飛躍的な進歩が見られる人工知能「AI」、実はアニメ制作の現場でもその活用が始まっている。従来の手法では3週間かかる3分間のショートアニメが、AIを使えばわずか4日で完成するという。そんなアニメ制作の革命的な変化を島根ゆかりの企業が手がけている。
新しいコンテンツ作りの世界を探ってみた。
東京の制作会社「DLE」社長を直撃
文書の作成から情報収集、音楽や動画の作成まで幅広い分野で活用が進む「生成AI」。
こうした中、そのAIをアニメに活用するスタジオがあるということで、東京・千代田区にあるオフィスビルを訪ねた。
ここには、アニメ「秘密結社鷹の爪」などを手がける制作会社「ディー・エル・イー(DLE)」がある。
「DLEの代表、小野です」と自己紹介する小野亮社長。
小野社長は、人気キャラクター・しまねの「吉田くん」の声も担当する「FROGMAN」として知られるクリエーターだ。
「クレヨンしんちゃん」のスピンオフ作品「野原ひろし 昼メシの流儀」など話題作を手がけるこの会社は2025年、業界に先駆けて「AI」を導入した映像制作スタジオを社内に設けた。
AIで制作される「小泉八雲のKWAIDANの世界」
このスタジオで制作されているのが、TSKさんいん中央テレビで放送中の「小泉八雲のKWAIDANの世界」だ。生成AIを活用して松江ゆかりの文豪・小泉八雲の作品をアニメ風と実写調、異なるタッチで映像化した1話約3分間のショートアニメとなっている。
制作チームは監督の小野さん以下わずか4人。書き下ろしのオリジナルキャラクターデザインから絵コンテに沿って、シーンごとの画像を生成AIを使って作り出す。
例えば、雪女が息を吹きかけ男性を凍りつかせるシーンでは、顔の表情から背景まで生成AIに対し、「プロンプト」と呼ばれる文章で細かく指示を出す。そのプロンプトも生成AIで作成するという。
「立っていて、おかしいから座った状態で。抱えているアップだけで」など、制作スタッフはこうした指示を細かく追加、修正しながら理想の画像に近づけていく。
いわば「絵心」なしでもアニメーションが作ることができるのがAIの世界だ。
実写経験を生かせるAIアニメ制作
このスタジオの特徴的な点は、スタッフに映画やテレビなど実写での映像制作の現場経験がある人が少なくないことだ。
「テレビのバラエティのディレクターをやっていて、アニメはこれまで一切やったことがない。カット割りやカメラワークは自分が経験しているのも生かせている」とあるスタッフは語る。
小野社長も「今一番AIで魅力的に感じているのは、やはり早く作れるというポイント。いわゆるディレクターと言われる人たちが直観的にすぐ作ることができる」と話す。
「革命」的な変化を起こしつつあるAIによる映像制作、その最大のメリットは制作期間の短さだ。
DLEでは、1話3分程度のショートアニメを制作する場合、従来の手法で3週間程度かかるのに対し、AIを使用した「KWAIDAN」ではわずか4日。世の中の動きや流行を敏感に取り入れ、ヒットを狙う戦略だとしている。
AIで広がる表現の可能性
かつては作画から編集、声の出演までほぼ一人で完結する制作スタイルだった小野さんだが、AIに大きな可能性を感じているという。
「自分で書くので、自分が描ける絵の中でしか世界観を構築できなかった。そうなるとちょっとチープな…チープというとあれなんですけど、リミテッドアニメーションしか作れなかったんですけれども、AI使ったら一気に自分の表現の幅が広がった」
課題と未来への展望
一方で、生成AIを使ったアニメ制作は発展途上だ。複雑な動きを表現するのが難しいなど多くの課題がある。また、AIによって生成された著作権侵害にあたる動画がネット上で拡散され問題になることもあり、AIの活用は「賭け」だったともいう。
「ずっとアニメーションを作っている会社が生成AIを使うのはリスクは大きい。『なんだよ、あいつら、魂売ったのか』という風に言われるんじゃないか、炎上するんじゃないかというおそれはありましたけれども、ネガティブに反応する人は意外にいなかった、少なかった」と小野社長は振り返る。
DLEでは現在、AIを活用して観客の「アバター」、分身が作品本編に参加できるインタラクティブ映画を開発するなど、活用の幅を広げている。
「映像は何よりも企画とシナリオと演出、今までなかったエンタメもAIで作っていくというのは、我々の大きなテーマになっている」
従来の枠に捉われないアイデアで新しい「エンタメ」の世界へ。AIは今後、コンテンツの裾野を広げる欠くことのできないカギとなりそうだ。
(TSKさんいん中央テレビ)
