稀勢の里の応援に

 
 
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今場所ワタクシ国技館に二度足を運んだ。
これは立派な相撲ファンと言えるのではないか。
本音を言うと、昼間から甘くておいしい焼鳥をつまみに酒が飲める、というのが相撲見物の一番の楽しみなのだが、建前上は稀勢の里を応援に行ったのだ。

国技館は異様な雰囲気に包まれていた。
今場所負け越せば引退。
そもそもあのフラフラな戦いっぷりで千秋楽までもつのだろうか。

開幕5連勝の後、観客はみな、今日こそ、稀勢の里が負け、あとは堰を切ったように負け続けるのではないか、そして引退するのではないか、と心配していた。
稀勢の里が押し込まれると悲鳴が上がり、かろうじて勝つと安どのため息と割れるような拍手。
あちこちで涙ぐんでいる人がいた。

相撲人気はすごい

 
 

それにしても相撲人気はすごい。
我々が行った日はどちらも満員御礼。
そもそも切符が取れない。
だから友人にお茶屋さんを紹介してもらったり、マスを持っている人に連れて行ってもらったりした。

いつごろから切符が買えなくなったのかと、お茶屋さんに聞いてみると、「遠藤が出てきて、それから稀勢が横綱になった頃です」との答え。そうか、やはり日本人が強くなるとみんな相撲を見に来るのか。

稀勢の里に対しては2つの声がある
①  あのフラフラした相撲はとても横綱の取る相撲ではないので引退すべきだ。
②  日本人の相撲人気のために今辞められては困る。

まあ言いたいことはわかるんだけど。
でもなぜそんな嫌なことを言うのかな。

稀勢の里の新しい魅力

少なくとも稀勢の里の相撲を見てみんな泣いているんだよ。
一つの社会現象になっている。
それで十分ではないか。

稀勢の里は一見エラソーだ。
だから僕はあまり好きな力士ではなかった。
その稀勢の里が横綱になったら大ケガをして、フラフラと情けない相撲を取っている。
心なしか表情も以前のようにエラソーではなく、達観したような顔を見せたり、照れ笑いしたり、人間的になった、ような気がする。
これは彼の新しい魅力。

貴乃花の引退

ところで、貴乃花が相撲協会を辞めるらしい。
もったいないし、被害者側が責任取るって変な話だなとも思う。
ただ現役力士にとっては騒動自体が迷惑だし、国技館に通う相撲ファンにとっては実はどうでもいい話だ。
貴乃花が相撲取るわけじゃないからね。昔の人です。

つまり貴乃花が辞めても、来場所も僕は毎日相撲を観る。
情けない稀勢の里を応援する。
御嶽海とか阿炎とか若手も育ってるし、今、スポーツの中で間違いなく相撲が一番面白いのだ。

頑張れ!稀勢の里

ただこのまま稀勢の里はどんどん弱くなってしまうのではないか。
そしてさらに情けなくなってしまうのではないか。
それを考えるといたたまれない気持ちになる。

本音を言うと早く楽にしてやりたい。
でも、そういうわけにはいかないんだろうな。
ともかく頑張れ!稀勢の里。

(執筆:フジテレビ 上席解説委員 平井文夫)

(イラスト:さいとうひさし)

平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。