「後悔したくない」という思いで選んだ第二の人生。富山県の氷見高校に今春赴任した横山直也さん(45歳)は、元警察官という異色の経歴を持つ新人教師だ。SPとして要人を警護し、東日本大震災の現場で災害対応にあたった人物が、なぜ今になって教壇に立つことを選んだのか。「生徒には『教師を使え』と伝えている」という言葉に、その覚悟が滲む。

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45歳の新人教師 氷見高校に赴任

「おはようございます。絶好調。天気関係なく、いつでも絶好調」

横山直也さん。今年度から氷見高校に赴任した、45歳の新人教師だ。現代社会・倫理・政治経済を教える「公民」の免許を持ち、1年生の副担任を任されている。

生徒たちの第一印象は上々だ。「すごい元気で面白い人だなと思った」「印象めっちゃいい」という声が上がる一方、「警察官から教師になる人がめずらしい、びっくりしました」という声も。その経歴は、高校生にとっても相当に目を引くものだったようだ。

タッグを組む担任の西野太翔教諭は、横山さんより一回り以上年下だ。「第一印象は厳しそうというか、見た目が警察官のかっこよさだった。話してみたら柔らかい印象で。楽しく担任、副担任としてやっている」と語る。

大学で取った免許、20年越しの夢

富山市出身の横山さんは、学生時代に野球に打ち込んだ。大学では教員免許を取得したが、当時は採用倍率が高く、教師の道を断念。警察官として歩み始めることになった。

警察では「ずっと警備・公安畑で。交番勤務は半年で、ずっと私服刑事をやってきた」という。SPとして要人の警護にあたり、東日本大震災では福島県での災害対応にも従事した。現場の最前線で研鑽を積みながら、その傍ら少年野球チームの監督も務めていた。

そうした日々の中で、かつての夢が再び膨らんでいった。一念発起し、まる1年間勉強し直して教員採用試験に臨み、教師への転身を果たした。20年以上の時を経て、ようやく教壇に立つことになったのだ。

「正解はない。考えて、自信をもって判断してほしい」

横山さんが担う授業のひとつが「倫理」だ。ある日の授業では、「トロッコ問題」を題材に生徒たちが議論を交わした。人を助けるために他の人を犠牲にすることは正しいのか―答えのない問いに向き合う場だ。

「正解、不正解の話じゃない。なぜ他の人がそう考えたかを確認して」

そう語りかける横山さんの言葉には、実体験に裏打ちされた重みがある。警察官として災害現場に立ったとき、横山さんは「誰を優先するか」という判断を迫られ続けた。

「病人の手当てには優先順位をつけて判断する。人も物資も全部揃っていれば、(優先順位をつける)必要はない。(災害の)現場では、絶対に足りない」

マニュアルはある。しかし現実の現場でマニュアル通りに事が進むことは、まずない。自己判断でやっていくしかない状況の中で、判断ミスが救える命を救えないことに直結する――そうした経験を率直に生徒に伝える。

「こういった判断の部分は、色々考えてもらったけど、結局正解はない。考えて自信をもって、その判断をしてほしい」

「自分の強みは、警察で経験した出来事とか、知見だ」と横山さんは言う。「生徒に『生の社会』というものを伝えていきたい」という言葉に、この転身の核心がある。

元刑事の「洞察力」が生活指導に生きる

教師になって1カ月が経った頃、横山さんはある苦労を打ち明けた。

「最初は、身構えられていると感じた。姿勢が良いし、質問当てても答えが硬かったり、表情も硬かった。かなり身構えられていると思った」

元警察官という肩書きが、生徒との距離を生んでいた。しかし横山さんは焦らなかった。「素の自分で接していこうと決めていた」。その方針が功を奏し、徐々に生徒の表情も柔らかくなり、授業で手を挙げてくれるようにもなったという。

刑事として積んだ経験は、生活指導の場でも生かされる。「取り調べをしているときに、相手の性格とか家庭環境とか、相手の人間像を作り上げていく。生徒に対しても、こういう言葉を投げかけてみようとか」。人を見る目、言葉を選ぶ力。20年以上の刑事経験が、教育の現場で新たな意味を持ち始めている。

ちなみに昼食は毎日、妻が作ってくれる愛妻弁当だ。「今日も最高」と笑顔で答える横山さんの姿に人柄が表れていた。

「人生は1度きり。後悔しないよう生きてほしい」

横山さんが生徒に繰り返し伝えるメッセージがある。

「生徒には『教師を使え』と伝えている。自分の人生、進路とか就職とか、より良い方向にもっていくために『使え』と言っている」

45歳で新人教師として一からスタートした横山さんが言うから、この言葉には説得力がある。「後悔したくない」という思いが、自らの転身の原動力だった。だからこそ、同じ言葉を生徒にも向ける。

「人生は1度きりというのを頭の中に入れておいてほしい。(生徒には)自分が後悔しないよう人生を送ってもらいたい」

氷見高校の教壇に立つ45歳の新人教師は、自らの半生をそのまま教材に変えながら、今日も生徒と向き合っている。

(富山テレビ放送)

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