日本やアジアでも広がり…医師が語る深刻な健康被害

日本では2016年に亜酸化窒素(笑気ガス)が薬機法で「指定薬物」に指定され、医療や食品用途以外の目的での所持、使用などは禁止されている。また近年、ベトナム、タイ、台湾、韓国などで若年層による乱用が社会問題化している。
特に店頭で容易に入手できることから関連するトラブルも増加していてベトナム・ホーチミンの日本総領事館が注意喚起を出すなど、笑気ガスは世界各地で問題となっている。

合法と違法の狭間にある“笑気ガス”。最前線で治療に当たる医師に話を聞いた。

フランス・リール大学病院のギヨム・グリッシュ医師
フランス・リール大学病院のギヨム・グリッシュ医師

フランス・リール大学病院 ギヨム・グリッシュ医師:
使用者の多くは18~20歳。国内では年間数千件規模の報告があり、フランス北部の地域だけでも年間250~300件のケースがあります。

多くは友人と一緒に使用したことがきっかけで、次第に一人でも使い、使用量が増える。しかし自覚のないまま依存に陥るケースが少なくない。神経への影響は血管にも及び、車椅子生活を余儀なくされる若者もいるといい、治療は困難だ。

さらに、グリッシュ医師は「この物質は体内に残る時間が非常に短く、検査で検出することがほぼ不可能です。患者が自ら使用を告白しない限り、診断は難しい」と話す。

確立した治療プロトコルもなく、現在の医療現場では信頼できる指標が不足している。

さらに、95%の患者が救急外来を利用するが、医療体制はすでに限界に近いと強調するとともに、まさに「サイレント・パンデミック」状態になっていると指摘する。

日本への警鐘 見えないからこそ注意を

先にあるように、日本では亜酸化窒素はすでに規制されており、欧州のような大規模な乱用は表面化していない。しかしグリッシュ医師は、そんな日本に対しても警鐘を鳴らす。

フランス・リール大学病院 ギヨム・グリッシュ医師:
問題が見えていない国ほど、最も危険です。

フランスやベルギーでも当初は「存在しない問題」とされていた。しかし医療従事者に対して笑気ガスに関する啓発活動を行ったところ、見逃されていた患者が次々と顕在化したという。

笑気ガスの問題は「存在しない」のではなく「正しい知識」と「想定する力」が備わっていなかったために「見えていない」だけだった。

カラフルなボンベは若者にどう映るのか(提供:グリッシュ医師)
カラフルなボンベは若者にどう映るのか(提供:グリッシュ医師)

また、「医療や食品に使われている=安全」という先入観も、乱用拡大の要因と指摘する。
カラフルでフレーバー付きのボンベもあり、若者にとって「危険な薬物」ではなく、軽い嗜好品のように映っているのかもしれない。

グリッシュ医師の警告は明確だ。インタビューを通じて浮かび上がったのは、「問題が起きてから考えるのでは遅い。問題が起きていないと信じ込むことこそが、最も危険だ」という警告だ。「もし日本で笑気ガスの問題が潜在化しているとしたら…」ふとそのようなことが脳裏をかすめた。

「正しい知識」と「想定する力」。
フランスの笑気ガス対策の経験が、今後、一つの教訓になるかもしれない。
(FNNパリ支局長 陶山祥平)

陶山祥平
陶山祥平

FNNパリ支局長
2011年入社以来、ENGカメラマン、政治部(総理官邸・野党担当)、社会部(警視庁担当)、番組ディレクターを歴任。平昌・北京五輪では現地取材、「イット!」プログラムディレクター、演出などを務め2025年8月より現職。
放送や記事を通して、何か気づきや共感が見つかるような瞬間が生まれたらうれしいです。