岩手県大槌町大ケ口の住宅街の中に佇む割烹「岩戸」。
創業は明治初め、約130年にわたり地域の食文化とともに歩んできた日本料理の老舗です。
2011年の東日本大震災で店舗と自宅を失いながらも、場所を移して営業を再開。伝統の味を守り続けています。
4代目店主・佐藤剛さんは「鮮度に勝る高級食材は無しという思いで、地元で獲れた旬の食材を使って料理に花を添えたい」という思いから、大槌サーモンや鹿肉など、地元の食材を主役にした調理を心がけています。
大槌の海と山の幸が盛り込まれた看板メニューの一つ「大槌之極松花堂御膳土鍋飯仕立」は、松花堂弁当の器に四季折々の味覚を丁寧に詰めています。
しっとりと焼きあげた鹿肉のわら焼きは鹿肉のおいしさを引き出した一品です。
熟成させたもも肉をニンニクとバターで焼き、オーブンでじっくりと火を通したあと、わらであぶって香ばしさをプラスします。
佐藤さんはその味わいを、「鹿の血とわらの薫香が合わさると、カツオだしのような風味が加わる。多少鹿(肉)のクセも和らぐ」と語ります。
表面は香ばしく、中はほんのりピンク色。
鹿肉のうま味がぎゅっと凝縮され、しょうゆベースの和風ダレがさらに味わいを引き立てます。
もう一つの主役、大槌サーモンもまた逸品。
「くせが無い脂身で、さっぱりしていて食べやすいおいしいサーモン」と佐藤さんが話すこの「大槌サーモン一塩焼き」は、焼き方にも工夫が。
佐藤さんによると、一度皮目を干して乾燥させたあと、油をかけながら表面の皮目だけ火入れすることで“せんべいのようなパリパリ感”を生み出すのだといいます。
炭火でじっくり焼き上げた身は脂が乗り、とろけるような口どけ。絶妙な塩加減が甘みを引き立てます。
御膳には、大槌産ひとめぼれを土鍋で炊いたつやつやのご飯、市場で目利きした旬の魚の刺身、天ぷらや煮物などが彩り豊かに添えられています。
「岩戸」の名物のひとつが手打ちそば。
そばの上にとろろイモと大槌産のカキをのせ、陸前高田産のゆずが香る上品な季節限定メニューが登場しています。
佐藤さんは「地元の食材を使って地域の歴史や風土・文化を表現する料理を作って大槌を訪れる人を喜ばせたい」と話します。
震災を乗り越え、いまも地域とともに歩み続ける割烹「岩戸」。
その一品一品には、大槌への深い愛情と、明治初めからの長い歴史の重みが込められていました。