全国2300人、被害総額6億円超。SNS詐欺をめぐって一度に41人が逮捕された異例の事件が大きな波紋を広げています。
その背景にあったのは、SNSアカウントの”売買”によるなりすまし行為でした。
関西テレビ「newsランナー」は、被害者や専門家への直接取材をもとにこの問題を徹底的に掘り下げました。
■「2カ月で100万円達成」その投稿は別人が書いていた
【SNSの投稿より】「すき間時間で収入が作れる」「2カ月で100万円達成」
SNSをスクロールしていると、こうした投稿を目にした経験がある人も多いのではないでしょうか。実はこれ、”なりすまし”による詐欺とみられる投稿です。
9日、詐欺の疑いで逮捕されたのは、会社役員の松村真吾容疑者(29)をはじめとする41人。
松村容疑者らは、実在するインフルエンサーになりすまし、大阪府内に住む女性など3人からあわせておよそ88万円をだまし取った疑いがもたれています。
警察は、組織全体で全国2300人から6億円を超える被害が出ているとみて、実態の解明を進めています。
■「ずっと前から見ていたから信じてしまった」
兵庫県内に住む40代のAさんは、5年ほど前からダイエットレシピを紹介するあるインスタグラムアカウントをフォローしていました。
しかし去年頃から、そのアカウントの投稿内容が変化し始めます。
【被害を訴えるAさん】「『副業しています』みたいな内容に変わって、それを教えますというのをインスタで流し始めて」
アカウントはAさんをLINEへと誘導。やり取りの中で相手は次のように語りかけてきました。
【インフルエンサー】「AIを活用して、インスタグラムで情報発信をしながら報酬(アフィリエイト)を得る働き方になります」
言葉巧みな説明を重ねた末、Aさんは「SNS運用サポートスクール」の55万円のコースを契約し、10万円を支払ってしまいました。
アカウント運用による収益はゼロ。「マイナスです。何にもなってないです」とAさんは語ります。
長年フォローしていた相手だったからこそ、疑いを持てなかったのです。
■「見破るのは無理」 アカウント売買という温床
Aさんがだまされた詐欺の手口は、こうした仕組みによって成立していました。
インフルエンサーが業者にアカウントを売却し、それを松村容疑者らが買い取って、インフルエンサーになりすまして投稿を続けていたとみられています。
SNSの利用規約では、アカウントの第三者への譲渡は禁止されています。しかし現実には、アカウントを売買する仲介サイトが堂々と存在しています。
取材班がそのサイトを確認したところ、フォロワー3万5000人の関西グルメ特化アカウントが21万円、なかには350万円で出品されているものまでありました。関西グルメ、世界の絶景、AIを活用した投稿…ジャンルも様々です。
■なぜSNSアカウントの売買が横行しているのか
成蹊大学の高橋暁子特別客員教授はこの現状をこう説明します。
【成蹊大学 高橋暁子特別客員教授】「SNSの利用規約で転売は禁じられてはいるんですけれども、法的には罪には問えないので、そういう業者がたくさんあるのが実態」
需要があるところに供給が生まれる…構造的な問題が、詐欺の温床を作り出しているのです。
■政府に対して規制の法制化を求める動きも
警察の委嘱を受けてネット上で防犯活動を行うサイバー防犯ボランティアのroseさんは、この問題の深刻さをより直截に語ります。
【サイバー防犯ボランティアroseさん】「インフルエンサーのアカウントを実際に買って、それを使って別の人が犯罪を起こすという状況であれば、(一般人が)見破るのは無理だと思います」
roseさんは去年、2万件を超える署名とともに、政府に対して規制の法制化を求める要望書を提出しました。
【サイバー防犯ボランティアroseさん】「被害を1つでも少なくしていくことが必要だと思いますので、立法化を強く求めていきたいと思っています」
■インフルエンサーに「買い取りたい」のDMも
今回の事件は、インフルエンサー側にも他人事ではありません。
YouTube・インスタグラムあわせて約70万人のフォロワーを持つあるインフルエンサーは、過去にDM(ダイレクトメッセージ)で「アカウントを買い取らせてほしい」という連絡が何度か届いたことがあると明かしました。
この男性はすべて無視したといいますが、「フォローしてくれてる方、見てくれてる方とかの気持ちを考えて、1回踏みとどまって考えてみてほしい」と、アカウント売却の誘いに応じないよう呼びかけています。
■「SNSで副業、もうかる話…全部嘘だと思っています」
被害に遭ったAさんは今、SNSに対する見方ががらりと変わったといいます。
【被害を訴えるAさん】「インスタは怖いから見ない。SNSで『もうかる、副業』とかいう話は、全部嘘だと思います。全部詐欺だと思っています」
長年信頼していたアカウントが、いつの間にか見知らぬ詐欺師のものになっていた…そうした事態が、すでに日常のSNS空間の中で起きています。
著作権法などが専門の福井健策弁護士によると、「SNSアカウントの売買は直接処罰する法律はないものの、詐欺罪や偽計業務妨害罪の可能性もある」と話し、被害をなくすためには「SNSのプラットフォーム事業者側が規制強化をすることや、インフルエンサーの発信をうのみにしないことが大事」ということです。
アカウント売買の仲介業者に法的に罪を問えない現状がある以上、対策強化に向けた議論は急務と言えるかもしれません。
(関西テレビ「newsランナー」2026年6月15日放送)