来月には東大阪市で全国大会が開催される高校ラグビー。しかし、その一方で競技人口が激減している現実をご存じでしょうか。

大阪府立富田林高校ラグビー部。かつての強豪校で、たった1人も諦めず、毎日グラウンドに立ち続ける高校3年生がいます。

■「一番力入れてるのはタックル」

大阪府立富田林高校ラグビー部の百田迅(ももた・じん)さん。全国大会をかけた大阪府の予選が近づいていて、練習にも力が入ります。

【富田林高校ラグビー部 百田迅さん(3年生)】「普段の練習で、一番力入れてるのはタックルなんで、タックルで相手を倒したいと思います」

しかし、練習しているのはグラウンドの隅っこ。なぜなら、ラグビー部の部員は迅さん1人だけだからです。

入学してから3年間、ほとんどの時間を顧問の栫聡太先生とマンツーマンで練習に取り組んできました。

(Q.先生も汗だくですね)
【富田林高校ラグビー部顧問 栫聡太先生】「いや…暑いです」

2人で黙々とタックルの練習に取り組んでいました。

15人でひとチームのラグビー。一体、どうしてこんな状況になったのでしょうか。

■伝統あるラグビー部の衰退 少子化の影響を受ける部活動

およそ40年前、富田林高校は大阪府予選の決勝に進出したことがあるほど、ラグビーに熱心な学校でした。

実は、栫先生もこの学校のOB。当時は30人ほど部員がいて、キャプテンとしてチームを率いていました。

12年前に、富田林高校に教師として赴任しました。

【富田林高校ラグビー部顧問 栫聡太先生】「ここに赴任した時にはもう部員が2名ほどしかいないというような状況で、どんどんどんどん減って、今もう最後3年生1人というような状況です。

OBとして帰ってきて、なかなか15人そろってない状況ってのがあるので、そこは不甲斐ない気持ちというか、悔しいというか、そんな気持ちを持ってます」

一方、チームメイトがいない状況で練習を続ける迅さんの苦労は計り知れません。

【富田林高校ラグビー部 百田迅さん(3年生)】「個人でグラウンドとかトレーニングするときは、自分でそのモチベーション保ってやんないといけないんで、そこがしんどいです」

■迅さんが卒業するとラグビー部の部員はゼロに

迅さんは4歳のころ、ラグビーの世界に飛び込みました。

4人兄弟の3男である迅さん。兄弟全員がラグビー経験者です。

【富田林高校ラグビー部 百田迅さん(3年生)】「ボクシングとか階級があるじゃないですか。けど、ラグビーはその階級とかなくて。小さいやつが大きいやつをなんか唯一倒せるスポーツだと思うんで。それが魅力です」

現在高校3年の迅さんが卒業すると、富田林高校ラグビー部の部員はゼロになってしまいます。なぜそれでもラグビーを続けてきたのでしょうか。

【富田林高校ラグビー部 百田迅さん(3年生)】「続けられた理由は、やっぱ栫先生が優しくてしっかり面倒見てくれて楽しいからです」

■ラグビー部の消滅は全国的な問題 競技人口が激減

富田林高校だけでなく、”ラグビー部の消滅”は全国的な問題です。

【富田林高校ラグビー部顧問 栫聡太先生】「やっぱりどうしてもラグビー『痛い』『ケガする』。ゲーム成り立つ上で15人っていう、他の競技と比べても非常に多いというところで。

なかなか15人そろわないとなると、練習環境もやっぱりどんどん制約されてしまう部分もあるのかなっていうところは、1つかなと思ってますね」

ラグビーと出会うきっかけになる地域のラグビースクール。

迅さんが通っていたスクールも、かつては中学生の部まで存在していましたが、入る子供が減り、現在は小学生の部のみです。

■合同チームで挑む公式戦

聖地・花園で行われる全国大会。今年度の大阪府予選では、出場する60校のうち、半分ほどの高校が他校と合同でチームを組んで出場します。

この日は、富田林高校が所属する合同チームの練習日。

【富田林高校ラグビー部 百田迅さん(3年生)】「楽しいです。やっぱりいろんな高校の人と会えるんで、それでいろんな人と会えていろんなプレー見れるんで、いろんなことを吸収できます」

一回戦を勝利した合同チームの次なる相手は常翔学園。花園で5度の優勝経験がある日本屈指の強豪校です。

合同チームのため、どれか1校のジャージにそろえて試合に出場するため、迅さんは、富田林高校のユニフォームを着て公式戦に出場したことがありません。

【富田林高校ラグビー部 百田迅さん(3年生)】「やっぱり(富田林高校)黄色と黒のユニフォーム着て、プレーしたいなと思います」

この日、合同チームを組む生野高校のマネージャーから試合前のお守りをもらった迅さん。

「他校でも関係なく、元気が出ますね。頑張ろうって思えます」と笑顔を見せました。

■「大学ではラグビーは…1回ちょっとやめようかな」

迅さんの母・千代さん。1人で練習に励む息子を支え続けてきました。

【迅さんの母・千代さん】「1人やから、練習ときの写真撮れないんですよね。自分で頑張ってインスタして、“ラグビー部です”とか(投稿)しているけど、ずっと風景しか写真ない。

少子化やからね、仕方ないんやけどラグビーなんか、しかも15人のスポーツで。自転車で通える学校で部活ができるっていう環境がどんどんなくなってるなっていうふうに思います」

高校卒業後の進路について聞かれた迅さんは、「大学ではラグビーは…1回ちょっとやめようかなと。今までラグビーとかしかしたことなかった。いろんなことやりたいです」と答えます。

3年間支えてくれた栫先生については…

【富田林高校ラグビー部 百田迅さん(3年生)】「師匠ですね。この1人の部員にあそこまで親身になってやってくれる先生は、やっぱり栫先生しかいないと思うんで。もう感謝しかないです」

■強豪校との戦い “One for all, all for one”

いよいよ試合当日。合同チームの選手たちは学校はバラバラだが、「One for all, all for one」の精神で試合に臨みます。

【富田林高校ラグビー部 百田迅さん(3年生)】「もちろん勝つつもりで。梃子面世帯ですね。楽しみですね。常翔とやれるの」

試合開始。序盤、迅さんはグラウンドの外から声を出します。

合同チームは、強豪・常翔学園相手にも果敢に攻めていきますが、前半から大きく点差をつけられてしまいます。

後半10分、ついに迅さんがグラウンドへ。3年間磨き上げたタックルで必死に食らいつきます。

それでも常翔学園の勢いを止めることはできず、試合終了。強豪相手に臆することなく、合同チームは戦い抜きました。

■「目標にしてた相手を圧倒するタックルはできたかな」

【富田林高校ラグビー部 百田迅さん(3年生)】「これが全国(レベル)かっていう感じの強さでした。目標にしてた“相手を圧倒するタックル”はできたかなと思ってる。

このチームでやれて周りに恵まれてこの3年間ちゃんと続けることができたんで悔いはないです。振り返ったら本当にもう一瞬で楽しい3年間やったなと」

試合後、栫先生に感謝を伝えました。

【富田林高校ラグビー部 百田迅さん(3年生)】「ありがとうございました」
【富田林高校ラグビー部顧問 栫聡太先生】「どうやった?」
【百田迅さん】「悔しいですけど。楽しかったです」
【栫聡太先生】「そう思えるのは、ひとりながらしっかりと頑張って今日を迎えれたっていう、迅の今までの頑張りやと思う。

週末しかラグビーらしいラグビーはできなくて、しんどいところもいろいろあったと思うけど、ほんまによく頑張ってくれたなって。

今日という日に先生も立ち会えたところで言えば、すごく感謝してるから、ほんまにお疲れ様とありがとう」

■最後までラグビーと向き合った3年間

迅さんの最後の試合から数日後。グラウンドにラグビー部の姿はありません。

「未来の富田林ラグビー部どんな姿を見たい?」という質問に、迅さんはこう答えた。

【富田林高校ラグビー部 百田迅さん(3年生)】「それはもちろん、黄色と黒のユニフォームで15人で公式戦で常翔とか倒してるところを見たいです」

(関西テレビ「newsランナー」2025年11月21日放送)

関西テレビ
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