明治39年の創業以来、120年にわたりオホーツク地域とともに歩んできた総合建設業、渡辺組。建設業を軸に、ホテル運営や高校生向け下宿、食品加工など多角的な事業を展開し、2023年にはホールディングス体制へ移行しました。今回は、地域に最も必要とされる会社を目指す、代表取締役社長の渡辺勇喜さんに、グローバルな視点とローカルな熱量で挑む経営の真髄について聞きました。
航空会社での経験と、家業を継ぐという覚悟
――渡辺さんは、どのような子供時代を過ごされたのですか。
「遠軽町で生まれた典型的な野球少年でした。体が大きくなかったため甲子園の夢は諦めましたが、札幌の私立中学へ進学し、寮生活を送りました。昔から学校祭の企画やイベント運営など、自分で何かを企てて形にすることが大好きで、大学でもマーケティングを学びました。就職活動では『働いていて楽しい会社』を軸に選び、ANAに入社しました。九州での営業経験を経て、東京本社でウェブサイト運営や『ANAのふるさと納税』といった新規事業の立ち上げに約13年間携わりました」
――順調なキャリアから、なぜ実家に戻る決断をされたのですか。
「30代半ばになり、人生の次のステップを考える中で、高齢になった父と家業の将来を真剣に考えました。葛藤もありましたが、覚悟を決めて2018年に帰郷しました。建設業は信頼商売です。戻ってからの1、2年は、町の方々に『息子が帰ってきた』と知ってもらい、信頼を積み重ねることに全力を注ぎました。そして2020年、帰郷から3年で社長に就任しました」
――先代からの引き継ぎは、どのような形で行われたのですか。
「非常に珍しいケースだと思いますが、株主総会で社長が交代した翌日には、父は会社から去りました。あとは任せたという姿勢で、経営の意思決定を私に一本化したのです。会長と社長が並立して指示を出すと組織が混乱しますし、地域の方々も誰に相談すべきか迷います。息子に全権を委ねることで、社内外に対して責任の所在を明確にしてくれた父の判断は、会社にとっても地域にとっても、ありがたい引き継ぎでした」
地域課題を解決する、多角的な事業展開
――建設業にとどまらず、ホテルや下宿など多角的な事業を行っていますね。
「経営の基本からすればタブーかもしれませんが、弊社は『地域の課題解決』を軸に事業を広げています。例えばホテル経営は、昭和50年代に町に宿泊施設や宴会場が不足し、人を呼び込めないという課題があった際、祖父が名乗り出たのが始まりです。高校生向けの下宿も同様で、遠軽高校へ部活動のために道内から入学してくる生徒の受け皿がないという困りごとに対し、私たちが寮を建てて運営を始めました」
――地域課題をビジネスに変えるという考え方は、どのように培われたのですか。
「地域が困っていることは、ニーズの裏返しです。世の中が困っていないことをビジネスにしても成功しません。利益が出るかどうかは別の話ですが、地域課題を解決することで感謝され、その信頼が本業の建設業に返ってくる。そうした繋がりを大切にしています」
「ワンチーム遠軽」で創る、誇れる町の未来
――遠軽高校の部活動支援も非常にユニークな取り組みですね。
「吹奏楽、ラグビー、野球など強豪部活動を応援するため、プロチームのようなブランディングを行っています。旧白滝村で出土した日本最古の国宝・黒曜石の矢じりをモチーフに、ラグビー部のチーム名を『ブラックストーンズ』と名付けました。黒を基調としたユニフォームやバスを仕立て、憧れを生むことで、さらに入学したくなる仕組みを作っています」
――その取り組みは、町全体にどのような影響を与えていますか。
「最初は高校のためでしたが、今では町内の民間企業や役場も賛同し、夏になるとみんなが同じロゴ入りの黒いポロシャツを着て『ワンチーム遠軽』として活動しています。なぜそこまで頑張るのかと聞かれますが、地域愛や北海道愛が強すぎて、何かを変えたい、盛り上げたいという気持ちが抑えられないのです」
建設業が支える、オホーツクの持続可能な未来
――今後の展望について、どのように描いていますか。
「人口減少は避けられませんが、オホーツクは一次産業が非常に強い地域です。食に求められる役割は今後も絶対に続きます。そして、その畑や港、山や川といったインフラを整備し、維持していくのが建設業の役割です。一次産業がある限り、建設業は不可欠です。私たちの役割は、これからも増え続けると確信しています」
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