見た目はゆるキャラ 役割は大学広報

「真面目な大学」というイメージを持たれがちな東北大学が、今、とある“妖精”を前面に押し出している。
その名は「研一」(けんいち)。黄緑色のもっちりボディに、頭からは大学の学章にも使われる植物・ハギが生えた謎の生物である。

生協で販売されるぬいぐるみは即完売、くまモンとのコラボも実現するなど、学内外で注目を集めている。SNSでも「なぜか愛おしい」「じわじわくる」と話題だ。

この妖精、いったい何者なのか。東北大の“本気の柔らかさ”をのぞいてみた。

学内公募から誕生 「研究第一主義」の化身?

「研一」が誕生したのは、2022年。大学創立115周年と総合大学100周年の節目にあわせて、学内で広報キャラクターを募集したのがきっかけだった。

採用されたのは、当時医学部5年だった女子大生の案。
「研究第一主義」という大学の理念にちなんで“研一”と名付け、自然豊かな青葉山キャンパスを思わせる黄緑色のボディと、学章のモチーフであるハギをあしらったデザインに仕上げた。

「大学の自由でのびのびした雰囲気を、キャラクターに込めた」という制作者。スケッチ段階では20〜30案を描いたが、「この丸っこさは譲れなかった」そうだ。

学術の東北大が“本気でゆるキャラ開発”して誕生した「研一」(提供:東北大学)
学術の東北大が“本気でゆるキャラ開発”して誕生した「研一」(提供:東北大学)
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広がる人気 “学内の推し”から大学の顔へ

研一は学内イベントにもひょっこりと姿を現す。
その人気は着実に広がっており、学生の間では「東北大のマスコット」として親しまれている。

大学生協が販売するぬいぐるみ(高さ15cm・税込900円)は、これまでに幾度も販売されては即完売。
とくに2025年4月の第3弾販売では、2日間で3000個が売り切れるほどの盛況ぶりだった。販売日は、売店に長蛇の列ができるのも恒例になりつつある。

グッズ展開も活発で、アクリルスタンドやLINEスタンプのほか、熊本大学との連携協定を記念し、熊本県のPRキャラクター「くまモン」とのコラボ商品も制作された。
「大学のキャラクター」としては、異例の存在感である。

大学生協などで販売されている「研一ぬい」販売前には行列ができる人気ぶりだ
大学生協などで販売されている「研一ぬい」販売前には行列ができる人気ぶりだ

SNS運用に着ぐるみ出動 広報室が全力サポート

大学広報室もこの妖精の活躍を支えている。
Instagramは日本語と英語の2言語で運用され、留学生や海外の大学からの反応も少なくないという。

「真面目で堅いと思われがちな東北大の印象を、少しやわらかくしてくれている」と語る広報室のスタッフ。

“研一のマネージャー”的立場のスタッフもおり、日々、イベント出演の調整からグッズ企画、SNS投稿までを幅広く担当している。

研一のスケジュール管理をする職員に、研一と一緒に現場に出向くスタッフ…。
東北大学では、人間と妖精が肩を並べて働いている。

研一の“よちよち歩き”がたまらないというファンも…付き添いスタッフがサポートする
研一の“よちよち歩き”がたまらないというファンも…付き添いスタッフがサポートする

研一、ついに“プロ野球デビュー” 始球式でうちわもバズる

2025年7月には、プロ野球・楽天イーグルスの本拠地「楽天モバイルパーク宮城」で行われた『東北大学Meet-up Day』に登場。始球式には冨永悌二総長がマウンドに立ったが、その横でスタンドの視線を一身に集めていたのが、研一だった。

この日は来場者全員に「研一うちわ」が配布され、会場では研一グッズが当たるガラポン抽選会も開催。アクリルスタンドなどのオリジナルグッズも販売された。“野球場に現れた妖精”は、学生だけでなく家族連れや野球ファンの心にも、ふわっと爪痕を残した。

SNSでは「研一が始球式に出てきてビビった」「うちわ欲しかった」といった投稿も多数。
大学の妖精がプロ野球イベントに登場するという異例の展開に、研一の“知名度の広がり”を実感する声もあがっている。

提供:東北大学
提供:東北大学

制作者はいま研修医 漫画は「まだ完結していない」

「研一」生みの親の女子大生は、2024年春に医学部を卒業し、現在は仙台市内の医療機関で研修医として勤務している。

学生時代はキャラクターの開発だけでなく、学生広報スタッフとして研一の“大学生活”を漫画に描き、大学のウェブサイトで公開。ぬいぐるみのデザイン監修にも関わった。

じつはまだ、漫画は完結していないという。研一は、作者にとってもまだ“成長途中”の存在なのかもしれない。

研一はまるで“恋人”と語る東北大生 「ぬい活」ブームもあって大人気のようだ
研一はまるで“恋人”と語る東北大生 「ぬい活」ブームもあって大人気のようだ

国際卓越研究大学の“顔”として

2024年11月、東北大学は「国際卓越研究大学」に指定された。
日本初の指定であり、世界的な研究拠点として今後の展開が期待される中、大学を内外に印象づける“顔”としても研一が注目されている。

“学術の東北大”が、“妖精”を広報に起用するという柔軟な戦略。
そこには、硬さだけでなく、開かれた知性を感じさせる東北大のもう一つの姿がある。

キャンパスのどこかで、ひょっこりと研究室に現れる妖精。
その姿は、これからも静かに大学の風景に溶け込んでいきそうだ。

国際卓越研究大学・東北大の“顔”「研一」が象徴するのは大学の“硬さと柔らかさ”の戦略だった
国際卓越研究大学・東北大の“顔”「研一」が象徴するのは大学の“硬さと柔らかさ”の戦略だった

【脚注】「研一」3歳の誕生日…いや、100歳超えの妖精でした

東北大学の公式HPによれば、研一のキャラクターデザイン原案が決定し、正式に世にお披露目されたのは2022年11月18日。
奇しくも本稿の公開日―2025年11月18日は、研一にとって“3歳の誕生日”にあたる。

…いや、研一は大学創設期からひょっこり現れている妖精である。
本当の年齢はおそらく100歳どころか、もっと上。

“若くて歴史の長い妖精”という矛盾こそが、東北大らしい柔らかさなのかもしれない。

各局がニュースで報じるほどの「研一」の人気ぶり…これからも目が離せない
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仙台放送
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