2026年7月25日、春野球場で行われた高校野球高知大会の決勝戦。明徳義塾が宿敵・高知中央を下し、2年ぶり24回目となる夏の甲子園出場を決めた。
馬淵史郎監督(70)にとっては、春夏通算で40回目(2020年の甲子園交流試合は除く)となる「聖地」への切符。高校野球史にさん然と輝く金字塔を打ち立てた名将が今年のナインに向ける眼差しは、どこか穏やかで、かつ鋭い。
「例年より小粒でパワーもない。ホームランを打てる選手もいない。不思議なチームいう感じなんですわ」
指揮官が語るように、下馬評は決して高くなかった。圧倒的な長打力も、絶対的なエースも不在。
しかし、この「小粒」な集団は、春の県大会で敗れて以降、練習試合を含め3カ月近くほぼ負けていない。強さの源泉は、個の力に頼るのではなく、組織として「ザ・高校野球」を徹底する姿勢にあった。
「一回死んでいるんだから」準決勝の奇跡と、2002年の記憶
この「負けない強さ」の正体を、2002年の全国制覇を知るOBで、元オリックス・バファローズの筧裕次郎さんは「組織の血」にあると語る。
「4番、5番が当たっていなくても他がカバーできる。派手さはないが、みんなでつなぐチーム力がある」
その結束力が劇的な形で現れたのが、準決勝の土佐高校戦だ。
相手エースに封じ込まれ、8回裏の攻撃が始まる時点で0対3。ドラマが始まったのは2アウト3塁と追い込まれてからだった。
1番・山根のタイムリーで1点を返すと、2番・田内もヒットでつなぎ、足も絡めて2アウト2・3塁に。ここで3番・西川が同点タイムリー2ベースヒットを放つ。
4番・里山が敬遠されると、5番で主将の続木の打球が相手のエラーを誘い、ついに逆転。2アウトから5人がつないで一挙4点を奪い、激戦を制した。
2日後の決勝戦。馬淵監督は試合前の選手らに、こう語りかけたという。
「おととい、一回死んでいるんだから、今日は思い切っていこう」
この老練な一言が、決戦に向けた確かな勢いを生み出した。
決勝で体現した「耐えて勝つ」明徳のプライド
迎えた高知中央との決勝戦は、明徳が長年培ってきた勝負哲学「堅守」と「つなぐ野球」が光る一戦となった。
1回表: 1アウト1・3塁の好機で、打席には4番・里山。今大会ここまでノーヒットと不振に喘いでいたが「どうしても食らいつこうという気持ちで」執念の先制犠牲フライを放つ。
3回表: 着実な攻撃で1点を追加し、2対0と試合の主導権を握る。
4回裏: 先発・藤本が2アウト満塁という最大のピンチを背負う。球場全体が固唾を呑む中、放たれた打球はサードゴロ。守備陣が確実に処理し、無失点で切り抜けた。馬淵監督が「練習の賜物」と誇る堅い守備が、相手の反撃の芽を摘み取る。
8回表: 再び4番・里山。仲間のつなぎに応えたい一心で放った打球は、今大会自身初となる値千金のタイムリーヒットに。「チームのみんながつないでくれたおかげ」と語る主砲が決定的な3点目をもぎ取った。
継投と隙のない守りで完封。去年の決勝で敗れた因縁の相手に3対0でリベンジを果たした。
一人の苦悩を全員でカバーし、守備からリズムを作る。伝統の「耐えて勝つ」精神が結実した勝利だった。
主将のプライドと「等身大」の勝負哲学
背番号「5」を背負ったキャプテンの続木は優勝決定直後、こう語った。
「僕はこの大会ヒットが打てずに本当に苦しかったんですけど、必死にみんなに声をかけることしかできなかったんですけど、みんなが大事なところで打ってくれたおかげで勝利できた」
そう仲間に感謝したうえで、全国の舞台へ向けて力強く前を向く。
「高知県代表として恥じないプレイをし、1回でも多く校歌を歌って日本一を取りたい」
その言葉には、個の成績を超えたキャプテンとしてのプライドが宿っていた。
一方、チームを育てた馬淵監督。“甲子園”通算40回という大記録にも、気負いはない。
「持っている力以上のものを出そうとしないで、自分のやれる範囲のことを一生懸命やっていこう。練習の時からそう言い続けてます」
70歳にしてなお野球の恐ろしさを知る名将は、背伸びをせず、練習で積み上げたことを愚直にやり抜く「等身大の野球」を全国の舞台でも貫く構えだ。
8月5日に開幕する夏の甲子園。不思議なほど負けない「小粒」な精鋭たちが、聖地でいかなる躍動を見せるのか。名将に率いられた等身大の挑戦が、まもなく始まる。
