「黙って投資しろ」高市首相が進撃の巨人に
高市首相は「Just shut your mouths. And invest everything in me!!(いいから黙って、全部オレに投資しろ!)」とステージから言い放ち、会場からは大きな拍手が上がった。
中東でも人気のアニメ「進撃の巨人」主人公エレンの名台詞だ。
サウジアラビアが主導する国際金融会議「FII(未来投資イニシアチブ)」、初めての東京開催での演説だ。
FIIは別名「砂漠のダボス会議」とよばれ、世界の投資家や企業家の注目を集める。マイアミでの開催時にはトランプ大統領も出席した。
そのFIIが11月30日から12月1日、初めて日本で開かれた。日本、サウジのみならず欧米やアジアなど各国の企業、投資家が集まった。
12月1日のメイン会議では高市首相に加え小池都知事が開会スピーチを務め、「東京は完璧な投資先だ」と会場に呼びかけた。
国会開会中だがスケジュールの合間を縫う形で、片山財務相、赤沢経産相もステージに現れ「サウジには日本企業にとって様々なビジネスチャンスがある」と期待感をにじませた。
前夜、高級ホテル「フェアモント」の32階レストランで開かれた歓迎レセプションには、林総務相、小泉防衛相、西村元経産相らが訪れ、高市政権がサウジに強い関心を持っていることが見て取れる。
もちろん日本にとってサウジはこれまでも最大の石油の輸入先の一つで戦略的に重要な国だった。しかし今、日本政府や企業がサウジに熱い視線を注ぐのは、別の理由がある。
40歳の王位継承者が進めるサウジ「構造改革」
それが王位継承者であるムハンマド皇太子が推進する「ヴィジョン2030」という社会・経済の構造改革プログラムだ。
大きな目的は脱・石油依存経済。
それを支える戦略として内外の投資を呼び込む金融地区の充実、グリーンエコノミーの推進、そしてデジタル産業の拡大などがある。
世界最大級の石油埋蔵量で築き上げたサウジの巨大な資本が、今、新しい方向にシフトしようとしているのだ。
日本の3メガバンクなどはサウジに510億ドル、およそ8兆円を供給するMOU=覚え書きをサウジ側と締結しており、この日、FII会場には三菱UFJの三毛会長ら3メガのトップが勢揃いした。
また、丸紅グループも排出権ビジネスでサウジ政府系企業とMOU締結の調印を行った。
しかし、これら大企業だけではなくFII 会場には新手のベンチャーやメタバースなどのクリエイティブ系のスタートアップが多数集結した。
これら若い企業は特にゲームやアニメ、eスポーツなどエンタメの分野でサウジに大きなビジネスチャンスが潜んでいるとみている。
巨大エンタメ都市「キディヤ」構想
ムハンマド皇太子は40歳で、日本アニメの大ファンとされ、「ヴィジョン2030」の中核として巨大エンタメ都市「キディヤ」構想を打ち出した。
首都リヤドから45キロ、360平方キロの娯楽に特化した都市を作る。
東京23区が約620平方キロメートル。キディヤの巨大さが分かる。
アリーナ、商業地区、F1サーキットに加え世界で初の「ドラゴンボール」テーマパークも作られる。エンタメを国の成長エンジンにするという形だ。
今回FIIでセガサミーホールディングスの里見CEOとパネルディスカッションを行った、Eスポーツやコンテンツ産業の推進役、ファイサル王子は、「ゲームやeスポーツは、単なるエンタメではなく人間を育てる教育的な役割もある」として、ビジネスだけではなく、社会的インフラとしての役割も強調する。
日本の若手ベンチャーも続々サウジに
こういったサウジのエンタメ構想のスケールの大きさに日本の若手ベンチャー達がひきつけられている。
DXを通じ社会課題解決を手がける東京のベンチャー「ウフル」の園田崇史CEOは2018年から20回近くサウジを訪れ、経産省とも連携し、2030年のリヤド万博や2034年のサッカー・サウジW杯を見据えてスポーツやエンタメ関連のプロジェクトを推進する。
園田CEOは、「まず、日本文化へのリスペクトがある。欧米と違う日本のポップカルチャーのオリジナリティへの評価が非常に高い」として日本のクリエイティブ産業にとって非常に魅力的なマーケットだと評価する。
日本の総合商社の中東専門家は「サウジアラビアにはメッカとメディナという2つのイスラム教の聖地があり、ムスリム世界で大きな影響力を持つ。サウジを通じて中東・北アフリカの5億人という巨大マーケットが広がる」と指摘する。
しかも人口構成は若く、サウジアラビアの人口の6割以上が30歳未満で、市場の拡大が見込まれる。
中国との緊張関係が依然として払拭出来ない中で、アラブの「盟主」サウジの新しい挑戦に、日本はどう関わっていくのか。政府、民間企業問わず大きな課題の一つだ。
