政府が成長戦略の柱の一つに掲げる「裁量労働制」の見直し。対象業務の拡大を検討するなか、現場では深刻な実態が明らかになっています。
高市早苗総理は「成長のスイッチを押して押して押して押して押しまくってまいります」と大号令をかけましたが、制度の“副作用”を訴える声は後を絶ちません。
■裁量労働制とは
裁量労働制とは、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ決められた時間を働いたとみなして賃金が支払われる制度です。
残業時間に応じて残業代が支払われる通常の制度とは異なります。デザイナー、システムエンジニア、公認会計士などが対象となる「専門業務型」と、事業の運営に関して企画・立案などを行う「企画業務型」の2種類があります。
政府の主張は「労働者が柔軟に働くことができ、その結果として日本経済の生産性が上向く」というものです。労働者にも企業にも国にとっても、うまみのある制度のはず。
しかし現場の実態は、そうした理想とは大きく乖離していました。
■「サブスクだと思う」元広告代理店社員が語る過酷な日々
広告代理店に10年ほど勤務していたAさんは、コピーライターに憧れて就職しましたが、その会社が採用していたのは「名ばかりの裁量労働」でした。
当時の勤務表には、40時間のみなし残業に対して実際の残業時間はその2.5倍にあたる、およそ100時間という数字が記されています。
「裁量はなかったですね。もうほぼパソコンに向かって1日中やってる感じでした」と話すAさん。残業時間は青天井だったといい、「完徹することも」あったといいます。
その後、Aさんは転職し、働いた分だけ残業代がつく仕事に就きました。「今は人間的な生活ができているので辞めてよかった。100時間残業していたらどれだけ残業代が入ったんだろうなと思うと、やっぱりサブスクだと思いますね」と話します。
■「裁量は全然なかった」月20時間のみなし残業、実態は166時間 経験積むと裁量労働のメリットも感じるように
裁量労働制を2社で経験してきた女性も、若手の頃は「裁量は全然なかった」と過酷さを証言しています。
「裁量は全然なかったです。若かったし、結局自分で決められないし、仕事内容とかも人に聞かなきゃいけなかったりするような感じだと、判断がつかない」と語ります。
月20時間のみなし残業に対して、多い月はその8倍にあたる166時間もの残業をこなしていました。
【裁量労働制を2社で経験した女性】「午前0時50分の終電に間に合うようにと思って帰っていたことはすごく覚えています」
一方で、30代半ばになって経験を積むと状況は変わりました。
「仕事も少しわかるようになっているから、自分でコントロールもある程度できるようになっていて、それと子どもがいるということがうまい具合に働いて、裁量労働の恩恵を受けていた」と振り返ります。
裁量労働制は、年齢や経験、立場によって実態が大きく異なることが分かりました。
■「倒れたり亡くなったりしたときにどうするんですか」
「過労」のリスクが伴う裁量労働制で夫を亡くした女性は、政府が対象業務の拡大を検討していることを知り、強い危機感を示します。
今から26年前、渡辺さんは裁量労働で働く夫を失いました。背景にあったのは「過労」でした。
渡辺さんは「仕事は毎日終電で帰ってきていました。朝は6時台には出ていって、土曜日も出社していました」と当時を振り返ります。
【渡辺しのぶさん】「過労死で人が亡くなっているのに、長時間労働が増えるかもしれない仕組みを検討する国もどうかと思います。もし倒れたり、働けなくなったり、最悪亡くなったりしたときにどうするんですか」
■12年続いた裁量労働制を5年前に廃止した企業「生産性は廃止後に上がった」
長時間労働の恐れを抱えた裁量労働制に、一転して廃止を決断した企業もあります。
大阪市に本社を構える塩野義製薬は、約12年続いた営業職や研究職での裁量労働制を5年前に廃止しました。
人事部の河本高歩部長は廃止の理由をこう説明しています。
【塩野義製薬人事部 河本高歩部長】「働き方がすごく曖昧になっていき、ただただ長く働いてしまっているということも散見できたので、この機会に一旦裁量労働を廃止して、生産性高く働いてもらう、時間を意識して働いてもらうということを目指していこうと思いました」
さらに、社員から「裁量なのになんで労働時間をちゃんと申告しなきゃいけないんだ」という声が上がっていたことも廃止の一因でした。
廃止後の成果について、河本部長は「変更後の総労働時間は塩野義全体では大きく下がっています」と語ります。生産性向上と長時間労働の抑制が、廃止によって同時に達成されたということです。
■「一概に広げていけばいいわけでもない」専門家が指摘する制度設計の課題
労働問題に詳しい三浦宏太弁護士は、自由な働き方が実現できるというメリットもあるとした上で、こう述べています。
【NEW STAGE 三浦宏太弁護士】「どうしても長時間働いてしまうというデメリットが出てきますし、制度としてなかなか難しい部分もあるかなと思います」
その上で、従業員の選択権の重要性を訴えます。
【NEW STAGE 三浦宏太弁護士】「リスクも内在している制度なので、従業員の方自身が選択できる制度にしていくことがいいのかなと思います」
政府が対象業務の拡大を検討している点については、「どうやって制度設計をしていくのか、管理体制をどうしていくのか、そういった課題はたくさんあると思うので、一概に広げていけばいいというわけでもないのかなと思います」と指摘しています。
(関西テレビ「newsランナー」 2026年6月22日放送)
