つまり、この社会化期が終わるまでに特定の食事しか与えられていないと、それ以外のものを食事と認識しなくなってしまいます。こうして、食べたことがないものを絶対に食べず、決まったものしか食べない頑固な猫さんが誕生してしまうのです。冒頭のお話であった「高級猫缶の値段と食いつきが比例しない理由」も明らかになりましたね。うちの子、カリカリは好きなのに、ウェットフードを食べないんですよ~なんてよく聞くセリフですが、それは社会化期にウェットフードを食べる経験がなかったからかもしれません。

猫さんも食育が大切

いかがだったでしょうか。猫の食の好みや気難しさは、その性格だけでなく、特に社会化期にどのような食事を経験してきたかに大きく左右されます。一度決まった好みを後から変えるのは難しく、幼い頃の経験がその後の食生活を大きく決めてしまうのです。

限られた食事しか食べない子だと、いざ療法食に切り替えようとしたときに食べてくれないリスクがあります。なんでも食べる子に育つよう、猫も幼いころから食育が必要なのです。社会化期の猫さんには、ちょっと高いごはんでも、食育だと思っていろいろ経験させてあげるのが良いかもしれません。

日々のごはん選びは、単なる食事ではなく、将来の健康や暮らしやすさにもつながる大切な積み重ねです。気難しさも個性として楽しみながら、早い段階で多様な経験をさせてあげることが、猫さんとのより良い暮らしにつながっていくでしょう。

食わず嫌いを直す対策はないの?

なお、これまで食べてたフードが廃版になった、療法食に切り替えが必要になったなど、急にごはんを変えねばならないこともあるかもしれません。

しかし、一度決まってしまった好みを変えることは非常に困難です。うまく切り替えるには、これまで食べていたごはんに少しずつ混ぜ、1~4週間など時間をかけて、新しいご飯の量を増やしていく工夫が必要でしょう。あるいは、同じメーカーなど近い味で食べる食事を複数見つけておくことも対策になるかもしれません。

今日もまた、猫の心に寄り添えた気がします。

岩崎永治(いわざき・えいじ)
博士(獣医学)。専門は猫の栄養学。一般社団法人日本ペット栄養学会代議員。麻布大学獣医学部寄付講座ペットケア&ニュートリション研究室特任准教授。

岩崎永治
岩崎永治

1983年群馬県生まれ。博士(獣医学)、一般社団法人日本ペット栄養学会代議員。日本ペットフード株式会社に就職後、イリノイ大学アニマルサイエンス学科へ2度にわたって留学、日本獣医生命科学大学大学院研究生を経て博士号を取得。現在は麻布大学獣医学部寄付講座ペットケア&ニュートリション研究室特任准教授。専門は猫の栄養学。「かわいいだけじゃない猫」を伝えることを信条に掲げ、日本猫のルーツを探求している。〈和猫研究所〉を立ち上げ、SNSなどで各地の猫にまつわる情報を発信している。著書に『和猫のあしあと 東京の猫伝説をたどる』(緑書房)、『猫はなぜごはんに飽きるのか? 猫ごはん博士が教える「おいしさ」の秘密』(集英社)。