着用者が多数派であること、非着用者に否定的な反応があることから、外したくても外せない状況が生まれているのかもしれない。

マスクを外せない状況にはどんな要素が影響しているのだろう。医療・健康心理学の研究者で大阪大学大学院の平井啓 准教授に、心理的な背景を伺った。

マスクを外せないのは「自分の判断」で着けているから

――海外はマスク着用撤廃の動きもあるが、日本では外さない傾向が強い。これはなぜ?

海外と日本の大きな違いは、マスク着用を義務としたかどうか。海外はルール化して、それを解除したので人々が外しました。一方の日本は着用をお願いしたので、個人が「自分の判断」でマスクを着けています。外すことも自分の判断になるので、明確な何かがなければ難しいと思います。これが一つ。

自分の判断でマスクを着けている(画像はイメージ)
自分の判断でマスクを着けている(画像はイメージ)

――他にはどんな要因が考えられる?

もう一つは、心理面での「作為」(積極的な行為)と「不作為」(消極的な行為)になります。一般的に作為的な行動は責任を感じやすく、不作為的な行動は責任を感じにくいです。例えば、健康診断を申し込んだ後に予約をキャンセルした。あるいは、最初から申し込まなかったとします。

どちらの行動も「健診を受けない」結果は同じですが、予約をキャンセルすること(作為)は責任や罪悪感を感じる。最初から申し込まないこと(不作為)はそれらを感じにくい。病気が見つからないことは、本人にとって避けたいことであるはずなのにです。今は人々がマスクを自分の判断で着用しているので、外すことが作為になっている。そのため、外しにくいのではないでしょうか。
 

――同じ行動でも、状況で作為と不作為は変わるということ?

はい。積極的な行為や心理的なコストがかかるものが作為となります。今はみんながマスクを着けていて外すことが日常を変えることになる。そのため、外すことが作為になる。これが逆にみんなが着用しなくなれば着けることが作為になります。自分の選択で何かを決めるよりも、他人と同じようにするほうが簡単ということですね。

作為と不作為の例と影響(編集部作成)
作為と不作為の例と影響(編集部作成)

――長期的なマスク着用は、人間の心理や行動にどう影響すると考えられる?

人間のコミュニケーションは、相手の表情を読み取って気分を判断するなど、ノンバーバル(非言語)の割合が大きいと言われています。マスクを着用すると顔の半分が遮られるので、このコミュニケーションが難しいところはあります。ただ、その分を言葉での説明で補っている可能性もあるので、言葉にして伝えるようになったと言えるかもしれません。