「児童虐待をなくしたい」
その思いで、子どもたちの笑顔を守ってきた広島のご当地ヒーローがいる。真っ赤なもみじがトレードマークの「安芸戦士メープルカイザー」。活動16年、ヒーローは大きな転機を迎えていた。

ヒーロー誕生の原点は“虐待”

広島県では児童虐待の相談対応件数がこの10年、過去最多を更新し続けている。
そんな中、県内を中心に活動するメープルカイザーは、単なるショーの主役ではない。児童虐待防止の啓発を柱に1000回近く戦いを重ねてきた「本気のヒーロー」である。自治体から委託を受け、児童虐待防止運動と連携。保育園や養護施設へも積極的に足を運んできた。

子どもの頃のメープルカイザー
子どもの頃のメープルカイザー
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ヒーロー誕生の原点は、自身の幼少期にある。
子どものころ、両親は共働きで面倒を見られる環境ではなく、親族の家に預けられていた。
そこで待ち受けていたのは――
「テニスラケットでたたかれたり、縦笛で顔を殴られたり…。2階から、階段から突き落とされたこともありました」
親族の家を飛び出し、養護施設に保護された。平日は施設、土日は自宅で生活。しかし、虐待から逃れた後も学校や施設でのいじめに苦しんだ。

幼少期の体験を語るメープルカイザー
幼少期の体験を語るメープルカイザー

そんなとき心の支えになったのが、テレビのヒーローだった。
「仮面ライダーが助けてくれると思っていました。小さい頃の自分と同じ体験を、いまの子どもにしてほしくない」
その願いが、彼をヒーローにした。

「相手を傷つけない」戦い方

2月、呉市で開かれたヒーローショー。客席から子どもたちの声援が飛ぶ。
「頑張れー!」

2月23日、呉市で開かれたヒーローショー
2月23日、呉市で開かれたヒーローショー

「俺は子どもたちの未来を守るために誕生した正義の戦士!真っ赤に輝くもみじの化身、メープルカイザーだ!」
赤と黒のスーツ、額にもみじがなびくマスク。“広島らしさ”を表現した姿に、子どもたちの目は輝く。

ショーには彼なりの信念がある。
「同じ台本を2回やらないというのがこだわり。呼んでいただいたイベントに沿ったストーリーを考え、その中に親御さんや子どもたちへのメッセージを入れるんです」

2月7日、三原市の「子どもの権利理解促進イベント」に出演
2月7日、三原市の「子どもの権利理解促進イベント」に出演

同月、三原市のイベントにも登場した。戦いの場面で、ほかのヒーローにはない部分に気づかされる。
「この剣が切ったのはお前たちの体じゃない。悪い心だ!」
絶対に相手を傷つけない。悪を倒すのではなく、悪い心を正す。それが彼のヒーロー像である。

ショーのあとが本当のヒーロー時間

ヒーローショーが終わると、握手やサインを求めて子どもたちが集まってくる。

会場を訪れた子どもたちと握手
会場を訪れた子どもたちと握手

「ありがとうね!バイバイ、また会おうね」
訪れた人との時間を大切にするヒーロー。心がけているのは、必ず保護者とも握手を交わすこと。
「お父さんやお母さんが握手しているのを見て、子どもたちがすごく嬉しそうなんですね。不思議な感覚になります」

悩みを相談したファンの女性
悩みを相談したファンの女性

ときには悩み相談を受けることもある。反抗期の娘に悩む母親は、胸の内を明かした。
「高校生の長女がいるんですが、また反抗期がぶり返していて…。でも相談したら『誰もが通る道だから』と言ってくれて、かなり気持ちが楽になりました」
ショーの舞台裏にも、そんな彼の優しさがあった。

“活動休止”を決断させた葛藤と痛み

ただ、ヒーローも無敵ではない。
首の状態が悪く、しびれが続いている。そこへ1.3kgある変身マスクが負荷をかける。首の神経が圧迫され、痛みやめまいを感じることもあるという。医師からは手術の可能性も告げられた。
「皆さんを元気にするなら、僕も元気じゃないとダメだなと」

さらに、親子の時間を大切にと言いながら、自分は子どもと予定が合わず、行事にもなかなか参加できない。その葛藤が彼を苦しめていた。

「メープルカイザーやりたい?」と聞かれ、うなずく息子
「メープルカイザーやりたい?」と聞かれ、うなずく息子

活動を続けるか、やめるか。
背中を押したのは息子の一言だった。
「俺がメープルカイザーやるよ」
いつか息子が変身できるようになったときのために、活動終了ではなく“休止”と発表した。

活動を支えてきた妻・誉乃さん
活動を支えてきた妻・誉乃さん

活動を支えてきた妻はこう話す。
「寂しいといえば寂しいし、続けてほしい気持ちもあるけど、やっぱり体を大事にしてほしい」

惜しむファン、まだ戦いは終わらない

安芸戦士メープルカイザーは、2026年度末で戦いを終え、活動を休止する。
ヒーローショーに集まったファンから、惜しむ声が聞かれた。

3歳から追いかけるファン
3歳から追いかけるファン

3歳から応援してきたファンは「悲しいけど、また戻ってきてほしい」と願う。
手作りの“カイザースーツ”を着た子どもの母親は、こう話す。
「この子はショーに通うようになってから、人見知りがなくなってすごく明るくなりました。勇気と元気をもらえたことが一番です。活動を終えるまで、追いかけながら一緒に楽しめたらと思います」

安芸戦士メープルカイザー
安芸戦士メープルカイザー

活動は残り1年。
「まだまだ優しい社会をつくるために頑張ります」
ヒーローは再び舞台へ向かう。児童虐待のない未来を願い、その戦いは続いていく。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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