現在のウクライナにあるチョルノービリ(チェルノブイリ)で起きた原発事故から40年。長野県松本市の県ケ丘高校の演劇部は、この事故を題材にした演劇に取り組んでいます。「日常生活を奪われた人たちの思いを伝えたい」。部員たちは40年の節目に行われたイベントで、ステージに立ちました。
■高校生が挑む原発事故の劇
松本市の松本県ケ丘高校。
春休みだった3月30日、演劇部の部員たちが劇の練習に励んでいました。
演劇部の部員:
「みんな大丈夫か、制御棒を」
「4号炉に核反応」
劇「お前に自転車の乗り方を~チェルノブイリ1986」は、40年前に起きたチョルノービリ原発事故を、題材とした作品です。
演劇部の部員・山崎明さん:
「実際に起こった話で、フィクションではないと知った時にショックだった。それ以上に何か伝えないと、と思った」
■40年前に発生 最悪レベルの事故
今から40年前の1986年4月26日。
旧ソ連のチョルノービリ原発4号機が試験運転中に爆発。
約30人が死亡。10万人以上が避難を余儀なくされたと言われています。
事故の深刻さを示す国際的な尺度では、福島第一原発事故と並ぶ最悪の「レベル7」に分類されています。
■福島の光景が台本のきっかけ
主人公 サーシャ:
「不幸は誰のドアもノックせずにやってくる。25年前のあの夜、父さんに何があったのか、ついに僕たちには知らされなかった」
劇は主人公のサーシャが、原発事故で行方不明となった消防士の父(ユーリ―)の足取りを追う物語です。
台本を書いたのは、顧問の日下部英司さん。
2011年に起きた福島第一原発事故の光景が、チョルノービリの時と重なり、台本作りのきっかけになりました。
演劇部顧問 台本を書いた日下部英司教諭:
「語り継ごうと思ったら次の人間たちが引き受けなかったらできない。そこを(演じることで)高校生がやってくれたらいいなという思いはある」
■事故を知らない世代の挑戦
生徒たちは15年前の福島第一原発事故の記憶もない世代です。
主人公のサーシャを演じるのは、部長の中西ほの花さん。
2025年3月、初めて台本を読んだ時に―。
主人公のサーシャを演じる中西ほの花さん:
「自分の家の勉強机で(台本を)読んだが、読みながら泣いていた。チェルノブイリについて知らなかったし、出てくる単語も全然分からなかったからメルトダウンってどんな状況なのか、スマホ片手に読んでいたんですけど」
演じるからには、事故のことを知らないと―。
中西さんは原発事故に関する本や資料を読み、「40年前に起きた現実」に目を向けました。
原発周辺から人の姿が消えたこと、被ばくが原因とみられる甲状腺がんが増えたこと。40年後の現在も続く廃炉の作業―。
主人公のサーシャを演じる中西ほの花さん:
「大きい事故があると、何人亡くなったか、どのくらいの規模で起きたとかあったりするけど、“特別でも何でもない人たちの生活が崩れていく様子”を伝えていけたらと思う」
ほかの部員も―。
父・ユーリーを演じる篠原淳也さん:
「(チョルノービリ事故は)教科書の片隅にあるものだった。事故を全面的に出すのではなくて、事故の中に生きていたであろう人々の方、“当たり前の生活があってそれが事故によって壊されてしまった”ということを伝えたい」
■支援者が衝撃受けた高校生の劇
生徒たちの演劇は大会でも高く評価され、2026年の冬に行われた関東ブロック大会で、優秀賞に―。
2026年の夏には全国大会の出場が決まっています。
そして、この作品がある人の目にとまりました。
日本チェルノブイリ連帯基金 神谷さだ子さん:
「驚いたんです。のどかに、豊かに暮らしていた人々の生活、仕事、故郷、それが原発事故によって根こそぎ奪われていくことが、すごく胸に刺さった」
松本市で、原発事故の被害者支援を行うNPO法人「日本チェルノブイリ連帯基金」(JCF)の神谷さだ子理事長(73)です。
連帯基金は発生5年後からチョルノービリの現地に入り、子どもの甲状腺がんなどの治療といった医療支援を行ってきました。
日本チェルノブイリ連帯基金 神谷さだ子さん:
「関わり続けてきた私の方が逆に打たれてしまう、貴重な出会い。写真で伝えることより、高校生がお芝居で演じてくれていることが、ありがたく、すごいことだと思い、もっと広く見てほしいと」
■写真で知る現地のリアル
神谷さんは、演劇の参考にしてほしいと、生徒たちとの意見交換の場を設けました。
そして事故後の影響で病気になった子どもの写真などを見せながら、現地の実態を伝えました。
日本チェルノブイリ連帯基金 神谷さだ子さん:
「(劇を見て)受け止めた方の言葉で発してもらうことを大切にしてほしい。そういった声をさらに受け止めて、今の暮らし方を逆発信する(機会をつくりたい)」
■40年の節目に東京で上演
事故から40年の節目を迎えた4月、連帯基金が東京で開いたイベントで生徒たちが演劇を披露しました。
会場は満席に―。
「気を付けて行ってらっしゃい」
「行ってくるよ」
事故から25年後、主人公・サーシャは父の最期を知ろうと発電所の跡地へ。
生き残った消防士から父の最期を聞きます。
そして、物語の終盤、父・ユーリーが主人公・サーシャに語りかけます。
主人公・サーシャ:
「やっぱり生きていてほしかった。ずっとそばにいてほしかった」
父・ユーリー:
「そうだな。すまなかった。人が最後に思うのは国でも社会でもない、おれはただお前に会いたかった。コンクリートだろうが言葉だろうが、人は壁をつくるんだ。でも人がつくったものなら人に越えられないはずがない。そう思わないか。じゃあ、行けるところまで行け」
主人公・サーシャ:
「そうだね。そうだね、父さん」
■観客に届いた高校生の熱演
東京から:
「遠い国の大きな事故に思いをはせて想像しながら、渾身の演技で伝えてくれたことが、感動だったし、すごく希望をもらった」
神奈川から:
「文字で見るよりも、目で見て耳で感じて、心の中にも入ってきて、ずっとこれからも続けていくのがいいと思った」
高校生たちが演劇を通して伝える「チョルノービリ」。
山崎明さん:
「イベントが40年で(開かれて)、私たちにしかできない伝えることができる言葉だと思う」
中西ほの花さん:
「(事故があっても)家族や家族以外の人とのつながりだったりは変わらずあるという思いが届いたのはすごくうれしい」
40年の時を超え、高校生が事故に向き合い、舞台を通じて語り継いでいます。