裁判をやり直す再審制度を見直す刑事訴訟法の改正案をめぐり、議論が紛糾している。焦点になっているのは再審開始に異議を訴える検察側の『抗告』、再審請求の長期化の要因となっているとして、えん罪の被害者などからも不満の声が上がっている。

■「自白は強要」96歳妹が訴える“兄の無罪”

三重県と奈良県にまたがる、名張市の葛尾(くずお)地区。65年前の1961年(昭和36年)、公民館で開かれた村の懇親会で、ぶどう酒を飲んだ女性5人が死亡した「名張毒ぶどう酒事件」が起きた。

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逮捕されたのは、「妻と愛人との三角関係を清算するため、ぶどう酒に農薬を入れた」と自白した、奥西勝元死刑囚だった。

のちに「自白は強要されたもの」と無罪を主張したが、一審の津地裁は「証拠不十分」として無罪としたものの、二審の名古屋高裁は、死刑判決を言い渡し、長い獄中生活へ。

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塀の中から「えん罪」を訴え、判決が確定した裁判をやり直す「再審」を求め続けてきたが、2015年、拘置所で死亡した。

奥西元死刑囚の妹、岡美代子さんは、兄が帰らぬ人となり、再審請求を引き継いだ。

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岡美代子さん:
「(年齢は)96です。事件始まったときは若かったのに、長い時間で年をとってしまいました。兄は絶対やってないのにな、長い間こんなことになってしまって、本当に辛いです」

1964年(昭和39年)12月、一審で無罪判決が出た際の写真には、奥西元死刑囚にオーバーコートを着せる父親と美代子さんの姿も映っている。

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岡美代子さん:
「兄が帰ってきた時に、『やってないのに、なんで(自白)したの』って言ったら、『厳しい取り調べで、しゃべれって言われた』ということらしかった。初めて兄に『なんで(自白)したんだ』って言いました」

美代子さんは2026年1月、名古屋高裁に11回目の再審請求を申し立てた。

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岡美代子さん:
「一日も早く、よい結果をいただきたいです」

■“法務省vs自民党” 改正案で批判相次ぐ「抗告」

再審を求め続けて53年、今、国で再審制度見直しに向けた議論が行われている。4月15日、法律の改正案を話し合う自民党と法務省との会議では、激しい“怒号”が飛び交った。

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井出庸生衆院議員:
「自民党は法務省のためにあるんじゃないんだぞ!国民のためにあるんだぞ!忘れんなよ」
稲田朋美衆院議員:
「不誠実なの!」

冤罪を晴らすために「再審」は唯一の手段だが、袴田巌さんが冤罪の被害者となった静岡県で一家4人が死亡した強盗殺人事件では、事件発生から無罪確定まで58年の歳月がかかった。

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再審が長引く最大の理由に、検察の「不服申し立て・抗告」がある。

地裁が再審開始を決定しても、すぐに再審が始まるわけではない。

検察が「抗告」した場合、高等裁判所へ。さらに高裁も再審を支持しても、また検察が「抗告」でき、最高裁が再審を支持して、ようやく、再審が始まる。袴田事件では、実に9年の歳月がかかった。

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しかし今回、法務省側が再審制度の改革で提示した案は「抗告」が維持されていた。

稲田朋美議員:
「有罪判決で冤罪被害にあっている冤罪の人をどうやったら早く救済できるかっていうことからこの救済をやろうと思っているんですけども、(法務省は)その意識が非常に少ない」

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与党・自民党の多くの議員からは「抗告」の禁止を求める声があがっている。

冤罪被害者らも4月18日、東京で開かれた集会で、抗告の禁止などを訴えた。

袴田巌さんの姉・ひで子さん:
「再審法改正にはともかく即時抗告はなしということ、それと証拠は全部出す。そうすれば進む道はあるんです被害者には。そこのところをよく考えて、法務省も人間として考えていただきたいと思っている」

福井県の女子中学生殺害事件で2025年、再審無罪が確定した前川彰司さんは…。

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前川彰司さん:
「1986年の事件なんですけども福井事件は、今年は2026年、40年経ってますよね、はっきり言ってこの40年の時間は私にとっては一言でいうと”空白”です。何もない」

再審請求が続く、名張毒ぶどう酒事件については…。

袴田巌さんの姉・ひで子さん:
「(奥西さんは)死んじゃったしね、気の毒に。そういう人たちのためにも。抗告がなければ、再審開始も進むと思う」

名張毒ぶどう酒事件でも一度だけ、重い扉が開いたことがあった。2005年の第7次再審請求で、名古屋高裁で再審開始が決定されたが、ここでも検察が「抗告」し、その後、再審開始は取り消された。

岡美代子さん:
「何回も(再審請求を)出しても、みんな返ってきます。いい方向にむいてくれたらな、うれしいんやけどな。私の命のある間にいただきたい、兄に話してやりたいなあと思うんだけど」

■事件から65年…「重い扉」は開くか

名張市葛尾地区にあった奥西家の墓は事件後、何者かに掘り起こされ、今は伊賀市に移されている。

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故郷の土にも還れなかった奥西元死刑囚だが、今年2月、再審をめぐり一筋の光が差した。

42年前、滋賀県日野町の殺人事件で、無期懲役が確定し、服役中に死亡した阪原弘元受刑者について、息子が再審請求を引き継ぎ、再審開始が決定した。無期懲役が確定した事件で、本人死亡後の再審開始は戦後初めてだ。

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阪原弘元受刑者の息子・阪原弘次さん:
「奥西さんは亡くなってしまいました。私の父と同じです。せめて奥西さんの無念を晴らし、名誉を回復する意味で、岡美代子さんが元気なうちに再審無罪を勝ち取って喜んでいただきたい」

岡美代子さんは2025年11月、96歳の誕生日を迎えた。再審無罪を勝ち取った冤罪の被害者たちもお祝いに駆けつけた。

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福井事件で再審無罪の前川彰司さん:
「希望は捨てないでほしい、名張事件も。この事件は希望はあると思いますよ」

岡美代子さん:
「『検察側が殺生なことして』って、検察に腹立ちますわ。私が亡くなるのを待ってるぐらいのことでしょう」

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再審開始へ、残された時間はもう長くはない。

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