エスカレーターの片側を空け、もう一方を歩いて駆け上がる光景は、今や日本の日常に溶け込んでいますが、転倒などの恐れがあり、「やってはいけない行為」です。
7月21日朝には、阪急・大阪梅田駅でも「エスカレーター歩かず立ち止まろうキャンペーン」が実施されました。
全国の鉄道会社が連携し、片側を空けずに両側に立って利用することを呼びかけています。
実際にエスカレーターを製造する会社で特別な許可を得て実験してみると、駆け上がる人が転倒する恐れはもちろん、周囲にいる人を巻き込んでしまう恐れもあることが確認できました。
大阪発祥だというこの習慣。見直すときに来ています。
■エスカレーター事故は2023年から去年までの2年間で「2060件」にも
7月21日朝、阪急・大阪梅田駅で駅員たちが「両側立ってくださ~い!」と呼び掛けました。
行われていたのは全国の鉄道会社で始まった「エスカレーター歩かず立ち止まろうキャンペーン」。
転倒や接触などの事故が後を絶たないことから、片側は空けず両側に立って利用することを呼びかけています。
エスカレーターで発生する事故は、2023年から去年までの2年間で2060件にのぼっています。
街の人からも、「ものが当たって危なかった」「若い人が“ぱぱぱっと”上がってきて怖い」といった声も聞かれました。
■エレベーターは安全対策で「緊急停止」することも 歩いていると転倒しそうに
取材班は、エスカレーターメーカー「フジテック」の工場を訪問。工場内には安全性を検証するための実験装置が備えられていました。
こちらのエスカレーターには大きな事故を防ぐために、およそ8種類の停止ボタンやセンサーが搭載されています。緊急停止が起きることもあり、そのときに歩いていると、非常に危険な状態になります。
記者が特別な許可を得て、安全に配慮して実際に体験しました。
歩いてエスカレーターを降りている最中に急停止が起きると、バランスを保つことも簡単ではありません。
【記者】「2、3段落ちましたね。(止まると)分かっていても、足がもつれる感じ」
さらに人を追い越すように歩く状況を再現すると、近くにいた人を巻き込むような事故が起きかねない状況となりました。
【フジテックビックステップ製作所 中嶋康弘所長】「エスカレーターは歩いて利用するようには設計されておりません。
立ち止まって、ハンドレール(手すり)をもって利用をいただくことが一番安全。両方に乗って効率よく上下に移動してもらいたい」
■「片側空け」の起源は「1967年ごろの大阪・梅田」
エスカレーターが日本で初めて常設されたのは大正時代のこと。場所は東京・日本橋の三越でした。その後、全国に普及し、現在はおよそ7万台にまで増えています。
いつごろからこうした「片側空け」をするようになったのでしょうか。
エスカレーターの歴史に詳しい江戸川大学の斗鬼正一名誉教授によると、片側空けの発祥は大阪だといいます。
【江戸川大学 斗鬼正一名誉教授】「1967年ごろ、大阪の阪急。今の大阪梅田駅ですね。鉄道会社が呼びかけたわけですね」
高度経済成長期の真っ只中、梅田駅が現在の場所に移転したタイミングで、動く歩道やエスカレーターが大量に設置されました。当時はまだ珍しかったそれらの設備を、多くの人が”歩いて”使っていました。
【江戸川大学 斗鬼正一名誉教授】「当時は急ぐことの方がいいことだった。そういう時代背景もありますね」
■発祥の地・大阪では万博直前もあり海外で主流の「左側空け」呼びかけ
そして大阪では当初、海外で主流だった「左側空け(右に立つ)」が呼びかけられました。万博開催の直前という時期も影響したとみられます。
片側を開けることは、大阪から各地に広がりましたが、お隣、京都では「立つのは左側、歩くのは右側」で大阪とは逆。東京でも同様です。
大阪以外の地域では「呼びかけ」がなく、自然発生的に広がったため、日本の交通ルール「左側通行」に近い「右側空け」が定着したとみられています。
■条例化・AI検知 各地で進む”立ち止まり”の推進
しかし現在、この「片側空け」の危険性を受け、対策が動き始めています。
埼玉県や名古屋市は、エスカレーターでの立ち止まり利用を定めた条例を施行。罰則はないものの、施設管理者には利用者への周知義務が課されています。
名古屋市では独自の啓発活動も展開しています。AIが歩行者を自動検知し、音声で注意を促す仕組みです。
【AIのアナウンス】「立ち止まってご利用ください」
取り組みによって名古屋市では、2022年にエスカレーターを歩く人の割合が21.3%だったのが、去年には4.7%と激減しました。
■”急ぐことが美徳”だった時代の遺産
斗鬼名誉教授は、片側空けという習慣が生まれた時代背景をこう分析します。
【江戸川大学 斗鬼正一名誉教授】「『高度経済成長』、『バブル』、いずれも早いことが絶対的によいこと。『邪魔な奴はどけ!』といった価値観が強かった時代に始まった。
『一糸乱れず同じことをするのが美しい』は、20世紀の大量生産の価値感です。もうそれは時代遅れですよね」
急いでいても、ほんの数十秒だけ立ち止まる。
その小さな選択が、誰かの安心につながることになります。
(関西テレビ「newsランナー」2026年7月21日放送)
