子どもの持つ権利を明確にすべき。国会議員らが“子ども基本法制定に向けて意見交換
自民党の「児童の養護と未来を考える議員連盟」及び超党派の「児童虐待から子どもを守る議員の会」の合同勉強会が10月9日に国会内で行われた。
この記事の画像(7枚)この日の議題は、日本財団の「子どもの権利を保障する法律(仮称:子ども基本法)および制度に関する研究会」が取りまとめた提言の中で必要性が指摘された“子ども基本法の制定”に関する意見交換だった。
両議連の会長を務める塩崎恭久・元厚生労働相は冒頭の挨拶で「子供の権利が確立されておらず色々と問題が起きている」と指摘したうえで、「抜本的な権利を定めなければいけない。これから国会議員としての責務を果たすべく考えていきたい」と子ども基本法の制定に向けた意気込みを語った。参加した国会議員からも「基本法に賛成だ」「早急に制定すべきだ」との声が相次いだ。
子どもの虐待・自殺・いじめが増え続ける日本
1989年、第44回国連総会で「子どもの権利条約」が採択された。大別すると、子どもの「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」「参加する権利」が定められた条約だ。この時から、子どもにも大人同様にひとりの人間としての権利があることが国際的に保障されるようになった。
日本もこの流れを受けて1994年に「子どもの権利条約」を批准した。しかし塩崎氏は「当時の日本は既に子供の権利を守っているとして何も定めなかった」と指摘した。つまり日本では、長い間子どもの権利について国内法で定めることないまま今に至っているのだ。
その後2016年の児童福祉法の改正で、ようやく日本で初めて“子どもの権利”が法律に明文化された。しかし、子どもを取り巻く問題はその後も減るどころか、むしろ増加傾向にあると言える。例えば児童虐待に関して、虐待の通報件数は子どもの権利条約を日本が批准した1994年と比べて実に約80倍に増えている(厚生労働省調べ)。自殺についても、全体数が減少する一方で、小中高生の自殺者数は増加傾向にあるという(警察庁調べ)。
いじめについては、文部科学省が発表した数字を見ると年々増加傾向にあり、特に小学校でのいじめが全体の8割以上を占める結果となっている。こうした現状の中、ユニセフが9月に発表した先進国の子どもの幸福度に関する報告書「レポートカード16」では、日本の子ども達の生活満足度は調査した先進国中“ワースト2位”との結果が報告された。
虐待はいわゆる家庭の問題ではなく立派な権利の侵害だ
こうした背景を念頭に会議の中で塩崎氏は「子どもには健康に育つ権利があるということが法律に書かれていないことが問題。全体の法律がない」として、改めて子どもの権利に関する国の基本方針や理念を定める基本法の必要性を訴えた。さらに「(国や自治体のトップの)頭の中で重要性が理解されておらず(政策に)くみ取られていない」として、基本法が無いことが子どもを取り巻く問題が改善されない原因だと指摘した。
また会議では、「子どもの権利条約」という名前を“聞いたことがない”と回答した子どもが全体の31.5%だったのに対して大人では42.9%にのぼるという、“大人の方が子どもの権利についての知識がない”との調査結果(セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン調べ)も紹介された。そして虐待はいわゆる“家庭の問題”ではなく立派な“権利の侵害”に当たるとの声もあがった。
子どもに権利を主張させること自体が悲しいことではないだろうか?
一方、こうした指摘に対して会議の出席者からは、法律で子どもの権利を明確化するだけでは意味がないという次のような声も噴出した。
「権利を侵す人が近い存在、親とかいう関係。権利ということだけでは守れない。子供に近い方からの虐待。ここを考えないとうまくいかないと思う」
「子供は1人で生きていけない存在。周りの環境整備、親への支援も当然入ってくる」
そして会議は「国が主体となってこの問題を考えようということが重要だ」との共通の認識の元、「こども基本法」の制定に向けて議論を重ねていくことを確認し、1時間半ほどで終了した。
子ども基本法が制定され、社会に周知徹底されれば、将来子ども達は自分に向けられた虐待やいじめに対して「権利の侵害だ」と胸を張って主張できる日が来るのかもしれない。だが、そもそも子どもとは、家族を中心に地域や社会全体で愛し守り育てていくべき存在であり、子どもに「愛され守られ育てられることが自分の権利だ」と意識させる法律を作らないといけない状況自体が悲しく残念でならないという思いも頭をよぎる。
ぜひ立法府たる国会では、法律論や制度論だけにとどまらず、こうした問題意識にも応えるような議論を期待したい。
(フジテレビ政治部 福井慶仁)