「メールの内容がよくわからない…」

日頃、仕事をする中で、こう感じる瞬間はないだろうか。メールやSNS、チャットツールがビジネスにおいてもコミュニケーションの主流に。そして、コロナ禍でテレワークへと移行したことで、より「文字」でのコミュニケーションが加速し、意思疎通の難しさを感じている人も多いだろう。

今、メールやSNS、チャットツールといった文章でのコミュニケーションが増したことで、より「読解力」が必要とされているという。そもそも「読解力」はどんな能力なのか、それはどう鍛えればいいのか、『すばやく鍛える読解力』(幻冬舎新書)の著者であり、多摩大学名誉教授の樋口裕一さんに聞いた。

多摩大学名誉教授・樋口裕一さん
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読解力とは?

読解力には「文章を読み取る力」と人の心や政治・経済など「世の中を読み取る力」といった2つの意味があるという。この2つはつながっているため、「文章を読み取れれば世の中も読み取れ、世の中を読み取れれば文章も読むことができる」と樋口さんは言う。

読解力がある人は、文章を正確に読めるということが前提にあり、人の言いたいことが理解できたり、先を読むことができたりするなど、“読み解く”能力が備わっている。加えて、読み解いた物事を正確に伝える“発信力”も持ち合わせている。

一方、読解力がない人は、人の発言・意見を理解できなかったり、誤解をしてしまったりすることが多いという。

最近ではSNSやチャットツールといった「文字」でのコミュニケーションが多くなり、読むという作業が格段に増えている。文章を読む力が鍛えられ、読解力が自然と身についているような気がするが、「そうではない」と樋口さんは否定する。

「SNS、チャットツールなどの会話はほとんど仲間内です。共通の価値観、共通の体験があり、一言でわかり合える間柄です。こうした仲間内でのコミュニケーションが多いため、仲間以外の人と会話が出来ない、話が通じない人が多くいます」

仲間内の会話でおもしろおかしく話したり、通じ合ったりしていても、仲間以外に物事を伝えることが難しかったり、うまく発信できない人が多く、仲間内だけの会話では読解力は身につかないという。

ビジネスで伝えたいことが伝わらない理由は

一方、ビジネスでは仲間内だけでなく仲間以外とも会話をすることが多い。仕事上で鍛えられたりしていそうだが、メールなどの内容が理解できなかったり、うまく伝わらなかったりするのはなぜなのか。

その理由を樋口さんは「暗黙の了解の捉え方の違い」だと指摘する。言わなくてもわかる部分を省いてしまうと相手に通じない場合があるというのだ。

逆に、「言わなくてもわかる」部分を理解できないことが、読解力のなさにつながってしまいそうだが、樋口さんは「そもそもメールなどは、誰でもわかるように書かなければなりません」としつつ、「読解力がある人は、“言わなくてもわかる部分”を自分で補って読んでいます」と話す。

受け取ったメールの不足分の情報を自分で補い、どのように仕事を展開していけばいいのか正確に理解できるのが読解力のある人。しかし、読解力のない場合は「言わなくてもわかる」部分の解釈の違いなどから勘違いをして、全く違う別の方向へと仕事を進めてしまう可能性も。

そのため、メールなどビジネスでのやりとりは、受け手に読解力のある・なしにかかわらず、仕事の混乱を招かないよう、“誰が読んでもわかる”ように書くことを心掛けなければならない。

「型」を意識して文章を書いてみよう

そして、読解力を高めるためにも、樋口さんがすすめるのが、メールを含めた「文章を書くこと」。文章を書けるようになれば、当然のことながら、うまく読み取れるようになる。

そのときに大切なのは文章の「型」だと樋口さんは言う。その型とは四部構成で第一部に「問題提起」、第二部は「意見提示」、第三部は「展開」、第四部は「結論」で構成される。

こうした構成が典型的に表れているのがサスペンス。最初に事件が起きて犯人は誰か?という問題提起から始まり、「この人が犯人かも?」と意見提示が行われるが、「この人にはアリバイがあった」「新たな事件が起きた」と展開があり、最後に犯人が捕まるという結論で終わる。

「型を意識して文章を書けば、言いたいことを伝えられる文章を書くことができます。何が言いたいのかわかる力、つまり読解力が身についていきます。大抵の文章がこの型を意識しつつ、変形させているのがほとんどです」

もちろん、メールでのやりとりは業務の報告など「型」をあまり意識しない文章を書くことも多い。しかし、自分が何かを訴えたい場合や意見を言うときに、こうした型を意識した文章を書くことでより伝わりやすくなるという。しかも、自分で書けるようになることで、書く技術や書く人の気持ちがわかるようになって、読解力もつく。

読解力は日々の積み重ねで身についていく

では、「読解力」はどうすれば身についていくのか。何か特別な勉強をして身につける能力ではないと樋口さんは言い、新聞やネットニュースを読んだり、読書をしたりするなど、日頃の積み重ねが大切だという。

日々のニュースを伝える論理的な文章で書かれた記事を読むことがベストだが、それが難しい場合は「投書欄」を樋口さんはオススメしている。プロではない多様な人が書いている文章は読解力の練習につながっていく。

読解力をつけることを意識して投書欄を読むには、まず「型」を意識すること。実はほとんどの文章は、先ほど説明した文章の「型」に基づいている。したがって、どこが「問題提起」にあたるか、どこが「意見提示」にあたるかを考えて読む。つまり、文章の論理構造を明確にする。

そして、その文章が何かを主張しているからには、必ず何かに反対しているわけだから、「何に反対しているか」を意識して読んでみる。そうすると、おのずとその文章が言おうとしていることがわかってくる。

そして、ただ流し読みをするのではなく、「書いた人の狙いまでわかれば読解力が身についていることになりますし、それが短時間で読み取れればさらに良いでしょう」と樋口さんは言う。新聞やネットニュースで出てきた言葉などを実際の会話で使ってみたり、読書の場合は感想などを発信したりすることで、だんだんと「読解力」がついてくる。読むという行為だけでなく、アウトプットすることも重要だという。

時には、「意味がわからない!」と言いたくなるような、“ヘタな文章”も役立つようだ。ヘタな文章とは、単純なミスがあったり、抽象的だったり、肝心な情報が抜けている文章などのこと。こうした文章は、ビジネスにおいて読み手の大きな勘違いを招いたり、ミスを防ぐために何度も確認作業をしたりという手間が発生してしまう。

もし、メールなどで“ヘタな文章”を受け取ったとしても、読解力のある人は、書いた人が“どのようなミスしたのか”がわかり、“何が言いたいのか”を理解できるという。

つまり、書き手のミスや言いたいことを拾い上げることができたら、読解力が身についているということにる。“ヘタな文章”を受け取っても投げ出さずにしっかりと向き合うことで、自分の能力を高めることができるのだ。

文字でのコミュニケーションと顔を合わせた会話は全く違う。今後、ますます文字での会話が盛んに行われる中、「読解力」はさらに必要とされる能力なのかもしれない。

「すばやく鍛える読解力」(幻冬舎新書)

樋口裕一
フランス文学、アフリカ文学の翻訳家として活動するかたわら、受験小論文指導の第一人者として活躍。現在、多摩大学名誉教授、通信添削による作文・小論文の専門塾「白藍塾」塾長。MJ日本語教育学院学院長。著書には250万部のベストセラーとなった『頭がいい人、悪い人の話し方』(PHP新書)のほか、『65歳 何もしない勇気』(幻冬舎)、『「頭がいい」の正体は読解力』『笑えるクラシック』(ともに幻冬舎新書)などがある。