関西に春の訪れを告げるイカナゴ漁。

甘辛く煮込んだ「くぎ煮」は、ご飯のお供として多くの人に愛されて続けている。しかし、その「イカナゴがとれない可能性が非常に高い」というのだ。

その理由は、地球温暖化などによる海水温の上昇が影響で、高い水温を嫌うイカナゴが、夏に砂の中に潜り、砂の中で高水温の時期をやり過ごす、冬眠ならぬ夏眠(かみん)ができなくなっていることにある。

イカナゴを扱う鮮魚店では毎日、客からの問い合わせが絶えないといい、漁師からは「イカナゴを炊く文化がなくなる」という悲痛な声も。

そんな絶望的な状況の中で、希望を持てる研究が進んでいる。日本初とみられる画期的な取り組みが、イカナゴの未来を変えるかもしれない。

■「これ食べてるのと一緒?」 水族館で泳ぐイカナゴたち

体をくねらせて泳ぐ無数の魚たち。

水族館でイカナゴを見た女性が「これ同じイカナゴ?食べてるのと一緒?」と取材班に声をかけた。

「最近くぎ煮食べてますか?」と尋ねると、「ありますよ、家に。冷凍してずっと置いてある」とのこと。

「くぎ煮」でおなじみのイカナゴは、瀬戸内海や大阪湾に生息し、砂に潜るというユニークな習性も持っている。

醤油とザラメで甘辛く煮込んだイカナゴの「くぎ煮」。神戸などでは知り合いに送る習慣があり、阪神淡路大震災で支援のお礼として全国に送られたことで、関西の名産として知られるようになったとも言われている。

イカナゴのくぎ煮
イカナゴのくぎ煮
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■「過去最低レベル」の衝撃 大阪湾で何が起きているのか

毎年2月下旬~3月上旬に漁が解禁され、シーズンを迎えるイカナゴに異変が。

大阪湾でとれるイカナゴの数が「過去最低レベル」だと大阪府立環境農林水産総合研究所が発表した。

大阪府立環境農林水産総合研究所 木村祐貴主任研究員:大阪湾内で決まった点で、毎年調査をしてるんですけれども、その採集数が近年、非常に厳しい。イカナゴの資源状況の中でも、比較的悪い値になった。

かつては「数百個体獲れていた時期もあった」というイカナゴ。しかし今では「一桁も撮れるか獲れないか」という状況にまで悪化している。

1960年のイカナゴ漁の映像を見ると、網いっぱいの豊漁に漁師たちが笑顔を見せている。

しかし、その後漁獲量は徐々に減少し、ついに2024年、個体数を守るために大阪湾では自主的に禁漁する事態となった。

大阪湾で撮れるイカナゴの数が「過去最低レベル」
大阪湾で撮れるイカナゴの数が「過去最低レベル」

■「夏眠(かみん)」できずに消えるイカナゴ 温暖化の深刻な影響か

なぜイカナゴはここまで減ったのだろうか。

木村研究員は「地球温暖化などによる海水温の上昇が影響している」と説明する。

大阪府立環境農林水産総合研究所 木村祐貴主任研究員:高い水温を嫌うイカナゴが、夏に砂の中に潜って、砂の中で高水温の時期をやり過ごす、そういった習性(夏眠・かみん)を持ってる。

ここ最近、夏場の水温がかなり高くて、眠っている間に死んでしまうとか、起きてもエネルギーを使い果たして、ガリガリになっていて、なかなか次の産卵に向けたエネルギーが残っていない。

「冬眠」ならぬ「夏眠」ができないイカナゴたち。他にもエサとなるプランクトンの減少や、ブリやマダイなど、イカナゴを食べる魚の増加もイカナゴが減る背景にある。

では、どうすればイカナゴの数は回復するのだろうか。

大阪府立環境農林水産総合研究所 木村祐貴主任研究員:まずは水温が、イカナゴ漁が盛んに行われてきた頃の水準に戻ることが、大きな解決策かなと思うが、人間の手でコントロールできるような問題でもないので、祈るしかない。

「夏眠」できずに消えるイカナゴ
「夏眠」できずに消えるイカナゴ

■「寂しい」 3年連続禁漁を決めた漁師の心境

2年連続でイカナゴ漁に出ることができなかった漁師は、この状況をどう思っているのだろうか。

イカナゴ漁師の福田康弘さんは「イカナゴは休業です。ことしも休業になります。“試験操業”はやるんですけど、海の様子見に」と答える。

なんと福田さんが漁を行う大阪湾では、3年連続での“自主禁漁”が決まったのだ。

船を案内してもらうと、普段なら準備が整っているはずのイカナゴ網が片付けられたままになっている。

イカナゴ漁師 福田康弘さん:(イカナゴ用の網を)巻き取っている状態なんですけど、みんな空っぽで。ローラーに何も巻いてないでしょ。本当はここにイカナゴ網を巻いて、いつでも出られる状態で置いてるけど。

シートで覆われたイカナゴ網を指さしながら、「イカナゴの網をこうやって、もうシートを巻いて置いてるんですよ。出す気配ないですよね。ほんまはここにあったら、おかしいですよね」と福田さんは話す。

イカナゴ網が片付けられたまま
イカナゴ網が片付けられたまま

■「生活ほんまに厳しい」 漁師を直撃する経済的打撃

3年連続の自主禁漁が漁師の生活に与える影響は深刻だ。

イカナゴ漁師 福田康弘さん:生活ほんまに厳しいと思います。僕らノリ養殖もやってるんで、仕事はある状態なんですけどね。これ(イカナゴ漁)だけにかかってる人はほんまに厳しい。

港の風景を見渡しながら、「寂しい。イカナゴ漁始まったら、この辺全部イカナゴの炊いてる匂いですごいのにね。もう何年も匂いかいでないですよ。ほんまやったら、もうバタバタしてるのに」と寂しそうに語る。

「寂しい」と福田さん
「寂しい」と福田さん

■「頼むから獲れて」 鮮魚店に殺到する問い合わせ

イカナゴが獲れるのか気になっているのは漁師だけではない。

神戸市垂水区の鮮魚店「和田商店」では、看板に「いかなご試験操業、3月6日」の文字が。

店主の藤井洋佑さんは「(イカナゴ漁が)6日スタートと思ってる方が結構多いんで、”試験操業”ですよってことを、告知するために書きました」と説明する。

こちらでは毎日イカナゴの入荷の問い合わせがやまないそうだ。

和田商店 藤井洋佑さん:(くぎ煮の)準備の段取りが皆さんありますんで、『ショウガはいつ買っとけばいい』、『しょうゆはどうしたらいい』、『去年の残ってるんや』、いろんな話をいただきますけども、無責任なこと言うのも怖いんで、頼むから獲れてくれという思い。

しかし今年大阪湾ではすでに自主禁漁が決まったため、それ以外の場所からどれだけ入荷できるのか、気がかりだ。

和田商店 藤井洋佑さん:これでイカナゴが止まってしまうと、イカナゴの伝統文化がなくなってしまうので、それだけはどうにかして避けたい思いがやっぱり強いですね。

「頼むから獲れて」と鮮魚店
「頼むから獲れて」と鮮魚店

■「完全養殖」成功 日本初の快挙が示す希望

出口が見えないイカナゴの不漁。そんな中、個体数の回復に期待できる“日本初”とみられる研究成果が発表された。

三重県水産研究所 辻将治主幹研究員:”完全養殖”といいますが、人工的に人間の力で受精卵を作る。作った受精卵から仔魚(しぎょ)をふ化させて育てる。

三重県の水産研究所では、イカナゴから卵巣と精巣を取り出し、人工受精させる研究を4年前から行っていた。

そして2月、「孫」にあたる第3世代の個体がふ化したことで、イカナゴの「完全養殖」に成功したのだ。

研究では、数十匹の親からおよそ「5万匹」の子どもが生まれ、今後に期待が高まる。

辻研究員は今後の可能性について語る。「親から子供、子供から孫を作れる技術がひとつ確立できたと考えてますので、(技術の応用で)イカナゴの子供を放流して、資源を増やすことができるかもしれない」

養殖したイカナゴをそのまま食べることについて尋ねると、辻研究員は「食べられると思います。ただ生産コストと価格とか問題はあると思うんですけども」と答えている。

「春の味覚」に留まらず、「文化」としても愛されるイカナゴ。近い将来、“大量”の春の便りが届くことを願うばかりだ。

また、兵庫県ではイカナゴを太らせてから放流する試みも行われており、こちらの効果にも期待が寄せられている。

(関西テレビ「newsランナー」2026年2月26日放送)

三重県水産研究所の研究
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