3年前に安倍元総理を銃撃し、殺害した罪などに問われている山上徹也被告(45)の裁判員裁判は、13日と18日から20日まであわせて4日間、母親と妹の証人尋問、そして山上被告の被告人質問が実施された。
いったいなぜ事件が起きてしまったのか。
法廷で語られたのは、家庭を顧みずに献金し、信仰にのめりこんでいった母親と、それに苦しむ家族の姿だった。
それとともに山上被告の妹は「安倍元総理が被害者で不思議ではなかったか」という質問に「不思議ではなかった」と答えた。
そう思う背景には何があったのだろうか。
■母親 入信から7カ月で5000万円献金 子供3人残して韓国へ渡ったことも
まず今月13日に実施された山上被告の母親の証人尋問からは、母親の入信のきっかけや献金にのめりこんでいった経緯が語られた。
長男(=山上被告の兄)が病気に苦しんでいた1991年7月、自宅に旧統一教会の女性信者が訪ねてきたことがきっかけで入信したという。
その1カ月後には自殺した夫(山上被告)の保険金を元手に2000万円を献金し、さらに7カ月後には3000万円を献金したそうだ。
そして「献金することで教団側にちやほやされ、有頂天になった」(証人尋問の内容より)という母親は、信仰にのめりこんでいく。
時には当時14歳の山上被告、1歳上の兄、まだ10歳だった妹を置いて、1人で教団行事に参加するため、韓国に渡ったこともあると話した。
<証人尋問より>
(Q.世話は誰が?)
【山上被告の母親】「父がしてくれていました」
(Q.前もって言ったのか?)
【山上被告の母親】「そう思います。食事は3日分作って冷蔵庫に入れて行きました」
■「私が加害者だと思っています」と証言も
続く今月18日の証人尋問では、事件について語られる中で、母親は自身を「加害者」と表現した。
【山上被告の母】「私が加害者だと思っています。献金を黙ってしていたし、子供たちを置いてほったらかしでやってきたのも事実。教会に尽くしたら(家が)よくなると思ったので。それを利用したのは教会だと思う」
母親が退廷する際、「徹也には本当に申し訳なかったと思っています」と話し、「てっちゃんごめんね」とぽつりと言った。
山上被告は上をちらっと見上げ、涙をこらえているようにも見えた。
母親は自身の信仰を顧みたのだろうか。
■妹が証言「生い立ちは忘れようと生きてきた」「徹也と施設にでも行けば」
そんな信仰にのめりこんだ母親によって、家庭が壊れていったことを語ったのが、山上被告の妹だ。18日と19日、母親に続いて証人として法廷に立ち、その苦しみを語った。
(以下、18日と19日に語られた内容)
【山上被告の妹】「生い立ちは、話すと涙が出てきて口に出すのがつらく、なるべく忘れようと生きてきました」
【山上被告の妹】「私と徹也の2人だけでもあのとき児童養護施設にでも行けばよかった。後悔している」
(涙ながらに。母親の信仰に反対した祖父に「出ていけ」と追い出された時のこと)
■「母が連絡するのは私が出て行ってから金の無心のみ」語られた困窮
母親の多額の献金によって、経済的にも苦しんだという。
【山上被告の妹】「破産前、クレジットカード会社から督促状が届いたり、電話がかかってきたり。 私の、銀行口座の残高が、ゼロになったりしていました。私のお年玉をためたものでした」
【山上被告の妹】「母が連絡するのは私が出て行ってから金の無心のみ。私の腕にしがみついて私が50メートルぐらい母を引きずって歩いて行って恥ずかしくてみじめでつらかったです。
私に関心ないくせに、その時だけは『払え』と鬼の形相。その時だけ母として偉そうに言うのに腹が立ちます。その時私の母ではないと思った。母のふりをして私に言ってきている。(泣きながら)私はつきはなせなかった」
■安倍元総理は被害者で「不思議ではなかった」妹が語った背景とは
そして安倍元総理が殺害されたことを巡って妹は「安倍元総理が被害者であることは不思議ではなかったか?」と聞かれると、「不思議ではなかった」と語り、理由については、「母の妹も信者で、おばから選挙の時に自民党に入れてほしいと聞いていた」と説明。
安倍元総理が教団の関連団体に送ったメッセージ動画について、そのおばから「素晴らしいから見てほしいと、URLが送られてきた」と説明した。
ではなぜ山上被告は安倍元総理の命を狙ったのだろうか。
旧統一教会と安倍元総理の関係は語られたが、信仰にのめりこんだ母親やその原因の旧統一教会を恨んでいたとして、なぜ教団自体や母親を狙わず、安倍元総理だったのか。
■検察側 妹に「統一教会に復讐を考えたことはありますか」質問
妹の証人尋問で、検察側が旧統一教会への考えを聞く場面があった。
(Q.あなたは統一教会について反感を持っていたか?)
【山上被告の妹】「持っていました」
(Q.あなたは統一教会に復讐を考えたことはありますか?)
【山上被告の妹】「復讐するよりも関わり合いたくないという気持ち。復讐できるならしていたかもしれない」
(Q.どういった復讐を?)
【山上被告の妹】「統一教会をなくす」
(Q.そうした活動をあなたが取り組むということ?)
【山上被告の妹】「そういうことです」
検察側は、同じ境遇だった妹が復讐を考えた場合でも、それは教団に向くということを示したかったのだろうか。
20日に実施された山上被告の被告人質問では、生い立ちの質問が主だった。今後の裁判で動機を巡ってどのようなことが語られるだろうか。