歯の治療に欠かせない入れ歯や矯正装置などを作る歯科技工士。将来的に担い手不足が見込まれている。歯科技工士の技術をどう継承していくか大きな課題となっている。

歯の治療に欠かせない歯科技工士
食べ物をかみ砕き、細かくする咀嚼機能に、唇や舌と連動して正確な発音を可能にする言語機能。人間が生きていく上で重要な役割を果たしている器官、それが「歯」だ。厚生労働省の調査によると、2024年10月時点の国内の歯科診療所は6万6378カ所。歯科医師の指示に基づき、治療に必要な入れ歯や差し歯、詰め物に被せ物、さらには矯正装置などを作っているのが、歯科技工士だ。
静岡市葵区のすえのぶクローバー歯科医院の末延慎司院長は「我々の仕事は歯科技工士がいて初めてできる」とその重要性を強調する。デジタル化が進んでいるものの、それを操るのも歯科技工士であり、最後の細かい調整も歯科技工士の技術は必須だと話す。
歯科技工士が国家資格として法的に整備されたのは1955年。品質や公衆衛生の向上が求められる中で国家資格となった。その歯科技工士が入れ歯や被せ物などを製作する場所が「歯科技工所」だ。すえのぶクローバー歯科医院の歯科技工士、栗山孝司さんによると、技工所それぞれに金属など専門分野があり、それぞれの技工所でさまざまなものを製作しているという。
歯科技工士の長時間労働
しかし、いま歯科技工所が存亡の危機に立たされている。厚生労働省によると、全国に2万278カ所ある歯科技工所だが、ここ10年ほどは減少傾向だ。また、国家資格を取得しても実際に歯科技工士として働く人は25%ほどに留まっているというデータもある。なぜ担い手が減っているのか。

背景の1つが歯科技工士の長時間労働だ。納期が厳しい上に精密さを求められるため、長時間労働になりやすい。一方で、保険で定められた技工料が低いことから、労働時間に対する給与水準が低いとの指摘もある。
静岡市葵区にある歯科技工所「デンタルマンラボ」。7割以上の歯科技工所が1人で業務を行っているが、こちらでは4人の歯科技工士が働いている。しかし20代はわずか1人だけだ。
デンタルマンラボの伊東信人 代表取締役は、歯科技工士として一人前になるには時間がかかり、「タイパ」などと時間の効率を考える最近の若者には続けられない面があるのではと指摘した。
労働時間削減も…原材料の高騰
ただ近年、デジタル技術の進化によってコンピュータでの設計や3Dプリンターなどを活用した製作も可能となり、作業効率は格段に向上している。労働時間も以前と比べて大幅に削減されたが、一方で最新の機械を導入するためには大型の投資が必要で、経営を圧迫するリスクもはらんでいる。さらに、追い打ちをかけているのが昨今の物価高だ。
デンタルマンラボの伊東信人 代表取締役によると、銀歯の材料となるパラジウムは、昔は1袋1万円もしなかったが、今では1袋15万円に高騰しているという。保険で定められた料金も物価高にあわせて上がるものの、追いつかない場合は負担を強いられることになるという。
歯科技工士の賃上げ目指す動きも
原材料の高騰によって収益の確保が難しくなるなか、国は2026年度の診療報酬改定で、歯科技工所のベースアップ支援料を新設した。歯科技工士の確実な賃上げにつなげていくことを目指している。伊東信人 代表取締役は「行政が歯科技工所に目を向けてくれたのは、本当に感謝している」と話した。
また、若手技工士も仕事をしていくなかで、やりがいや重要性を感じている。デンタルマンラボの歯科技工士の望月彪汰さん(25)は、歯科技工士の仕事について「AIに取られない手作業の仕事であり、完成した時にやりがいを感じる」とその魅力を語った。
歯科医療はなくならない
人が生きている以上、歯科治療はなくならず、歯科技工物への需要もなくならない。最近では機能面だけでなく見た目も重視する人が増え、より一層高い技術力が求められている。歯科技工士の育成と医療体制の維持は業界全体の喫緊の課題だ。
(テレビ静岡)

