大相撲・春場所で綱取りを目指す大関・安青錦。そんな安青錦と同じウクライナ出身で、横綱を目指す11歳の少年がいる。
ウラドくん:安青錦のようになりたいです。
元横綱の白鵬さんが主催する世界大会で「白鵬杯」。およそ20の国と地域から、1700人以上が参加した。
会場に、ひときわ緊張した様子の少年の姿が。この大会に出場するため、ウクライナから来たウラドくん(11)だ。
4年前、その夢は消えかけていた。
相撲に人生をかける11歳。彼の目に戦争は、相撲はどのように映っているのか。憧れの力士に近づくために奮闘する姿を追った。
■3歳から始めた相撲
白鵬杯の4日前。ウラジスラブ・スタビツキくん、愛称ウラドくんの姿は、愛媛県西予市に。
ここは江戸時代から170年以上続く相撲大会が行われるなど、相撲文化が息づく町。
2022年にロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって以降、支援の一環として、合宿場の提供などを行ってきた。
ウクライナはもともと格闘技が盛んな国。相撲の選手の育成にも力を入れていて、ウラドくんは今回、日本に滞在する13日間で、少しでも技術を吸収し
(Q:相撲で一番好きな言葉は?)
ウラドくん:『のこった のこった』より強くという意味がこめられているらしいから。
ウラドくんが相撲を始めたのは、3歳の時。すぐに頭角をあらわし、数々の国内大会で優勝。

■故郷はロシアの激しい攻撃に…
しかし、2022年に故郷のバフムトは、ロシアの激しい攻撃にさらされ、廃墟と化した。
ウラドくんは、家族と共に600キロ離れた首都キーウ近郊の町に避難。
相撲ができる状況ではなく、ふさぎこみがちになり、2年が経過。

■相撲を諦めきれず来日した安青錦関は異例の早さで初優勝
そんな中、大相撲の世界で活躍し始めたのがウクライナ出身の力士・安青錦だった。安青錦は侵攻直後、ドイツに避難したが、相撲が諦めきれず日本の知り合いを頼って来日。
ウラドくんと同じ、西予市の土俵で稽古に励んだことも。そして、相撲部屋への入門の道を切り開き、そこから異例の早さで初優勝。大関に昇進した。
安青錦関:両親にも友達からたくさん連絡が来ているらしくて、自分の活躍を見て、相撲に興味を持ってもらう人が増えているので、それは自分にとって嬉しい。
この活躍がウラドくんに相撲への希望を芽生えさせた。

■大人たちが命がけで戦地から土俵マットを持ち帰り
さらにウラドくんを後押しする出来事が。
大人たちが、命がけで戦地から土俵マットを持ち帰り、再び相撲の稽古ができるようになったのだ。
しかし、練習環境は厳しいものだった。空襲警報が鳴るたびに稽古は中断。ミサイル攻撃などもあり、危険な状況は続いている。

■どうしても欲しかった日本行きの切符
それでも、ウラドくんは懸命に取り組み、白鵬杯に向けた予選を勝ち抜いた。どうしても欲しかった日本行きの切符だ。
(Q:相撲のどういうところが好き?)
ウラドくん:(相撲の)技が好きです。引き分けなしのルールも好きです。安青錦のようになりたいです。幕内で優勝して横綱になりたいです。
頭から強く当たることに慣れていないウラドくんは、課題である立ち合いを何度も練習するが、不慣れな土俵に苦戦する。
指導に当たった監督は…
西予市立野村中学校相撲部 山下成樹監督:当たるのがベスト。だけど、いつもやっていないし、慣れてないからちょっとずらす。理想は当たる。

■ウラドくんの父親は今も前線に
ウラドくんの父親は、侵攻が始まってすぐに徴兵され、今も前線にいます。
父親とテレビ電話をするウラドくん。なかなか会うことができない父親と話せる貴重な時間だ。
ウラドくんの父親:元気かい?
ウラドくん:元気だよ。
ウラドくんの父親:きょう何を食べた?
ウラドくん:肉と刺身。
ウラドくんの父親:お腹は空いていないんだね?
ウラドくん:空いていない。父さんは無事?
ウラドくんの父親:元気だよ。寒いよ。こっちはマイナス13度だ。
ウラドくん:マイナス13度だって。
ウラドくんは穏やかな表情を見せる。

■「戦争が始まったことが悲しい」
なかなか父親と会えないウラドくんは、「戦争が始まったことが悲しい」とこぼす。
ウラドくん:戦争が始まったことが悲しい。お父さんが休暇で家に帰る時が一番嬉しい。
ウラドくんの母親:戦争が始まってから、自分の殻に閉じこもるようになりました。故郷を離れ、父親も戦地へ向かったからです。
子供たちがお父さんと直接会って、一緒に過ごす普通の子供の人生を送れることが願いです。昔のようには戻らないけど、これ以上悪くならないことを祈ります。

■優勝目指した「白鵬杯」 課題を克服するも3回戦で惜しくも敗れる
そして迎えた白鵬杯。目標はもちろん優勝だ。
コーチ:相手が小さかろうと大きかろうと戦うしかない。
課題だった頭から強く当たるという相撲を取り切り、勝利。
2回戦も勝利し、迎えた3回戦。果敢にぶつかっていったものの体格差のある相手に敗れた。

■「安青錦と同じくらい強くなりたい」ウラドくんは自分の信じる相撲道を突き進む
大会を終えたウラドくんは、悔しさで涙をにじませながら話す。
ウラドくん:勝てることを証明できなかった。負けて悔しい。日本が大好きです。停電や空襲警報や砲撃がないから。安青錦と同じくらい強くなりたいです。ずっと横綱でいたいです。
祖国に再び平和が訪れることを信じて…ウラドくんは自分の信じる相撲道を突き進む。
(関西テレビ「newsランナー」 2026年2月26日放送)

