7万6000分の2万、これは全国の寺のうち住職がいないと推計される寺院の数です。
約4分の1を占めるとされるこうした寺は増加傾向にあるといいます。
こうした寺を守り復活させようと、地域住民と日本ファンである外国人たちの新しい取り組みを取材しました。
和歌山県にある世界遺産・熊野古道。
観光客が多く訪れる場所ですが、周辺のお寺が存続のピンチに陥っています。
200年以上の歴史を誇る旧寳光寺。
一見するときれいに見えますが、障子や壁など至る所が傷んでいます。
実はここ、「無住寺院」と呼ばれる住職がいない寺。
そうした寺を復活させようと動いたのが、「日本ファン」の外国人出資者です。
伝統ある日本の寺を後世にどう残していくか、新たな取り組みが始まっています。
復活を目指す和歌山・那智勝浦町の旧寳光寺から車で5分ほどの場所に位置する大泰寺で住職を務める西山十海さん。
比叡山の開祖・最澄によって開かれたという大泰寺。
1200年の歴史を誇るお寺に宿泊できる「宿坊」が人気で、宿泊者の約8割は外国人が占めています。
大泰寺・西山十海住職:
海外の方のほうが、こういうお寺に泊まるであったりとか、禅について学びたいとか、そういうような要望が強いような気がします。
訪れた外国人は、日本ならではの体験に満足の様子です。
リトアニアからの観光客:
すてきな宿を探していて、お寺に泊まれることを知ったんです。
スペインからの観光客:
床に敷いた布団で寝るなんて慣れてないけど、すごく日本らしくて、試すのが楽しみです。
一方、住職にはこんな悩みが…。
大泰寺・西山十海住職:
(予約で)埋まっていることが多くて、禅を体験したい、お寺に泊まりたいと思っても、泊まれない方がいるんじゃないかと思って、それが課題というか、悩みというか。また一方で、住職さんがいないお寺ですね、高齢化と過疎化でなかなか支えることが難しくなっている。
周辺では、住職のいない無住寺院が増加していて、西山住職は大泰寺の他に、以前は別の住職がいた寺を5つ管理しています。
こうした傾向は、この地域だけではありません。
全国にあるお寺の数は約7万6000カ寺。
このうち4分の1ほどにあたる2万カ寺で住職がいない推計です。
原因は、住職の高齢化や後継者不足とみられます。
大泰寺から4kmほどのところにある旧寳光寺。
長らく住職が不在で、西山住職が管理するお寺の1つです。
これまで地元の住民たちが掃除や修繕などをして維持してきましたが、さまざまな箇所がボロボロに。
大泰寺・西山十海住職:
(Q.修繕費はどれくらいかかる?)現状は2200万円くらいを想定してます。
住民だけではとても賄い切れない修繕費用。
地元住民からは「この地区の人口の減っているし、守っていくのが大変なもんで。高齢化してるし」「守っていくのが、今の状態ではとてもやないけど守れんもんでね」などの声が聞かれました。
西山住職は旧寳光寺を「宿坊」として再生し、文化財の保全と地域観光の発展を両立させたいと考えています。
大泰寺・西山十海住職:
環境を整えることができましたら、ご先祖さまが一生懸命守ってきたお寺というのも、また価値が出てくるんじゃないか。
多額の資金が必要となる中、どのようにしてお寺を守り、地域の活性化をしていくのでしょうか。
参加したのはあるプロジェクトです。
「PlanetDAO」と呼ばれるプロジェクトの仕組みはこうです。
旧寳光寺など再生させたい建物ごとに保有する会社を設立し株式を発行。
世界中から出資者を募り、住職や地元住民たちとともに共同オーナーとなって、歴史的建造物の保全と活用を行うというものです。
大泰寺・西山十海住職:
本当にいろんな人が共同所有者になっているんで、そこでいろんなアイデアが入ってくる。地元の人も普通のものだと思っていたのが、他人から「すごいですね、これ」と言われると、やっぱり自分たちの守ってきたものに誇りを持てる。
このプロジェクトにより、旧寳光寺のオーナーの75%は海外からの出資者だといいます。
なぜ日本のお寺に出資を決めたのでしょうか。
出資者の1人、イギリス在住のバロスさんに話を聞きました。
イギリス在住 ジュリオ・バロスさん:
私はそういう伝統的な建物とか、そういう日本の文化にとても興味があって、こういうプロジェクトでそれが保存できると、世界中にとって結構大事なことだと思った。世界からいろんな人も来ますし、その文化や、いろんな都会だけじゃなく、いろんな田舎のところとかも見てほしい。
バロスさんも実際に現地を訪れ、お寺が住民から愛されていることを実感したといいます。
この日、バイクで旧寳光寺にやってきたのは、ドイツ人で日本に住むボルさん(仮名)。
このお寺の出資者ではありませんが、西山住職が過去に行った別の建物再生プロジェクトに出資をしていたことから、旧寳光寺に興味を持ったといいます。
大泰寺・西山十海住職:
中見てみます?初めてだからね。日本人の考え方として、入り口から遠い方が高級な部屋なので。
ドイツ出身・ボルさん(仮名):
これ、これは何?
大泰寺・西山十海住職:
昔、お葬式は家族の行事じゃなくて村の行事だったんですよ。これ棺おけなんですよ。
日本古来の文化に触れたボルさん。
お寺の中を見学したあとは、西山住職や住民と一緒に草刈りや掃除をして交流を深めました。
ドイツ出身・ボルさん(仮名):
最初は京都に住んでいまして。
地元住民:
そうなん?
ドイツ出身・ボルさん(仮名):
(Q.お寺の床を拭くのは初めて?)初めてです、初めてです。
地元住民:
なかなかないよね。
ドイツ出身・ボルさん(仮名):
なかなかないですね。
掃除が終わると、みんなでひと休み。
ドイツ出身・ボルさん(仮名):
いい景色ですね。
地元住民:
景色いいですよ。
旧寳光寺のプロジェクトは52人の出資者から2690万円が集まり、目標を達成。
11月をめどに「宿坊」として再生する予定です。
地元住民たちは「なんとかして後世に残していきたい。別に日本人じゃなくても、外国人の方でも、こういうところを守っていただけるというのは、うれしいことですよ」と話します。
歴史と伝統ある日本のお寺が、日本ファンの外国人の力を借りて生まれ変わろうとしています。