世の中には様々なストレス解消法があるが、奈良先端科学技術大学院大学の研究チームが全く新しい形でストレスを和らげる手法を作り上げた。

その名も「くすぐってみ~な」だ。

画像提供:サイバネティクス・リアリティ工学研究室 吉満氏
画像提供:サイバネティクス・リアリティ工学研究室 吉満氏
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このシステムは、目にはHMD(ヘッドマウントディスプレイ)、両手にチューブ付きのゴム手袋とセンサーを装着することで、自分の脇腹などをくすぐると、まるで他人からくすぐられているような感覚が得られるというのだ。

「笑い」はストレスを低減し免疫力を高めるとされており、「くすぐってみ~な」を使ってくすぐることで笑いが生じ、ストレスを軽減するのが狙いだという。

しかしお分かりだと思うが、自分で自分をくすぐっても全く笑うことはできない。これは自分の動きを自分で予測しているためだといわれており、その予測に基づいてくすぐられる感覚をキャンセルしてしまうのが原因だという。

そこで「くすぐってみ~な」は、動きの予測ができないように、他人からくすぐられている感覚をVR空間で再現することなどに挑んでいる。
 

まずHMDには、開発者が自由に使える仮想人型アバターの「Unityちゃん」が、ユーザーの手の動きに合わせて脇腹あたりをくすぐってくる映像が映し出される。

さらに、空気をランダムに出し入れできるゴム手袋を使うことで、動きの予測と感覚に「ずれ」を生じさせるのだという。

ただし予備実験段階では、手袋全体に空気を入れるだけでは大きな効果がなかったとして、指先だけ空気を出し入れする方法と、指先に羽を取り付ける方法を試したそうだ。

手袋の指先に羽を付けた
手袋の指先に羽を付けた

ちなみに、早稲田大学は2014年に脇腹をくすぐるロボットハンドを開発している。これに対し奈良先端大の研究チームは、ロボットハンドでは人間の手のような精密な動作はできないことや製作コストの高さを指摘し、VRシステムの開発に至ったという。

なお、この「くすぐってみ~な」は、VRの大会であるIVRC(Interverse Virtual Reality Challenge)に出展された作品で、編集部では同大会に出た仮想的に彼女との手つなぎ歩きを再現する「お散歩彼女」を以前紹介している。

(参照記事:彼女を作るよりも簡単に“手つなぎデート”を体験?大学生が作ったロボットに熱意を感じる

このように、とても興味深い研究だが、果たしてセルフくすぐりでどれだけ笑えるのだろうか? そしてリラックス効果は? 研究チームのリーダーである、サイバネティクス・リアリティ工学研究室の吉満匡展さんに聞いてみた。

VR技術で人々を笑顔にしたい

――開発でこだわった部分を教えて

くすぐったさの表現方法です。特に仮想人型アバターにくすぐられている映像にこだわりました。くすぐっている時の手の動きを事前に収録し、体験者の手の位置情報に合わせて表示させることで、リアルタイムにくすぐられている状況を表現しました。


――ロボットハンドなど他研究と比べたメリット・デメリットは?

比較実験を行えていないので、分からないというのが正直なところですが、実際に人の手でくすぐることができるので、この点に関しては卓越性があります。他の研究よりも優れている部分は、身体への負荷が低いこと、コストが少ないことです。そうでない部分は、デバイスの装着がしづらいことです。


――どのぐらいくすぐったい?

研究室のメンバーで実験を行ったところ、5人中3人がくすぐったいと感じていました。しかし、定量的な効果を主張するには人数を増やすなどもっと詳しく調査する必要があると思います。


――「指先だけ空気を入れる」と「羽をつける」はどちらがくすぐったかった?

「羽をつける」の方が、羽に遊びをもたせることによって、脳の予測と触覚フィードバックのずれを表現しやすかったため、効果が高かったと思います。


――そもそも、なぜ「くすぐり」に注目したの?

私は元々、人間感覚の相互作用に興味があり、VR技術を応用して、人々を笑顔にしたいと考えていました。そして昨今のCOVID-19の影響によるコロナ離婚や喧嘩などの報道を目にしたときに人々がストレスや不安感を抱えやすくなっているのではないかと考え、これらを解消することで、人々を笑顔にできるのではないかと考えて、開発に至りました。

人間感覚の中でくすぐりを選択した理由は、人間のストレスや不安感を解消することを目的とした先行研究を調べていく中で、くすぐりという手法が最も身近で効果的ではないかと考えたからです。


――ストレス緩和効果はどれくらい?

ストレス緩和に対する実験は、まだ行えていませんが、くすぐりによる笑いは誘発させることはできているので、ストレス緩和の効果は期待できると考えています
 

くすぐりと笑いを追究する研究で、実際に使っている場面もユーモラスなのだが、開発動機はいたって真面目なものだった。

「くすぐってみ~な」で本当に笑えるかについては、まだ改良の余地がありそうだが、人々を笑顔にするための研究はこれからも続けてほしい。
 

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プライムオンライン編集部
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