人口減少時代に逆行するかのように出店を増やし、過去最高益を出しているドラッグストアチェーン「ゲンキー」(本社:福井・坂井市)。その独自の戦略は、「あえて店舗を小さくする」ことだった。“いつもの商品”が“いつもの場所”にある「金太郎あめ方式」で徹底的にコストカットし、商圏が狭い地域にも出店を可能にしている。
900坪から300坪へ、戦略的な"縮小"
福井・坂井市丸岡町に本社を構えるゲンキー株式会社は、県内に88店舗、北陸や東海地方など県外を合わせると約500店舗のドラッグストアを運営。商品全体の7割を生鮮食品や総菜などの食品が占め、消費者の節約志向に対応し価格を抑えたラインナップをしている。
2025年6月までの1年間の売り上げは2007億円で、売り上げ、利益ともに過去最高を記録している。
福井市郊外にあるゲンキー森田店。かつて営業していた900坪の大型店舗のすぐ隣に、その3分の1のサイズとなる300坪の新店舗が今年4月にオープンした。福井県内ではよく見られるこの光景に、特別な戦略が隠されていた。
ゲンキー建設部の岡部忠隆さんは「2000年代に出店を加速していた900坪タイプの大型店舗は、契約満期などを機に建物を貸し出し、商業施設として新たにリメイクを進めている」とし、2029年を目途に「大型店は辞めていく」という。
大きな店舗は様々な商品を並べられるメリットがある一方、出店の際は広大な土地探しに苦労したり、一定以上の売り場は立地法による警察などの審査で出店までに8カ月以上かかるなどのデメリットも抱えていた。
全店共通の“金太郎あめ方式”で小型店舗に転換
この300坪の小型店舗には、ゲンキーならではの特徴が詰まっている。「11本の通路を全店統一とし、入口は右か左かの違いだけで、同じ通路幅で商品アイテムも統一している」と岡部さんは話す。
照明や柱、棚やエアコンの位置など、全てが同じ間取りの店舗を450店で展開。同じ建設資材を大量発注することで出店コストを下げることに成功した。
この店舗構成は、現場で働く従業員にもメリットが。丸岡高柳店の大瀧ひかる店長は「どの店舗に行っても同じ商品が同じ場所に陳列されているので、動きやすく無駄がないのが一番大きい」と話す。
季節商品や新商品は「ほぼ扱わない」
店舗構成を統一するのに加え、ゲンキーでは約5年前からクリスマスやバレンタインなどの季節イベント特設コーナーを廃止。随時入れ替わる新商品もほぼ扱わないことにした。
以前は900坪の大きな店舗で働いていた大瀧店長は「季節によって商品が入れ替わり、クリスマスならクリスマス向けての飾りや菓子を陳列することに時間がかかっていた」と振り返る。
藤永健一社長は「年2回しか棚替えしない。新商品は6カ月間様子を見て売れたものだけを投入する」と説明する。季節商品を扱わないことについては「365日のうち65日はイベントなどの"ハレの日"だが、残り300日は日常。この日常をしっかりやっていく方が分母が大きいという考え方」だと説明する。
人口7000人の過疎地にも「最後の砦」として出店
出店や従業員の動きまで徹底的にコスト削減を突き詰めた結果、可能となったのが人口減少が進む地域への出店だ。
「生活必需品が買えなくなるのは不便なこと。他店がなくなっても最後の砦として当社が残る。一店舗もないところにも出店していく」(藤永社長)
他のドラッグストアでは安定した経営のため1店舗につき約1万5000人の商圏が必要と言われる中、ゲンキーではその半分、7000人でも収益が見込めるとして過疎化が進む地域でも出店を増やしている。

ゲンキーの新規出店数は2023年6月期31店舗、2024年6月期54店舗、2025年6月期66店舗と増加を続け、2027年6月期には100店舗の出店を目標としている。300坪の同じ間取り、売れ筋商品だけを同じ場所に、低下価格で並べる戦略で出店を進めるゲンキー。今後の成長も目が離せない。
