熱はない。でも鼻水が出て、下痢が続く。咳っぽい。なんとなくだるい――。そんな「はっきりしない体調不良」が長引いていないだろうか。

いまSNSで「謎風邪」と呼ばれる症状が全国的に話題となっており、山陰地方でも同様の訴えを持つ患者が増えている。インフルエンザでもコロナでもない。検査をしても「陰性」。それなのに症状はなかなか治まらない。

鳥取・米子市の小児科医は「ヒトメタニューモからRSウイルス、手足口病、プール熱まで本当に全部ごちゃごちゃに流行っている」と語る。この「謎風邪」の正体とは何か。そして、なぜ症状が長引くのか。現場の医師の声を交えながら詳しく見ていく。

「なんとなく風邪っぽい」が続く―小児科に子どもが次々と

米子市内の小児科クリニック「米子こどもクリニック」の待合室には、連日たくさんの子どもたちが訪れている。診察室からは田本直弘医師の声が聞こえてくる。

「風邪だね。ただ長引いているだけだな、熱はないですもんね?」

保護者のひとりはこう話す。「3日、4日くらい続いています。吐きはないです。下痢だけ。熱もないです。鼻は出てますね。咳はないですね」。
田本医師の診断は「いわゆる夏風邪」だという。

山陰でも急増「謎風邪」
山陰でも急増「謎風邪」
この記事の画像(6枚)

こうした症状の子どもが今、山陰でも急増している。発熱があるわけではない。激しい咳があるわけでもない。しかし「なんとなく体調が優れない」状態がずるずると続く――。まさにこれが、いまSNSを中心に広まっている「謎風邪」と呼ばれる症状の典型的なパターンだ。

「謎風邪」とは何か――10種類以上のウイルスが原因

「謎風邪」という言葉は、医学的な正式名称ではない。インフルエンザやコロナウイルスの検査を受けても「陰性」となり、原因がはっきりしないにもかかわらず風邪のような症状が長く続く体調不良を指す俗称として、SNS上で広まったものだ。

では、その正体は何なのか。田本医師はこう説明する。

「ヒトメタニューモとかRSウイルスのようなグループもあれば、手足口病とかプール熱など、夏風邪系のものまで本当に全部ごちゃごちゃに流行っている。こうした、いわゆる謎風邪と呼ばれているグループは検査キットがないので、多分これでしょうと(見立てる)」

「謎風邪」は10種類以上のウイルスが原因
「謎風邪」は10種類以上のウイルスが原因

つまり、「謎風邪」の正体は、特定の1つのウイルスではない。この時期に流行する感染症の原因となるウイルスは10種類以上にのぼり、しかも多くは市販・医療機関での簡易検査キットが存在しないため、特定が非常に難しい。医師であっても「おそらくこれだろう」という見立てにとどまらざるを得ないのが現状だ。

ヒトメタニューモウイルスは、乳幼児や高齢者に肺炎を引き起こすこともあるウイルスで、RSウイルスとともに秋から春にかけての流行が知られているが、近年は季節を問わず検出される例もある。手足口病やプール熱(咽頭結膜熱)は夏の風物詩とも言える感染症で、子どもを中心に毎年流行を繰り返す。こうした複数のウイルスが今シーズンは同時多発的に流行しているという。

症状が長引く本当の理由――「治ったと思ったらまた別の感染症に」

「謎風邪」の厄介な点は、症状が長引くことにある。なぜ長引くのか。その理由は、複数のウイルスが同時流行しているという状況と深く関わっている。

田本医師によると、今シーズンは同時に複数のウイルスが流行しているため、ひとつの感染症が治ってもすぐに別の感染症にかかってしまうケースが多いという。つまり、「長引いている」ように見えても、実際には複数の感染症に連続してかかっている可能性が高いのだ。

体調が回復しきらないうちに次のウイルスにさらされ、また症状が出る。その繰り返しが「なんとなく体調が悪い状態が続く」という印象を生み出している。これはいわば「謎風邪の連鎖」とも言える状態だ。

特に危ないのは小さい子ども――「だんだんこじれてしまう」

免疫機能が発達していない子どもは要注意
免疫機能が発達していない子どもは要注意

この「連鎖」が特に深刻な影響を与えるのが、免疫機能がまだ十分に発達していない小さな子どもたちだ。田本医師は強い口調でこう警告する。

「特に小さい子どもは免疫が回復する間がなく次にかかって、もっと弱ったところに次がまた来るので、だんだんこじれてしまう」

一度感染症にかかると、体の免疫系はその回復のために総動員される。通常であれば回復後に免疫が再び整い、次の感染に備える余裕が生まれる。しかし複数のウイルスが次々と押し寄せる状況では、免疫が立て直しを図る時間的な余裕がない。その結果、軽い感染症が重なることで症状が悪化したり、回復に時間がかかったりする「こじれ」が生じてしまう。

免疫力が低い乳幼児はもちろんのこと、高齢者や体力が低下している人も同様のリスクを抱えている。山陰地方は高齢者の割合が高い地域でもあり、こうした「謎風邪の連鎖」が地域社会全体に与える影響は決して小さくない。

さらに怖い「その先」――コロナ・インフルの流行期と重なるリスク

免疫力が低下すると一気に感染が拡大するおそれ
免疫力が低下すると一気に感染が拡大するおそれ

田本医師が特に懸念しているのは、「謎風邪の連鎖」が続くなかで、コロナウイルスやインフルエンザの本格的な流行期を迎えた場合のシナリオだ。

免疫力が低下した人が地域に多い状況で新型コロナやインフルエンザの流行期を迎えると、一気に感染が拡大する恐れがあるという。「謎風邪」そのものは症状が比較的軽いとしても、それが積み重なって免疫を消耗させ続けることで、より重篤な感染症への入口になりかねないのだ。

これは個人の問題にとどまらない。保育園や学校、職場といったコミュニティ単位での感染拡大にもつながりうる。地域全体の健康水準を守るためにも、「謎風邪の連鎖」を早期に断ち切ることが重要だと田本医師は訴える。

「連鎖を断ち切る」ために――保育園・学校への登園をいったん諦める勇気

「連鎖」を断ち切ることが重要だと話す田本医師
「連鎖」を断ち切ることが重要だと話す田本医師

では、こうした「謎風邪の連鎖」を防ぐためには何ができるのか。田本医師はひとつの具体的なアドバイスを示している。

「(症状が長引くようなら)いったん諦めてというかご自宅で療養して、ある程度回復してから保育園に行くのが、どっかのタイミングではリセットとしては必要」

症状が落ち着いたからといってすぐに保育園や学校に戻すのではなく、十分に体力・免疫が回復するまで自宅で休ませる。このひと手間が「連鎖」を断ち切るうえで極めて重要だという。

「少し元気になったからもう大丈夫」と判断して早々に集団生活に戻すことで、子ども自身が次のウイルスにさらされる機会を増やしてしまう。また、まだ感染力が残っている場合には、他の子どもへの感染拡大を招くリスクもある。「謎風邪は大したことない」と軽く見ず、しっかりと休養を取ることが、子ども本人にとっても地域コミュニティにとっても最善の対策となる。

早期受診を心がけて――「少しでも違和感があれば」

田本医師はまた、症状が軽くても早めの受診を呼びかけている。「謎風邪」自体の症状はたしかに比較的軽いことが多い。しかし前述のとおり、免疫が回復しきらないうちに次の感染症にかかることで症状が悪化するリスクがある。少しでも「いつもと違う」と感じたら、早期に医療機関を受診することが重要だ。

医師の立場から適切な見立てを受けることで、ただの疲れなのか、感染症なのか、または他の疾患の可能性があるのかを早めに判断してもらえる。特に小さな子どもを持つ保護者は、「熱がないから大丈夫」と判断せず、体調の変化を見逃さないようにしてほしい。

予防の基本は「手洗い30秒以上」――アルコール消毒だけでは不十分

「謎風邪」の予防において、最も重要なのは基本的な感染対策の徹底だ。しかし、ひとつ注意が必要な点がある。

「謎風邪」の原因とされるウイルスのなかには、アルコール消毒が効かないものも含まれている。手足口病の原因となるエンテロウイルスやノロウイルスなどがその代表例で、こうしたウイルスにはアルコールによる不活化の効果が期待しにくい。

そのため、アルコール消毒だけに頼るのではなく、石けんと流水による手洗いを30秒以上かけてしっかり行うことが何より重要だ。外出後、食事前、トイレの後はもちろん、子どもの鼻をかんだ後や子どもの世話をした後なども、丁寧な手洗いを習慣づけることが感染予防の第一歩となる。

(TSKさんいん中央テレビ)

TSKさんいん中央テレビ
TSKさんいん中央テレビ

鳥取・島根の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。