生物多様性を保全しようと、県内で企業や大学などが湿地の再生や雨庭の整備に取り組んでいます。先週は国際会議も開かれ広がりをみせる『ネイチャーポジティブ』。その動きを取材しました。
【熊本県立大学 島谷 幸宏 特別教授】
「『ネイチャーポジティブ』って英語だから分かりにくい。私たち日本人が大切にしてきた『自然と共に生きる、水と共に生きる』ということの一つの表現が『ネイチャーポジティブ』」
先週、熊本市で開かれた『グローバル・ネイチャーポジティブ・サミット』。国内で初めて開かれたこの国際会議では生物多様性の損失を食い止め、回復へと反転させるという国連の目標『ネイチャーポジティブ』の実現に向け、議論が重ねられました。
【熊本市 大西 一 史市長】
「『自然環境がダメになれば経済活動もダメになるんだ』と、ネイチャーポジティブという活動にいかに転換することが重要なのかを世界の人たちに発信できる意義は非常に大きい」
7月16日には体験型のツアーもあり、国際会議の参加者が球磨郡相良村にある湿地『瀬戸堤自然生態園』を訪れました。
【相良村 吉松 啓一 村長】
「この場所は昔、田んぼだった」
自然生態園は、かつて腰までつかるほどの湿田でした。
しかし、1990年代に耕作放棄地となり、ヨシなどの背の高い植物が生い茂り陸化が進行。日当たりの良い湿地を好む水生植物やハッチョウトンボなど希少な生き物が徐々に姿を消していきました。
【MS&ADホールディングス 舩曵 真一郎 社長】
「貯水池の機能、効果を高めつつ、生物多様性も維持するというチャレンジングな取り組み」
こうした中、自然の力を生かした防災・減災に取り組む損害保険大手『MS&ADインシュアランスグループ』が熊本県立大学や熊本大学などと連携して2022年から湿地の再生に着手しました。
湿地をよみがえらせることで、生物多様性を保全するとともに、大雨の際に湿地に水をため洪水被害を減らすのが狙いです。
年に5回、全国のグループ社員やその家族が自然生態園を訪れ、地元の住民と一緒に湿地を耕す作業などに汗を流しています。
【MS&ADグループ社員】
「会社がやっている取り組みを身をもって体験できるのはいい」
【MS&ADホールディングス サステナビリティ推進部 須藤 達哉さん】
「現地に足を運んで実際に体験してみることで『百聞は一見にしかず』、得られることは絶対ある」
復元された水場にはフナやメダカ、ドジョウなどの生息が確認され、かつての姿を取り戻しつつあります。
【MS&ADホールディングス サステナビリティ推進部 浦嶋 裕子 上席スペシャリスト】
「ここに雨水が浸透することで湿地の湧水につながるのがとても大事」
また、去年の秋からは新たな取り組みも…、それは〈地下水の保全〉です。
自然生態園の脇には台地があり、そこに染み込んだ雨水が〈湧き水〉となって湿地を潤しています。
この〈湧き水〉を守ろうと、今回、台地の上にある『さがら温泉・茶湯里』の敷地に村と一緒に『雨庭』を整備しました。
駐車場の植栽帯を掘削して深さ約20センチのくぼ地をつくり、その土壌には湿地で刈った草や竹を炭にしたものなどを混ぜ、より多くの雨水が染み込む工夫を施しました。
村を流れる川辺川と豊かな自然をイメージした『雨庭』となっていて、川の石を並べたほか、『ツワブキ』や『ヤマアジサイ』など在来の植物を植えました。
【MS&ADグループ社員】
「(雨庭は)生活に密着していて防災や減災につながりやすい。みんなができるのがすごくいい」
【MS&ADホールディングス サステナビリティ推進部 浦嶋 裕子 上席スペシャリスト】
「水の循環だけでなく物質の循環もできるような『雨庭』になる」
「台地の上の『雨庭』と下にある自然生態園がリンクしてより活動が深まることを期待している」
7月16日は、国際会議の参加者が完成した『雨庭』を見学。整備に携わった大学の研究者や『MS&AD』の担当者から『雨庭』の機能や効果などについて説明を受けました。
その後、参加者は自然生態園に移動し、湿地に生息する生き物を観察。湿地の再生により生物多様性が回復していることを肌で感じていました。
【オーストリアから参加】
「美しく、穏やかな空間でトンボも飛んでいた。自然が本当に復活しているのが分かった」
視察には、国際会議の主催者、ネイチャーポジティブ・イニシアティブのナンバー2も参加。その感想は…。
【ネイチャーポジティブ・イニシアティブ ギャビン・エドワーズ事務局長】
「放置されていた水田が湿地として回復することは自然に利益をもたらすだけでなく、洪水のリスクを軽減することで地域の人々にも利益をもたらす。ここで得られた多くの学びは世界に広げることができると思う」
今回の国際会議で採択された『熊本宣言』でも県内で進められているこうした取り組みが高く評価されました。
企業や大学、地域住民が一体となって進めている相良村の湿地再生プロジェクト。
ここに、生物多様性や地下水を保全する『ネイチャーポジティブ』な取り組みがありました。
