日本人の2人に1人が、がんに罹患します。
そして今、国内外の多くの大学や企業で治験や研究が行われている、画期的で最先端のがん治療法があります。
それは、がんの「ウイルス療法」。
多くのがんへの適用が期待でき、また副作用も少ないとして大きな注目が集まっています。
5月には、東大の研究グループが次世代型ウイルスを開発し、新たに治験を開始しました。
どのような治療で、費用はどれくらいかかるのでしょうか。
今回、松本 学医師(きだ呼吸器・リハビリクリニック院長)の監修で、がんのウイルス療法についてまとめました。
がん細胞だけを攻撃するウイルス
がんの治療方法は主に、「手術療法」「放射線治療」「化学治療(抗がん剤)」「免疫療法」の4種類があります。そして第5の新しい治療法として注目を集めているのが「ウイルス療法」なのです。
ウイルスは、生物に感染して増殖することで、なんらかの症状を引き起こすもので、新型コロナウイルスをはじめ、一般にはあまり良いイメージがないかもしれません。
しかし、ウイルス療法で使用されるのは、遺伝子組み換え技術などによって「がん細胞の中だけで増殖し、正常な細胞は傷つけない」よう、安全に設計されたウイルスです。
ウイルス療法では、まず「がん細胞だけを攻撃するウイルス」をがん細胞に注入します。
がん細胞にピンポイントで感染したウイルスは、その内部で爆発的に増殖します。

限界まで増殖すると、がん細胞は破裂(溶解)して死滅するのです。
ウイルスが増殖していくことで、がん細胞を次々と死滅させていきますが、正常な細胞が傷つくことはありません。
“免疫スイッチ”を強力にオン
そして、ウイルス療法が画期的な、もうひとつの仕組みがあります。
それは、体内の“免疫スイッチ”を強力にオンにする「ダブルの効果」がある点です。
本来、がん細胞は免疫の攻撃から逃れるブレーキ(免疫チェックポイント)を持っていたり、周囲の環境を「免疫細胞が活動しにくい状態」に整えたりして身を守っています。
ここにウイルス療法が加わることで、状況がガラリと変わります。

ウイルス療法によって、がん細胞が破裂するときに、がんの目印(がん抗原)や免疫を刺激する物質が周囲に飛び散ります。
これを見つけた体内の免疫細胞(T細胞など)が「これは敵だ!」と認識して活性化。がん細胞を攻撃し始めるようになります。
さらに、活性化した免疫細胞は血流に乗って全身を巡ります。
これにより、ウイルスを直接注射していない離れた場所の転移がんや、目に見えない微小な転移がんに対しても、免疫細胞が攻撃を仕掛けるようになるのです。
ウイルス療法と免疫療法を併用すれば、その効果にブーストがかかることが期待されます。
ウイルスで火をつけ、免疫チェックポイント阻害薬で燃え広がらせるようイメージです。
ほとんどない副作用
また、ウイルス療法は固形がん全般に対して同様のメカニズムで作用することが、動物実験で分かっています
抗がん剤のように、「髪が抜ける」「強い吐き気が続く」といった副作用はほとんどないのも大きな特徴です。
発熱、悪寒、倦怠感などが現れることもありますが、多くは一時的なこととされています。
ウイルス療法にかかる費用
では、治療にかかる費用はどれくらいでしょう。
現在、国内で唯一承認され、実際の医療現場で使用されているがん治療用ウイルス「デリタクト」(脳腫瘍の一種である「悪性神経膠腫(グリオーマ)」の患者で、手術で取り切れなかったり再発したりした腫瘍に対して使用)を例に見ていきましょう。

「デリタクト」は、保険適用となっています。
ただし、最先端のバイオテクノロジーで作られた再生医療等製品であるため、薬自体の価格は非常に高額です。
デリタクトの薬価は、1瓶(1回分)で 約143万円です。
最大で合計6回まで投与を行うことができるので、フルで投与した場合は約858万円になります。

「数百万円もかかるなら、自分には無理だ」と思われるかもしれませんが、日本の優れた医療保険制度である「高額療養費制度」が適用されます。
一般的な所得層である年収 約370万〜約770万円であれば、1カ月の負担額は約9万円前後だと思われます。
東大が新たな治験スタート
国内外の企業や大学が、様々ながんを対象に研究・臨床試験を進めています。
そして、日本はウイルス療法の研究・実用化において世界をリードしている国の一つです。
特に、東京大学医科学研究所(東大医科研)は、世界トップクラスの研究拠点の一つです。
先述した「デリタクト」も開発・実用化したのも東大医科研で、5月には、さらに進化した「次世代型」ウイルス療法の最新治験をスタートしたことを発表しました。
がんを制圧する画期的な治療法として、ウイルス療法のさらなる進化が期待されます。

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