「Jリーグを、世界の五大リーグと言ってもらえる魅力的なリーグにしたい」――Jリーグの野々村芳和チェアマンが5月7日、島根・松江市のTSKさんいん中央テレビを訪問し、2026年から始まる新シーズン制への移行について熱く語った。

8月開幕、翌年5月閉幕という大胆な変革の背景には、世界を舞台に戦う日本サッカーの未来を見据えた明確な戦略がある。そして忘れてならないのが、33年間、Jリーグを支えてきた「地域密着」という変わらぬ理念だ。全国を巡るメディアキャラバンの一環として訪れた野々村チェアマンの言葉から、新たな時代のJリーグの姿を読み解く。

「グローバルを目指す」――シーズン移行の根本にある決断

TSK平川アナウンサーの取材を受けるJリーグ野々村芳和チェアマン
TSK平川アナウンサーの取材を受けるJリーグ野々村芳和チェアマン
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野々村チェアマンが全国のメディアを巡り伝えているのは、2026年から実施される「8月開幕・翌年5月閉幕」という新シーズン制の意義だ。Jリーグそのものの方向性を根本から問い直した結果として生まれた選択である。

「Jリーグとしてどこを目指しますか、国内ですか、グローバルですかということをみんなと話し合ったときに、やっぱりグローバルだと。そうなったらカレンダーをしっかりとグローバルに合わせていく」と野々村チェアマンは語る。

現在のJリーグは2月ごろに開幕し、12月ごろに閉幕するスケジュールで運営されてきた。このカレンダーは日本国内の視点から見れば自然なものに映るが、世界のサッカーシーンから見ると大きなズレが生じていた。

Jリーグ シーズン移行イメージ
Jリーグ シーズン移行イメージ

ヨーロッパの主要リーグ――いわゆる「五大リーグ」と呼ばれるイングランド、スペイン、ドイツ、イタリア、フランスのリーグは、いずれも8月前後に開幕し、翌年5月から6月にかけて閉幕する「秋春制」を採用している。

日本人選手が海外移籍を目指す際、あるいは海外から選手を獲得しようとする際、シーズンのズレは移籍交渉や選手のコンディション管理において無視できない障壁となってきた。新シーズン制への移行は、こうした構造的な課題を解消するための、まさに歴史的な決断といえる。

「パフォーマンスはデータとして上がるはず」―夏の酷暑問題への処方箋

シーズン移行の狙いはグローバルなカレンダーとの整合性だけではない。選手のパフォーマンスという観点からも、変革の必要性は明確だったと野々村チェアマンは説明する。

Jリーグ選手のパフォーマンスデータ
Jリーグ選手のパフォーマンスデータ

「(従来のJリーグは)2月に始まってちょっとパフォーマンスが上がって、そこからどんどんどん下がっていく。一方でヨーロッパは、8月に始まってパフォーマンスは上がっていく。シーズンの真ん中が一番パフォーマンスが高いであろうという時期に、一番高い所でプレーできてる」

従来のスケジュールでは、開幕直後の春先にコンディションが上向いたとしても、その後に待ち受けるのは高温多湿の日本の夏だ。7月から8月にかけての時期は、気温・湿度ともに選手の身体に過酷な負荷をかける。蓄積した疲労と過酷な気候条件が重なるタイミングで、リーグ戦の重要な局面を迎えることになる――これが従来スケジュールの根本的な問題だった。

欧州リーグ選手のパフォーマンスデータ
欧州リーグ選手のパフォーマンスデータ

新シーズン制では、開幕を8月に設定することで、最も暑い時期はプレシーズンの準備期間に当てることができる。リーグ戦が本格化する秋から春にかけては気候が穏やかになり、選手が高いパフォーマンスを発揮しやすい環境が整う。

「Jリーグも多くの人たちから選ばれるような環境にしていくには、シーズンのスタートを変えるだけでも十分パフォーマンスはデータは上がっていくはずなので、これは変えないといけないということになる」

選手のプレーレベルが上がれば、リーグ全体の魅力も高まる。魅力あるリーグには国内外から優秀な選手が集まり、さらにレベルが上がるという好循環が生まれる…とその効果に期待を寄せいている。

「ワールドカップに出る人数は間違いなく増える」―日本代表強化との連動

Jリーグのレベルアップは、日本代表の強化ともつながる。

野々村チェアマンは「(Jリーグを)世界の中で五大リーグと言ってもらえる魅力的なリーグにしようと思っている。もしそうなったらJリーグで鍛えられた選手が日本代表としてワールドカップに出る人数は間違いなく増える」と語る。

近年、多くの日本人選手がヨーロッパの各リーグへ移籍し、目覚ましい活躍を見せている。その一方で、国内リーグの存在感をいかに高めるかは、日本サッカー界全体の課題でもある。国内で世界水準のトレーニングとゲーム環境が確保できれば、必ずしも海外移籍だけが選手の成長の道ではなくなる。Jリーグそのものが、世界で通用する選手を育てる場になりうる―そんなビジョンも描かれている。

グローバルなカレンダーへの統一は、海外クラブとの移籍交渉をスムーズにするだけでなく、アジア・チャンピオンズリーグをはじめとする国際大会でのスケジュール調整も容易に。Jリーグが世界の舞台でより存在感を発揮するための環境が整いつつあると言える。

変わらぬ理念「地域密着」――ガイナーレ鳥取を「最たるもの」と評価

ガイナーレ鳥取サポーター
ガイナーレ鳥取サポーター

歴史的な変革に挑む一方で、野々村チェアマンが強調するのが、Jリーグが1993年の発足以来、33年間にわたって一貫して大切にしてきた「地域密着」の精神だ。

「勝ち負けも大事ですけど、地域のためにどんなことができるかっていうことを日々実践しているのがサッカークラブで、ガイナーレはその最たるものと思うぐらい、いろんな活動をしてるなと思っています」

ガイナーレ鳥取 新体制発表会見
ガイナーレ鳥取 新体制発表会見

野々村チェアマンがここで名を挙げたのが、全国最小の県である鳥取県をホームタウンとするガイナーレ鳥取だ。人口規模や資金力では大都市圏のクラブと比べようもないが、地域社会との結びつきの深さという点では、Jリーグの理念を体現するクラブとして高く評価されている。

チェアマン自身が「最たるもの」と口にするほど、ガイナーレ鳥取の地域活動は際立っている。ピッチの上だけでなく、地域のさまざまな場所でクラブが関わり、地元の人々とともに歩むその姿勢こそが、Jリーグのクラブが存在する本質的な意義を示しているといえる。

降雪地域の課題に正面から向き合う――3億8000万円の施設整備

オールガイナーレYAJINスタジアム(鳥取・米子市)
オールガイナーレYAJINスタジアム(鳥取・米子市)

秋春制への移行には、地方クラブ特有の課題が伴う。12月から2月にかけては休止期間が設けられるものの、降雪地域に拠点を置くクラブにとって、冬場の練習環境の確保は深刻な問題だ。Jリーグはこの課題に対応するため、「Jリーグ降雪エリア施設整備助成金」制度を設けている。

「ガイナーレは一番最初にそれを申請したクラブなんじゃないかなと思います」

Jリーグ助成金を活用し整備進む
Jリーグ助成金を活用し整備進む

野々村チェアマンのこの言葉が示すように、ガイナーレ鳥取は同制度の第1号として名乗りを上げた。その助成を活用し、ガイナーレ鳥取は3億8000万円をかけて米子市のオールガイナーレYAJINスタジアムの天然芝グラウンドの整備など、試合・トレーニング環境の充実を図っている。

全国最小の鳥取県というハンデを背負いながら、新しい時代に向けて積極的に投資を行うガイナーレ鳥取の姿勢は、Jリーグが目指す「地域密着と競技力向上の両立」を実践で示すものだ。環境が整えば、それは選手のパフォーマンス向上につながり、地元ファンにより質の高いサッカーを届けることにもつながると期待される。

「町の空気」「スタジアムの熱量」が小さなクラブの力になる

ガイナーレ鳥取のホームスタジアム(鳥取市)
ガイナーレ鳥取のホームスタジアム(鳥取市)

資金力や選手層で大クラブとの差は歴然としている。それでも野々村チェアマンは、地方の小クラブが持つ独自の強みについて、こう語る。

「小さなクラブが大きなクラブに勝つのはなかなか難しいんですけど、それでも勝たせることができるのが町の空気だったりスタジアムの熱量だったりすると思うので、その熱量をぜひ作っていただきたいなと思います」

勝利や昇格という結果はもちろん大切だ。しかし、その瞬間に地域全体が一体となって喜びを分かち合う体験は、どんな娯楽でも代替できないものがある。

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「何年かに1回、例えば優勝するとか、昇格するとかの機会が訪れた時の充実感とか熱量は、今どきなかなか体験できないと思う。1つの仲間になって将来関わって良かったなと思えるようなものになったらいいなと思います」

プロスポーツクラブが地域にあるということは、勝敗を超えた価値を持つ。地域の人々が「仲間」として同じ目標に向かって一体となれる場所、それがJリーグのクラブだ。野々村チェアマンのこの言葉は、グローバル化を進めるJリーグが、その根っこの部分では変わらない価値観を大切にしていることを示している。

新シーズンの対戦カードは6月中旬に発表――注目が高まるガイナーレ鳥取の戦い

8月に開幕する新たなシーズンの対戦カードは、6月中旬に発表される予定だ。グローバルなカレンダーへの統一、選手のパフォーマンス向上、日本代表の強化、そして地域密着の継続――これだけの要素が絡み合う歴史的な転換点を、Jリーグはいよいよ迎えようとしている。

1993年5月に開幕したJリーグは、発足から33年を経て、「百年構想」のもと次の百年に向けた大きな一歩を踏み出す。全国最小県に根差しながら環境改善に向けた施設整備にいち早く取り組み、地域活動で全国から評価されるガイナーレ鳥取が、新シーズンにどんな戦いを見せるか。スタジアムの熱量が鳥取の空気を変える瞬間を、多くの人が待ち望んでいる。

(TSKさんいん中央テレビ)

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