傷ついた保護犬と受刑者が向き合う更生プログラムが、名古屋刑務所で2025年10月から始まった。ネグレクトを受けた犬に、父親からの暴力にさらされた自身の過去を重ねる受刑者。「自分を変えたい」と訓練に励む日々が、更生への確かな一歩となっていた。

■人との関係性が結べない…ネグレクト受けた「レオ」

名古屋市南区にある動物保護シェルター『SORA小さな命を救う会』。殺処分を免れた犬や、飼い主に捨てられた犬たちが飼育されている。

52匹が飼育されていて、人に慣れるための訓練を受けた後に里親へと譲渡される(2025年12月現在)。

小嶋愛子代表:
「愛知県は野犬がものすごく多くて。動物愛護センターに収容されて、成犬の子たちがほとんど殺処分されているんです」

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野犬として生まれた、レオ(オス・推定1歳3カ月)。

生後3カ月の時に一度は里親に譲渡されたが、ネグレクトを受けて2025年10月、再び保護された。

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小嶋愛子代表:
「1年近くネグレクトにあっているので、人との関係性が全く結べていない。この子にとってトラウマになっている」

■「自分を変えたい」レオに自身の半生を重ねるA受刑者

愛知県みよし市にある『名古屋刑務所』。ここには、20代から90代のおよそ420人が収容されている。

名古屋刑務所では2025年10月から、保護犬が人に慣れるため、受刑者とともにトレーニングを重ねる、全国でも珍しい取り組みが始まった。受刑者にとっても、更生を目指すプログラムだ。

大塚祐一郎看守長:
「犬を通じたコミュニケーションで、優しくする。“自分が”ではなくて、“保護犬”がどうすれば喜ぶかを考えるように、課題として取り組んでいます」

ネグレクトにあってきたレオ。この日の目標は、名前を呼んでもらい、受刑者の手からエサを食べることだ。しかし、受刑者が手を差し出すと後ずさり、おびえた様子も見せた。

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そんな中、窃盗などの罪を犯したA受刑者(30代)が、レオの名前を呼び続けていた。「自分を変えたい」との思いから参加していた。

A受刑者:
「レオ君、レオ君」

椅子から立ち上がってゆっくりとレオに近寄るが、食べてくれない。

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しかし、優しい声で呼び続けること36回。思いが通じたのか、A受刑者の手に乗せた餌を食べたレオ。すぐに後ずさりはしたが、“大きな一歩”だ。

A受刑者:
「本当にすごくうれしい。(食べてくれて)ありがとうという思いです」

人を信じられなくなったレオに、A受刑者も、自身の半生を重ねていた。

A受刑者:
「僕が小さい時には、(父親から)叩かれていました。最初は(父親が)暴言吐いて、僕が言うこと聞かなかったら、張り倒されるみたいなのがあって」

小学生のときに両親が離婚し、父親に引き取られたが、暴力や暴言を受けて家を飛び出し行き場を失ったという。そして21歳の時、初めて窃盗罪で服役した。その後も犯罪を繰り返し、今回3回目。

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そんなA受刑者にとって、レオと向き合う時間は、心に静かな変化をもたらしていた。訓練の日の感想文には、「本当にくるたびに、自分たちに接してくれるので、すごくうれしくて心が落ち着きます」と記している。

■「人のために作ったものが、自分のために」動画制作任されたB受刑者

受刑者と保護犬の訓練の様子をカメラに収める、B受刑者。2026年3月に開かれる、レオたち保護犬の譲渡会で上映するための紹介動画制作を任されている。

これまでの社会生活でパソコンに触れた経験はなく、もちろん動画制作も初めてだ。

B受刑者:
「やるからにはいいものを作りたいという思いと、責任感を持つようになりました。勉強しながら、こういうふうにした方がもっと良くなるとか、そういうことも考えて過ごすようにしています」

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動画は、刑務作業の合間に1日2時間の編集を行い、2カ月かけてようやく完成した。そして、完成した映像を、レオたちの保護団体『SORA小さな命を救う会』の代表らに見てもらうこととなった。

小嶋愛子代表:
「わんこと一緒に心が届けられたらいいなと思って始めた活動なんですけど、逆に私たちの方がお返ししていただいてる気がして。本当に感謝、感謝です」
B受刑者:
「出来はどうでしたか?」
小嶋愛子代表:
「すごい素敵です。一からやられたんですか?」
B受刑者:
「そうですね。試行錯誤して、こうしたら良くなるかなと」

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暴走行為や窃盗などを繰り返し、今回が3回目の服役のB受刑者。2026年秋ごろの出所が決まっている。

B受刑者:
「自分の生き方としては、“自分のため”が第一基準で行動していたんですけど、人のために作ったものが、自分のためにもなった機会が初めてでしたので、そういうことが学べました」

■レオとA受刑者 結ばれた信頼関係

保護犬とのプログラムが始まって3カ月が経った2月5日。刑務所内に新たにドッグランが整備された。

A受刑者は、レオと初めての散歩に挑む。目標は『一周すること』だ。

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しかし、緊張のためか、レオは足取りはぎこちない。元来た道に戻ろうとする様子も。

小嶋愛子代表:
「怖いので逃げようとするので、一旦ストップすればいいと思います」
A受刑者:
「安定させてから?」

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今度はA受刑者が、レオの呼吸に合わせて歩こうと意識する。

一度は立ち止まり、再び歩き始める。レオとA受刑者は、“3周”も歩ききることができた。

小嶋愛子代表:
「本当に人が怖がりなレオちゃんが、ものすごくリードも緩まっていましたし、とってもリラックスできてたかなと思います。信頼関係が結べてきているんじゃないかなと」

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2026年秋ごろに出所予定のA受刑者。更生支援を行う民間団体の支援もあり、就職先が決まった。レオと関わることで、「二度と犯罪に手を染めない」と決意したという。

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A受刑者:
「心が穏やかになれますし。保護犬たちも、人間のように扱い方を注意しないといけないなと、すごく思いました。自分も犬に負けずに頑張ろうと思って。お恥ずかしい話、(服役が)3回目で。こんなことしてる場合じゃないなと思って、これを機に本当に二度としないように、どんどん更生に向けてやっていきたい」

東海テレビ
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