世界各国の王族や国家元首が集まり、国民が別れを惜しんだノルウェーのハラルド5世の葬儀。その場には、性犯罪などで禁錮4年の実刑判決を受け、控訴中のマリウス・ボルグ・ホイビー被告の姿もあった。
かつて「リトル・マリウス」と呼ばれ、国民に親しまれたマリウス被告は、メッテ・マリット新王妃の結婚前に生まれた長男で、王位継承権や公的な称号を持たない。現在、性犯罪を含む複数の罪で有罪判決を受け、自宅軟禁中の身だ。
ではなぜ、マリウス被告は葬儀に参列できたのか。葬儀の生中継で解説を務めたノルウェー国営放送NRKの王室記者、クリスティ・マリー・スクレーデ氏に聞いた。
マリウス被告は「家族」として参列
9月9日、オスロで営まれた葬儀では、ホーコン新国王と家族に続き、秋篠宮ご夫妻をはじめ、各国の王族や国家元首らが街を歩いた。
一日の終わり、王室一家がバルコニーに姿を見せると、集まった人々から歓声が上がった。王宮前は、国民が悲しみを分かち合い、長年国を支えた国王への感謝を示す場になった。
一方、マリウス被告の参列には、複雑な視線も向けられた。被告はメッテ・マリット王妃がホーコン国王との結婚前にもうけた長男で、王子の称号もない。性犯罪などで実刑判決を受けた後、被告側と検察側の双方が控訴している状態だ。
参列を可能にしたのは警察による許可だった。スクレーデ氏によると、被告は電子機器で居場所を監視され外出を制限されているが、国王の死後に行われた一部の儀式への出席を認められたという。

王宮内で棺が礼拝堂へ移された際にも、被告は「孫の一人」として棺のそばにいた。ハラルド国王と血縁関係はないが、王室一家の中では、最年長の孫として受け入れられてきた背景がある。
ただし、この儀式がテレビで生中継されると、批判が噴出した。
「特に、裁判で被害を訴えている人たちへの配慮という点で、複雑な気持ちを抱いた人がいました」
被告が映像に映ると分かっている場への参加を認めたホーコン国王の判断について、「被害者への配慮を欠いていた」と考える人もいたという。
一方で、長年家族の一員だった被告を、悲しみを分かち合う場から排除する必要はないとの意見もある。王室が引いた線は、「公的な役割」と「家族の一員」の分離だった。
実際、被告は王宮から大聖堂へ向かう公的な葬列には加わっていない。教会では、きょうだいやいとこら、近しい家族の隣の席についた。
「王室の公的な立場からは切り離しつつ、家族としての関係からは切り離さない。それが、彼らの対応です」
警察による外出許可と、王室による家族としての受け入れ。その二つが重なった参列だったが、国民の受け止めは一様ではなかった。
“お騒がせ夫妻”も参列
葬儀には、マッタ・ルイーセ王女と、霊媒師として知られる夫のデュレク・ベレット氏も参列した。
夫妻をめぐっては、結婚の裏側を描いたNetflixのドキュメンタリーなどをきっかけに、王女の称号と商業活動の関係が問題となり、称号剥奪を求める声も上がっていた。
スクレーデ氏によると、ベレット氏は腎臓移植を受け、表に出る機会が減っていたが、現在は別のドキュメンタリーを通じて再び注目されている。さまざまなスピリチュアルな信仰や考え方を持つ人々を追う作品だという。夫妻をめぐる議論も、王室の悩みの種となっている。
支持率回復でも試練は続く
相次ぐ問題の中、王制への支持率は変動している。2月には60%まで低下したが、ハラルド国王の死後に行われた調査では72%となった。しかし、2027年の年明けにはマリウス被告の裁判が再び予定されており、王室は厳しい視線にさらされることになる。
肺移植を受けたメッテ・マリット王妃の体調もいまだ優れない。移植された肺が体になじむかどうか分かるまで、1年ほどかかる可能性があるという。
父を失い、妻の療養と義理の息子の裁判を抱えながら、新国王は重責の公務を担う。
ホーコン国王に必要なのは何か――スクレーデ氏から返ってきた答えは、「落ち着いて、やるべきことを続ける」だった。
「当面はほぼ一人で国王としての仕事を始め、粘り強く取り組まなければなりません」
葬儀で示された国民の温かな思いを、持続的な信頼につなげられるか。ホーコン国王の歩みは、始まったばかりだ。
(FNNロンドン支局長 髙島泰明)

