的な処置だけではない。

RSPCA カール・ソーンダーズさん:
人間との関わり方を知りませんでした。リードや首輪でさえ怖がっていました。

救出された一匹のルーファス
救出された一匹のルーファス

普通の家庭での暮らしを知らず、餌を入れるボウルさえ怖がる犬もいた。

RSPCA カール・ソーンダーズさん:
彼らは床からしか食べたことがなかったのです。そこで、まず平らなマットの上で食べさせ、そこから少しずつボウルへ移行していきました。

人を信頼するまでに、2カ月かかった犬もいたという。

多頭飼育「4年間で1.7倍」背景は

多頭飼育が限界を超えるケースは、今回に限った特殊な出来事ではない。

RSPCAによると、イングランドとウェールズで、同じ住所に10匹以上の動物が確認された事案は、2021年の2539件から、2025年には4267件に増加した。4年間で約1.7倍に増えたことになる。

繁殖管理が追いつかず足の踏み場もないほどに
繁殖管理が追いつかず足の踏み場もないほどに

背景の一つにあるのが、コロナ禍で高まったペット需要の反動だ。社会生活が通常に戻り、飼育費用も上昇するなか、動物の世話を続けることが難しくなるケースが出ている。

費用の上昇も、飼い主に重くのしかかる。猫の避妊・去勢にかかる費用は、6年前の約40ポンド(約9000円)から、現在では100ポンド(約2万2000円)を超えるという。電気代や車の燃料費なども上がるなか、一部の飼い主にとって、必要な処置を受けさせることは大きな負担となっている。

繁殖続き…猫6匹が6年で120匹に

ある男性は、害獣対策のために6匹の猫を飼い始めたが、避妊・去勢をしないまま繁殖が続き、6年後には120匹にまで増えていたという。

保護施設で生まれた子猫もいる
保護施設で生まれた子猫もいる

カールさんによると、こうした事案は、近隣住民からの通報によって明らかになることが多いという。

RSPCA カール・ソーンダーズさん:
家の中にいる本人は、状況がすでに手に負えなくなっていることに気づいていない場合もあります。また、問題を認識していても、どうすればよいのか分からないこともあります。

かわいがっているつもりだった。
助けたいと思っていた。
しかし、数が増え、費用がかさみ、相談できないまま抱え込む。

いくつもの事情が重なるなかで、飼い主も動物も追い詰められていく。

多頭飼育崩壊を防ぐために必要なのは、飼い主が限界を迎える前に異変を捉え、早い段階で支援につなげることである。高齢化や孤立、生活費の上昇が進むなか、その課題は日本にとっても無関係ではない。

髙島 泰明
髙島 泰明

FNNロンドン支局長
09年から警視庁、神奈川県警、厚生労働省、宮内庁を担当
東日本大震災では故郷・福島で放射能汚染や津波被害の取材に奔走
「めざましテレビ」から夜のニュース、選挙特番などでデスク、プロデューサーなどを経験
平昌・パリ五輪で現地取材、イット!「極ネタ!」演出も務める
愛犬家で「人と犬の幸せを育む」記事を書くことも大きなテーマ