「涸沢カールの紅葉が11年ぶりに大当たりだ!」「栗駒山の紅葉が素晴らしい!」、今年はこんな情報をネットやテレビでよく目にします。
先日、筆者も山形県の朝日連峰に登山に行って来たのですが、目にした紅葉のあまりの美しさに見とれてしまい、予定の行程が押してしまうほどでした。
近年、紅葉は「色づきが悪い」「葉が落ちてしまった」など良い情報がありませんでしたが、「今年の山の紅葉は絶対見ないと損!」と言えそうです。
ただ、紅葉のタイミングは平年とずれることもあり、特に山の紅葉のタイミングは情報が少なく、ベストタイミングがわかりにくいもの…
そこで、気象予報士目線で、2025年の山の紅葉がオススメの理由、そしてベストタイミングを見極めるコツを解説します。
暑すぎると“鮮やかさ”にダメージ
葉っぱの緑色は、光合成のために使われる「クロロフィル」(葉緑素)という色素です。秋になり気温が下がることで役目を終え、分解されて緑色が薄くなっていきます。
すると、夏の間は目立たなかった黄色の「カロテノイド」という色素が目立つようになります。イチョウなどはこの仕組みで黄色く色づきます。
一方、カエデなどは光合成で葉っぱに蓄えられた糖から、「アントシアニン」という赤色の色素を作り出します。これによって赤く色づきます。
猛暑・酷暑で35℃を超えるような高温が続くと、光合成に必要な「クロロフィル」は働きが弱まったり分解が進みやすくなります。すると糖の蓄えが少なくなり、十分な赤色の色素が作られず色づきが鈍くなる可能性があります。
今年の夏は観測史上最も暑く、人間にとっても木々にとってもつらい期間となりました。
しかし今年の山の紅葉は…“見なきゃ損”!
一方で、標高の高い山では夏でも平地より気温が低いため、ダメージが少なく紅葉の色づきが鮮やかになる傾向があります。
そして、今年「山の紅葉が美しい」と言われる理由として、筆者が注目したのが9月の降水量です。
雨が少なすぎても多すぎても葉の光合成がうまく進まず、紅葉の色づきが鈍くなることがあります。
去年と今年の降水量を比べると、2024年は全国的に雨がかなり少なかったのに対し、2025年は西日本・東日本で平年並み、北日本ではやや多めとなりました。
この「適度な潤い」が、夏を乗り越えた葉の働きを助け、今年の紅葉をより鮮やかにした要因のひとつと考えられます。
【9月降水量(平年比)】
北日本/2024年:69% → 2025年:114%
東日本/2024年:67% → 2025年:96%
西日本/2024年:45% → 2025年:98%
紅葉の“スイッチ”いつ入る?
紅葉のスイッチは日照時間が短くなり、最低気温が約8℃まで下がってくると入ります。
山は標高が高いため平地より早くスイッチが入ります。そのタイミングを、麓と山の気温の差を使って計算することができます。
結論から言いますと、標高が500m上がるごとに気温は約3℃低くなります。そのため、以下のように計算することができます。
【山の紅葉スイッチが入るときの麓の気温】
標高500 m:約11℃
標高1000m:約14 ℃
標高1500m:約17 ℃
標高2000 m:約20 ℃
※平均的な気温減率(6.5℃/㎞)を基に、夜間の平地での冷え込みを考慮し算出
例えば、高尾山(標高599m)なら、東京(標高25m)との標高差が約600m弱なので、東京の最低気温が11℃から12℃くらいになったとき、スイッチが入ると言えそうです。
気象庁のHPで東京の最低気温を確認すると、10月22日に10.4℃と、この基準を今季初めて下回りました。
もう、紅葉のスイッチは入ってそうですね。
ベストタイミングはスイッチから3週間後
一度スイッチが入ると、紅葉の進み方は気温や天候によって異なりますが、約2週間から1カ月ほどで最も色づきが深まります。
ベストタイミングは3週間後。この辺りが紅葉のピークとなる可能性が高いです。ということは、今年の高尾山の紅葉狩り、ベストタイミングは11月12日前後となりそうです。ぜひ、自分のお近くの山でも紅葉のタイミングを調べてみてください。
山の紅葉の魅力は、単色の美しさではなく、色とりどりのグラデーション。赤、橙、黄、緑、様々な色が混ざり合った錦絵のような美しさです。
秋晴れの青空に映える赤や黄色のグラデーションは、まさに自然のアート。皆さんも、お弁当やカメラをもって紅葉狩りに出かけてみませんか?夕方からは、ぐっと冷え込むので防寒着も忘れずに。
【執筆:ウェザーマップ・兵頭哲二気象予報士】
