祇園祭まっただなかの、京都。きょう=17日に行われるのが、祇園祭最大の見どころのひとつ「山鉾巡行」。

その始まりを告げる「お稚児さん」が口にする特別なお菓子「稚児餅」。

白味噌を塗って焼き上げた、一見シンプルな串餅は、室町時代から続く老舗料亭が、年に一度、この日のために作り上げる、極めて神聖な一品です。

■長刀鉾のお稚児さんが“神様の使い”になって最初に口にする「稚児餅」

祇園祭のハイライト「山鉾巡行」。その先頭を行くのが「長刀鉾」です。

そして巡行は、長刀鉾に乗る「お稚児さん」が太刀でしめ縄を切ることで、始まりを告げます。

お稚児さんは、7月中、1カ月にわたって様々な神事を担う、祭のシンボルともいえる神聖な存在です。

巡行の4日前、長刀鉾のお稚児さんは、神事「社参の儀」を経て、正式に、“神様の使い”になります。

その直後に、最初に口にするのが「稚児餅」です。

■「稚児餅」の歴史は古く江戸時代に刊行された書物にも

「稚児餅」の歴史は古く、江戸時代に刊行された書物には、こんな記載が。

「毎歳(まいとし)六月朔日には炙餅(あぶりもち)を串にさして豆腐に合わせ味噌引とし、これを合餅(あわせもち)という此日祇園会鉾(ぎおんえほこ)の児(ちご)、其外参詣の人々にもこれを出だす」

祇園祭のお稚児さんに出されたという「合餅(あわせもち)」。これが、今の「稚児餅」の原点です。

■480年もの歴史を誇る「二軒茶屋 中村楼」

数百年前から、祭の中心に存在し続けてきた「稚児餅」。その伝統を守り続けているのが、八坂神社の参道に店を構える「二軒茶屋 中村楼」です。

京料理を楽しめる格式ある老舗料亭として知られる中村楼の創業は、室町時代。

480年もの歴史と文化を誇り、現在の当主・辻雅光さんは12代目にあたります。(※辻さんの「辻」のしんにょう部分は点1つです。)

【辻雅光さん】「参拝のお客さんに、簡単なお煎茶とかを出す腰かけ茶屋として発祥しております。神社の境内は、いろんな今でいう夜店のような出店が出て、信仰の場でありながら娯楽の場であった」

■もともとは「田楽豆腐」が提供されていたが

当初、そこで提供していたのは「田楽豆腐」。評判は上々で、『東海道中膝栗毛』や『都名所図会』にも、人々が中村楼を訪れる様子が描かれています。

では、なぜお餅も提供するようになっていったのでしょうか。

【辻雅光さん】「昔は子どもさんも多くて、いろんな方が神社へお祭りのときに参拝されたと思うんです。

もともと田楽豆腐をやってましたんで、やはりちょっと小腹をふくらますためには、お餅の方がいいんじゃないかというようなことで、お餅に変えていったと」

そうして受け継がれてきた「稚児餅」。大切なのは、昔ながらの“シンプルさ”です。

■「長年の感覚」で継ぎ足しながら作る白味噌

お餅に、粒感を残した白味噌を塗って焼き上げます。

【辻雅光さん】「シンプルなお餅です。やっぱりお供えですので、求肥とか一切入れずに、素朴な味です」

その白味噌の仕上がりには、長年の経験と感覚が凝縮されています。

【辻雅光さん】「毎日ちょっとずつお砂糖とかを足しながらかき混ぜてまろやかにしていく。新しいお味噌を少しずつ足して。うなぎのタレではないんですけど。もう長年の感覚ですね。何十年焼いてきたもんなんで」

「社参の儀」当日に八坂神社へ奉納するための稚児餅を作ることができるのは、当主の辻さんと、次期当主である息子だけです。

【辻雅光さん】「できる限り、昔通りに続けていこうとは思っておりますけれども、やはり神様にお供えするということで、神聖な気持ち、身を清めて、作らしていただいております」

■暑さに弱い白味噌 京都の暑さで味付けにも工夫が

毎年変わらない“神聖な”想いで作り続けてきた稚児餅。しかし近年、困った事情が。それが京都の夏の暑さです。

稚児餅に欠かせない白味噌は、暑さに弱い食材。気温が上がれば傷みやすくなるため、塩分を増やして対応せざるを得ない状況が続いています。

【辻雅光さん】「今年は特に(塩)辛いです。なかなか難しい味付けですし、あまりお砂糖とかをたくさん入れすぎると、味噌がやわらかくなりすぎて、焼くときにお餅から全部ぼとぼと落ちるんで、その辺の加減が非常に難しい」

■中村楼にとって1年で最も忙しい一日

「社参の儀」が行われる7月13日。中村楼にとって1年で最も忙しい一日の始まりです。

早朝から準備にかかりきりになる辻さんと息子。お稚児さんを迎える前に、まず向かうのは八坂神社。稚児餅100本を奉納するためです。

正装である紋付き袴に身を包んだ辻さん。出立の前、稚児餅は火打石で丁寧に清められます。

そして儀式を終え、正式に“神様の使い”となったお稚児さんが中村楼を訪れます。

1年で1日、この日のためだけに作られた稚児餅が供されます。

■「誠心誠意、精進して頑張らないといけない」変わらぬ伝統を重ねていく

今年も無事、稚児餅を届けることができました。儀式を終えた後、辻さんはこのように振り返りました。

【辻雅光さん】「毎年のことながら緊張は当たり前のことですから、やっぱり誠心誠意、精進して頑張らないといけない。神事ですから、それに対しての気持ちで臨まないとね。生活の一部の中にね。大事な行事ですから」

京都に息づく神聖な「稚児餅」。これからも変わらず、伝統を重ねていきます。

(関西テレビ「newsランナー」 2026年7月16日放送)

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