教育現場でいま、教員不足が深刻な問題となっている。静岡県内における公立の小中学校の教員は50人以上も不足している状態だという。背景には、長時間労働など負担が重いことがある。こうした中、現場では教員の負担軽減に向け、様々な取り組みが進められ、実際に成果も出て来ているようだ。

喫緊の課題「教員不足」

静岡県教育委員会
静岡県教育委員会
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県庁にある静岡県教育委員会。いま、ある問題に頭を悩ませている。

県教育委員会 義務教育課・石田善正さんは「教員不足の解消というのは喫緊の課題だと捉えている」と話す。

県教育委員会が行う小中学校の採用試験の受験者数は2016年度に1408人だったが、2025年度は1120人と、この10年間で2割減少している。

静岡県内の教員不足数
静岡県内の教員不足数

それに伴い起きているのが教員不足だ。静岡と浜松の政令指定都市を除く県内の公立小中学校の教員は、2023年度に76人、2024年度は52人が不足した。

要因の1つには、長時間勤務による教員の人気低下があるという。

県教育委員会 義務教育課・石田善正さん
教員に求められるものが非常に多く、教員への期待が非常に高まる中で、どうしても勤務が長時間になってしまい、それが教員の成り手不足の要因の1つとなっている

教師をサポートする専門スタッフ

英語の授業をする山下亜佑美 先生
英語の授業をする山下亜佑美 先生

教員の労働環境改善は喫緊の課題だが、そうした中で独自の取り組みも始まっている。

三島市の向山小学校6年生のクラスでは手作り教材を使い、楽しそうに英語の授業が行われていた。

英語教員の山下亜佑美さんは、黒板に張り出すカードや生徒用の単語カードを授業の教材としてこれまで自分で作成。印刷から切り取り、仕分けまで、かなりの手間がかかっていたが、いまは専門のスタッフに依頼して負担が軽くなったそうだ。

向山小学校・山下亜佑美 先生
データで作るのは自分ですが、色分けしてグループごとに作りたいので、 カットして、整頓し直して、グループごとにすることはお願いしています。すごく助かっています

スクールサポートスタッフ・伊澤郁子さん
スクールサポートスタッフ・伊澤郁子さん

これらの作業を任されているのが伊澤郁子さん。“スクールサポートスタッフ”と呼ばれる教員の作業を代行する専門のスタッフだ。

この日、印刷室で行っていたのは5年生の割り算の計算問題を印刷する作業。多い時には全校児童500人以上のプリントをする。

ほかにも慣れた手つきで配布物をクラスごとに仕分けをしたり、4年生の先生から依頼された漢字ドリルの丸付けを手際よくこなしたりと大忙しの様子だ。

勤務は1週間に20時間。教員1人あたり、週20分ほどの勤務時間の削減につながっている。

“スクールサポートスタッフ”は現在、県内の公立の小中学校すべてに広がっていて、教員も時間を有効活用できているといい、山下先生は「(作業を)お願いできる分、授業の大事な部分を研究する時間に充てられるのでありがたい」と証言する。

一方、“スクールサポートスタッフ”の伊澤さんも「役に立っていればいい。もっともっと仕事をして先生の仕事を軽減できるといい」と話した。

ITを活用し効率化推進

長井崎小中一貫学校の登校風景
長井崎小中一貫学校の登校風景

また、独自で働き方改革に取り組む学校がある。

沼津市の長井崎小中一貫学校で行われているのがITを活用した業務の効率化だ。

パソコンを見る内村浩司 教頭
パソコンを見る内村浩司 教頭

朝8時前、教頭が確認していたのは生徒からの欠席と遅刻の連絡。保護者にアプリケーション上で入力してもらうと教員に自動で共有される。

これにより保護者からの電話への対応や教員間での連絡作業を省くことができた。

この自動共有化システムの効果を訊ねると内村浩司 教頭から「かなり楽になっています」と返って来た。

さらに教室でも…

時間割の画面
時間割の画面

国語の授業を行う6年生のクラス担任・阿辺真言 先生は教員のスケジュール管理にもウェブ上でのシステムを活用している。

画面上にビッシリと並ぶ授業科目。これまで多くの時間を割いていた1週間の時間割の作成も基本となる部分は自動で作成される。

さらに、他の教員との授業時間の調整などもすべてシステム上で可能だ。

さらに、学校行事の作成や会議などもウェブの活用で効率化し、導入前と比べて1日の勤務時間を約1時間20分も削減した。

長井崎小中一貫学校・阿辺真言 先生:
連絡調整の手間が一気に省けたので時間が圧倒的に生まれ、子供との時間が生み出せているのですごくいい。デジタルを通して自分も子供もゆとりが生まれて、接し方が温かくなったり優しくなったり待つことができたり、いろいろな点でいい

このシステムを開発したのは2023年までこの学校に勤務していたプログラミングに詳しい教員で、自らプログラミング言語を入力して、システムを作成したそうだ。

現場の成功事例を拡散・共有化

このように業務の改善は各学校独自の取り組みに頼っているのが現状だが、県教委はよい取り組みは広げていく考えだ。

県教育委員会 義務教育課・石田善正さん
(教員が)心身ともに健康な状態で生活することができ、子供と向き合う時間が確保できることで教育の質そのものも向上して、子供の学力等も伸びていく正のスパイラルに入っていく

授業中の山下先生
授業中の山下先生

また、県教委と静岡・浜松両市の教育委員会は、採用試験の日程を例年より2カ月前倒し、全国でも最も早いスケジュールとして民間に流れる優れた人材確保を目指した結果、2025年度に採用する教員の希望者は過去10年間で初めて上昇に転じた。

教員も児童・生徒も満たされた環境をいかに作っていくのかが今後の教育のカギと言えそうだ。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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