高知県の沿岸に広がるサンゴの群生は、豊かな海洋生態系を育むと同時に、海の観光スポットとしても県内外から多くの人を惹きつけてきた。しかし今、その美しい海中で深刻な事態が進行している。
先日、「こうちサンゴ沿岸生態系適応ネットワーク」による研究成果の報告会が開かれた。県内の自治体や大学研究所、観光施設など、海と密接に関わる団体が集結したこの場で浮き彫りになったのは、2024年に観測された「異常な高水温」がサンゴに与えた破壊的なダメージである。
白く染まるサンゴたち…命を削る「白化現象」とは?
高知の海に潜ると、ところどころに真っ白に変色したサンゴの姿が確認できる。これがサンゴの「白化」と呼ばれる現象だ。
サンゴは本来、体内に「褐虫藻(かっちゅうそう)」と呼ばれる微小な植物プランクトンを共生させており、彼らが光合成で作る栄養素をもらって生きている。しかし、海水温の急激な上昇などで強い環境ストレスを受けると、サンゴはこの褐虫藻を体外へ放出してしまう。その結果、サンゴの白い骨格が透けて見えるようになり、文字通り真っ白な姿に変わってしまうのである。
白化したからといって、すぐに死んでしまうわけではない。水温が下がり、環境が改善すれば再び褐虫藻を取り込み、元の色と活力を取り戻すことも分かっている。しかし近年は、高水温の期間が長引くことで回復のタイミングを逃し、白化した状態のまま死滅してしまうサンゴが増加しているという。
6年間の観測データが示す「2024年夏」の異常性
大月町柏島を拠点に海洋生物の研究を続ける黒潮生物研究所の目崎拓真所長は、報告会において詳細な水温データを公表し、事態の深刻さを客観的な数値で示した。
同研究所では、県内沿岸の29地点に水温計を設置し、継続的なモニタリング調査を実施している。今回、過去6年間のデータを解析した結果、海水温は2020年から明確な上昇傾向にあることが判明した。
そして特筆すべきは2024年の夏である。8月には海水温が31℃を超える期間が長期にわたって確認されたという。サンゴにとって30℃を超える水温は極めて過酷であり、この長期間に及ぶ異常な高水温が、海中のサンゴに致命的なストレスを与え続けていたことは想像に難くない。
回復の期待を絶たれたフタマタハマサンゴの群生
報告のなかでひと際参加者の注目を集めたのが、特定の湾内に生息していた「フタマタハマサンゴ」の被害状況に関する具体的な事例だ。
目崎所長によると、その場所はかつて30メートル四方ほどの範囲に高密度でサンゴが群生しており、将来の観光資源としても非常に素晴らしい景観を誇っていたという。しかし、この美しい群生も2024年の高水温の直撃を受け、一斉に白化してしまった。
「当初はまだ死んでおらず、もしかしたら回復中かなと思っていた」と目崎所長は当時のわずかな希望を口にする。しかし、2026年になって現地を再調査したところ、群生の約9割がすでに死滅しているという残酷な現実が待っていた。
本来であれば白化から回復できると思われていたサンゴの大部分が命を落としてしまうほど、2024年の海はサンゴにとって過酷な環境だったことが裏付けられた形だ。
身近な海から見つめ直す、気候変動という現実
しかし、絶望的なデータばかりが示されたわけではない。同じように海水温が高かった海域であっても、個体によっては死滅してしまったものと、環境の激変を耐え抜き見事に復活したものとが混在していることが分かっている。
黒潮生物研究所は今後も地道な調査を続け、サンゴが白化し死滅するメカニズムの解明だけでなく、生き残るための条件や適応能力についても研究を深めていく方針だ。
「私たちがモニタリングした結果を多くの人に見ていただいて、実際気候変動による影響というのが身近な足元の海にも起きているんだということを知っていただけたらと思います」
目崎所長の言葉は、遠い海の話としてではなく、私たち自身の問題として気候変動を捉えるよう促している。海の環境変化を正確に記録し、その事実を広く共有すること。それが、高知の豊かな海を未来の世代へつなぐための、確実な第一歩となるはずだ。