広大な自然でのびのびと走る馬。
サラブレッドの産地として発展してきた北海道の町にある変化が起きています。

競走馬育成の担い手が減少していることから、インド人の移住者が増えているんです。
地域住民と共生する町の姿を追いました。

青空のもと、力強くコースを駆ける競走馬たち。
ここはサラブレッドの一大産地として知られる北海道・浦河町です。

人口約1万人のこの町には約180もの牧場があり、まさに“馬のまち”として発展してきましたが、近年、馬を育てる現場に異変が起きていました。

牧場の経営者:
人口の減少とともに馬が好きな人も比例して減っていって、大体の日本人は本州などの方に…。

浦河町では人口減少のあおりを受け、馬の育成に大きな影響を及ぼしているのです。

そうした中、“馬のまち”の危機を救ったのは、海外から日本へと渡ってきた救世主たちでした。

慣れた手つきで馬の世話をするのは、「騎乗員」と呼ばれるインド人スタッフたちです。

牧場の経営者:
日本人だけでやっていこうと思ったら、今の馬を5分の1ぐらいに(縮小)しないと仕事はやっていけなくなりますね。

人手不足に悩む“馬のまち”を取材すると、見えてきたのは、働き手として牧場を支えるインド人がもたらした地域の変化でした。

朝日が昇る午前5時半ごろ、取材班が訪れたのは、競走馬の生産や育成を行う牧場「森本スティーブル」です。

こちらの牧場では、競走馬の調教や育てた馬を販売するため、馬主から預かった100頭ほどの馬を育てています。

日本に来て7年目となるインド人のアティシュさん(38)。
5年前から、この牧場で騎乗員として働いています。

「騎乗員」とは、競走馬を育成・調教するスタッフのこと。

牧場に来て最初に行う仕事は、馬の体作りに欠かせない餌やりです。

10年前まで日本人スタッフのみだったこちらの牧場は、現在40人が勤務していますが、そのうち半数はインド人スタッフだといいます。

しかし、なぜインド人を受け入れたのでしょうか。
そこには、こんな訳が。

森本スティーブル・森本敏正社長:
(インドの)競馬場で働いて10年以上の経験を経てきている人たちばかり。来ていきなり即戦力として使えるっていうのは大きい。

インドでは、イギリスの植民地時代に根付いた競馬文化の影響で、馬の扱いにたけた人材が豊富だといいます。

そのため浦河町内の複数の牧場でインド人を積極的に受け入れた結果、12年前は0人だったのが、現在では413人がこの町で暮らすようになりました。

馬具を取り付け、馬に乗るアティシュさん。
向かった先は日本最大級の競走馬育成・調教施設BTC。
東京ドーム約85個分もの広大な敷地には、様々なトレーニングコースが整備されています。

長さ1.2kmの直線コースを一気に駆け抜けると、休む間もなく1kmに及ぶ坂道トレーニングも。

馬の状態を注意深く観察するアティシュさん。
日本で働く中で騎乗や多くの馬の手入れも経験し、日本式の育成・調教技術を着実に習得。
その技術の高さは場長の工藤さんも評価しています。

森本スティーブル 場長・工藤桂さん:
馬に初めて人を乗せられるようにする訓練。(アティシュさんは)それにたけているんで。僕はもう頼りにして任せている。

来日7年目・アティシュさん:
場長さんは私を信頼してくれて、たくさんサポートしてくれています。

こうして築き上げられた信頼関係は、牧場を経営する森本社長の意識にも変化をもたらしました。

森本スティーブル・森本敏正社長:
(日本人)スタッフとうまくやっていけるのか、いろんな不安はありましたけど、彼らのためにもっといい環境づくりをしていかなきゃいけないなと。

午前の仕事を終えたアティシュさん。
ランチタイムに向かったのは、スパイスが食欲をそそる本場さながらのカレー店「バハラットレストラン」。

実はこの店、牧場で働くスタッフのため、インド人のシェフを雇い、森本社長が5年ほど前にオープンしたというのです。

森本スティーブル・森本敏正社長:
インド人が集まって楽しめる場所があればいいなっていうことで(店をオープン)。お昼ご飯は自分たちで作らなくてもいいように。

スタッフに昼食を無料で賄っているといいます。

牧場のインド人スタッフは「とてもおいしいよ」「故郷と同じ味」と話していました。

インド人が多く暮らすようになって以来、町全体も変わりつつあります。

「コープさっぽろ パセオ堺町店」では、インド人の客が分かりやすいように店内の至る所にヒンディー語が。

さらに、肉によっては宗教上食べられない場合があるため、鶏肉や豚肉などの売り場を見分けやすくしています。

コープさっぽろ パセオ堺町店・松川幸子店長:
こちらから鶏肉、こちらから豚肉という表記を(ヒンディー語の)文字とともに。

そして、こちらの店でもインド人スタッフの姿が。

流ちょうな日本語で接客するクマールさん。
セルフレジの使い方を教えるなど、増加するインド人の客をサポートしています。

2025年7月から勤務・クマールさん:
日本人と一緒に仕事をするのは私の夢でした。(スタッフから)いろいろアドバイスをもらって今も頑張っています。

夕方、1日の仕事を終えて帰宅したアティシュさん。
妻のプジャさんと2人の子供たちに迎えられると、食卓にはインド料理がずらりと並びます。

来日7年目・アティシュさん:
家族と一緒に日本で暮らすのが夢でした。日本に来られて本当に幸せだし、家族も喜んでいます。

2つの国の文化を超えた信頼が、日本のサラブレッド産地・浦河町の未来をつないでいます。

山崎夕貴キャスター:
浦河町のサラブレッドを支えているのは、実はインド人スタッフの力も大きいようですね。

三宅正治キャスター:
競馬実況に長く携わってきましたけれども、浦河がこういう状況になってるのは知らなかったですね。競馬っていうのは、今や日本が世界に誇る文化にまで成長してきてるんですね。その文化を、インドの皆さんがこうやって支えてくださっているというのは、すごくありがたい気持ちになる反面、やっぱり日本の若者たちにも何か興味を持ってもらえたらなという、そういう気持ちもやっぱりありますね。

山崎夕貴キャスター:
社長の森本さんは、インド人たちに日本で長く活躍してもらうことで、人手不足で縮小しつつある産業を支えてほしいという思いから環境整備をしているということです。