「言うと来ないと思ったので言いませんでした」―イベントの内容を事前に明かさないまま運営者を集めてしまうような、底抜けに自由な発想の持ち主がいる。新潟県三条市の近藤雅哉さん。中学生の頃に漫才コンビを結成し、芸人として活躍した経歴を持つ彼が、地域を笑顔にするために仕掛けた取り組みを取材した。
■「市の後援とかはもらわない」 補助金なしで生まれる自由
2026年2月、三条市内でイベントに向けた打ち合わせが開かれた。この打ち合わせを仕切っていた近藤雅哉さんが冒頭からいきなり笑いを取った。
「何の集まりか分かってない人がただ多いのが当たり前だと思っております。言うと来ないと持ったので言いませんでした」
近藤さんが企画しているのは、「仁義」を意味する言葉をタイトルに掲げたイベント“JONGIバザール”だ。近藤さんがこだわるのは、自由な発想を楽しむこと。
「市の後援とかもらわないというのがモットーでございます」。
行政からの補助金を受けていないため、細かな規制に縛られず、出店者が新しいことに挑戦できる。来場者を楽しませることを目的に、ステージや出店者が自由な発想のもとで生まれる場所、それが“JONGIバザール”の本質だ。
打ち合わせに訪れた人は「近藤さんも楽しいことをいろいろ企画を立ててくれるんで、それを見てくるのがおもしろくて」「いつも彼の周りには楽しいこと、楽しい人、楽しいものが集まる」などの声が聞かれた。
■「子どもしか入れないお菓子屋さん」 新しい挑戦を後押しする場
バザールへの出店を決めた一人が、三条市でカフェを営む五十嵐美絵さんだ。彼女がイベントで計画したのは、大人は入れない“子どもだけのお菓子屋さん”という企画した。
「子どもしか見ることのできないお菓子を考えることにすごいワクワクが燃えている。近藤さんの、まずはやってみようという考えがありがたい」と近藤さんへの感謝を口にする五十嵐さん。
近藤さんは「漫才をしていた時から色んな事をやらせてもらった。大勢の先輩や後輩とのつながりをイベントで形にしたいと思った」と話す。
■挫折と出会い 紙芝居という新たな舞台
仕事帰りの近藤さんが向かうのは、友人と一緒に借りている創作のための工房だ。この「秘密基地」で近藤さんが練習するのが、昔ながらの紙芝居だ。
漫才コンビの解散後、挫折を繰り返した近藤さん。
「ピンになって司会とかマジックとかやったんですけど、なかなかうまくいかなくて」
それでも人を笑顔にすることへの情熱は捨てられなかった。転機をくれたのは先輩の一言だった。
「あんた声がいいから紙芝居でもやったらどうって言われて」
2019年から昔ながらの紙芝居の上演を始め、以来、話芸の世界でも独自の道を歩んでいる。近藤さんがいま大切にしているのは、かつて自分を助けてくれた先輩たちの姿勢を引き継ぐことだ。
「困ってる人がいたら助けちゃう、そういった先輩たちがいてくれるからこそ、それを真似してまた後輩につないでいきたい」
お笑いの世界で培った人とのつながりを、地域の中で形にしたい…。“JONGIバザール”には、そんな思いが込められている。
■子どもたちの「やったー」が会場に響く
子どもだけのお菓子屋さんを企画した五十嵐さんには、子どもへのある思いが込められている。
「子どもが中で何を体験してきているのかは、子どもさんの口からしか聞けないので、そこで親子のコミュニケーションがまた一つ増えるきっかけ作りになったら」
イベント当日、子どもしか入れないお菓子屋さんにはある仕掛けが。それは、子どもしか入れない小さな入口だ。勇気を出して親と別れた小さな来店客たちがやってきた。
待っている保護者も店内の様子は分からない。やがて店から出てきた子どもが袋を高く掲げる。
「買えた、買えた!」「やったー!」という声が響いた。
「初めての一人での買い物。成長したなと思いました。今までママと一緒だったのが」と保護者も目を細めた。
五十嵐さんも「やってよかったなって思うし、頑張る力になりますよね」と笑顔を見せる。
そして近藤さん自身も、紙芝居で会場を沸かせた。
■「街のプレーヤーになって街を作っていく」
「楽しいことって人それぞれなので、やっぱり自分がやってなんぼ。自分がプレーヤーになる、街のプレーヤーになって街を作っていく。そうすると違うプレーヤーも出てくるっていう、おもしろい流れができたらいいなと思っています」と話す近藤さん。
“JONGIバザール”は、「楽しませることを楽しむ」という芸人の魂が地域の中で生き続けている証だ。