7月1日から3日にかけて、高市総理大臣がインドを訪問し、ナレンドラ・モディ首相との間で首脳会談を行った。

会談では、両国が培ってきた特別戦略的グローバル・パートナーシップを基盤に、装備品供給などの安全保障をはじめ、経済安全保障やエネルギー、民間投資といった多岐にわたる分野で連携を強化することが確認された。

経済安全保障やエネルギー分野などでの連携強化が確認された
経済安全保障やエネルギー分野などでの連携強化が確認された
この記事の画像(8枚)

高市総理は自身が掲げる「進化版FOIP(自由で開かれたインド太平洋)」を前面に出し、中国による経済的威圧に対抗する姿勢を明確にしたほか、エネルギー安全保障の強化に向けた2国間対話の立ち上げを打ち出した。

日印経済フォーラムで講演
日印経済フォーラムで講演

同時に開催された日印経済フォーラムでは多くの企業間協力文書が取り交わされるなど、確かな外交成果を残した訪問となった。この首脳会談の成功は、現在の日本にとってインドという存在がいかに不可欠であるかを如実に物語っている。

中国への抑止力としてのインド

日本にとってインドの重要性がこれほどまでに高まっている背景には、国際政治における力学の変化と、世界経済の地殻変動という二つの側面からなる必然的な理由が存在する。

政治・安全保障の観点から見れば、第一に、東シナ海や南シナ海、さらにはインド洋へと覇権主義的な動きを強める中国への抑止力として、インドが地政学的に不可欠な存在だからである。

中国軍の台湾周辺での軍事演習 資料
中国軍の台湾周辺での軍事演習 資料

日本はこれまで、民主主義や法の支配といった基本的価値観を共有する諸国との連携を模索してきたが、アジア太平洋とインド洋を結ぶ海上交通路(シーレーン)の結節点に位置するインドは、その戦略の成否を握る要衝となる。

世界一の人口を抱える大国インドを率いるモディ首相
世界一の人口を抱える大国インドを率いるモディ首相

高市総理が掲げる「進化版FOIP(自由で開かれたインド太平洋)」は、力による一方的な現状変更を許さない国際秩序の維持を目的としているが、これはインドのモディ首相が推進する独自の海洋安保構想とも深く共鳴している。

クアッドの首脳会談 2022年5月
クアッドの首脳会談 2022年5月

日米豪印の協力枠組み「Quad(クアッド)」の一角でもあるインドとの間で、防衛当局間の共同訓練の高度化や防衛装備品・技術移転の協定を具体化させることは、地域の平和と安定を自律的に維持するために極めて重要である。

グローバルサウスのリーダー格としてのインド

第二に、多極化が進む国際社会において、グローバルサウスのリーダー格であるインドとの結びつきは、日本の外交的影響力を担保する上で外せない。

ロシアによるウクライナ侵攻の長期化や中東情勢の緊迫化などによって国際社会の分断が深刻化する中、欧米主導の秩序とは一線を画し、独自の全方位外交を展開するインドは、国際世論でその発言力を急速に強めている。

高市総理は「兄・妹として付き合う」とモディ首相と信頼関係を確認したと強調した
高市総理は「兄・妹として付き合う」とモディ首相と信頼関係を確認したと強調した

日本がG7とグローバルサウスとの架け橋として機能し、国際協調の枠組みを維持していくためには、インドを信頼できる最大の戦略的パートナーとして繋ぎ止め、対話を主導していく必要がある。

魅力的な巨大市場・インド

一方、経済・エネルギーの観点から見れば、サプライチェーン(供給網)の多角化と、特定の国に過度に依存しないデリスキングを進める上で、インドは最も有望な受け皿である。

これまで多くの日本企業が製造業の拠点を置いてきた中国との間には、台湾海峡を巡る地政学的リスクや突然の法規制変更といったカントリーリスクが常に燻っている。

中国で行われた反日デモ(湖南省長沙市) 2012年
中国で行われた反日デモ(湖南省長沙市) 2012年

これに対し、世界最大の人口を抱え、中間層の台頭が著しいインドは、魅力的な巨大市場であると同時に、高度なITスキルを持つ優秀な若年労働力が豊富なため、次世代の生産拠点として比類なき潜在能力を有している。

今回の首脳会談で確認されたように、半導体の製造エコシステム構築や、重要鉱物の安定調達、AIをはじめとした最先端・戦略分野での相互補完的な連携は、日本の産業界が次世代の国際競争力を維持するために必要不可欠な要素である。

エネルギー面でも

さらに、エネルギー安全保障の強化という側面でも、インドとの協調は日本の未来を大きく左右する。

カーボンニュートラルの実現に向け、日印企業によるグリーンアンモニアの共同生産や、インドの広大な土地と豊富なバイオマス資源を活用したエネルギー転換など、クリーンエネルギー分野における具体的な協働の本格化は、資源に乏しい日本にとって安定的なクリーンエネルギー供給網を構築するための重要な足がかりとなる。

日本が持つ高度な環境技術と、インドの広大な市場および開発スピードが融合すれば、脱炭素社会の実現に向けた莫大な経済相乗効果を生み出すことができる。

インドとの関係深化は不可避の国家戦略

このように、現在のインドは日本にとって、インド太平洋における戦略的バランスを維持するための政治的な重石であり、持続的な経済成長と強靱なサプライチェーンを確保するための経済的なエンジンでもある。

激動する国際情勢を生き抜き、日本の安全と繁栄を確固たるものにするために日印関係を深化させることは、もはや一時の外交的選択ではなく、日本の国益に直結した長期的かつ不可避な国家戦略と言えよう。

【執筆:株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO 和田大樹】

和田大樹
和田大樹

CEO, Strategic Intelligence Inc. / 代表取締役社長
専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障、地政学リスクなど。海外研究機関や国内の大学で特任教授や非常勤講師を兼務。また、国内外の企業に対して地政学リスク分野で情報提供を行うインテリジェンス会社の代表を務める。