中心市街地の歩道を車が暴走した宮崎市高千穂通りの事故から10年が経過した。この事故では2人が死亡、4人が重軽傷を負った。加害者の裁判では「故意」か「過失」かが争点になり、遺族はより罪が重い「危険運転致死傷罪」の適用を求めたが、「法の壁」に阻まれた。事故から10年、遺族は今もなお苦悩を続けている。

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10年前の悲劇、歩道に響いた悲鳴

この事故は2015年10月28日、軽乗用車が歩道を暴走し、2人が死亡、4人が重軽傷を負った痛ましい事故だ。

午後2時50分ごろ、宮崎市の中心部にある高千穂通りで、悲劇は突然発生した。鹿児島県の当時73歳の男が運転する軽乗用車が、歩道をおよそ640メートルにわたり、時速最大約60キロで走行。歩行者や自転車を次々とはねた。

この事故により、藤本みどりさん(当時66歳)を含む2人が尊い命を落としたほか、4人が重軽傷を負った。藤本さんはこの日、旅行のチケットを受け取りに行った帰りに、悲劇に巻き込まれた。

藤本さんの兄・優さんと妻の洋子さんは、毎年この日に欠かさず事故現場を訪れて花を手向け、犠牲となったみどりさんに祈りを捧げている。

かけがえのない妹を失ってから10年が経った今も、優さんは深い悔恨の念に苛まれている。

事故で妹を亡くす 藤本 優さん:
何年たっても…だめですね。なんでほんとにあの時に、その日にかぎって(みどりさんを)家まで(送り)届けなかったかなと。それが一番悔いが残ってるんですよ。

藤本さんは、「もし、天が一言だけ、一つだけ願いごとを聞いてやると言ったら、事故に遭う1時間前にタイムスリップして、ちゃんと(みどりさんを家まで送り)届けて…」と、悔やんでも悔やみきれない思いを話した。

「故意」か「過失」か 裁判所の判断は

軽乗用車を運転していた男を、宮崎地検は「危険運転致死傷罪」で起訴した。

しかし裁判では、事故の原因が「てんかん」を認識した状態での運転であった「故意」か、それとも「認知症」による「過失」かが争点となり、「過失運転致死傷罪」か、「危険運転致死傷罪か」が争われることになった。

そして宮崎地裁が出した結論は、事故の原因が「てんかん」とは認められない。つまり「危険運転致死傷罪は認められない」というものだった。男には「過失運転致死傷罪」が適用され、懲役6年の実刑判決が言い渡された。

遺族は控訴を求めたが、検察は控訴を断念した。優さんは、その時の思いをこう記している。

これを「危険運転致傷罪」として裁けないのであれば、刑事事件とはいえ、法律はいったい何の存在意義があるのでしょうか。

優さんは、「妹はちゃんとルールを守って、歩道を歩いていて、信号待ちをしてたでしょ。車が後ろから来るなんて思いもしないじゃないですか」と話し、「危険運転致傷罪」が適用されなかったことに、強い疑問を呈している。

事故で妹を亡くす 藤本 優さん:
当然、私は危険運転に該当すると思っていました。なぜなら、車道ではなくて歩道を走ったんですよ。しかも通行量の多いところですよね。なのになぜ、それ(危険運転)が採用されなかったのか、自分が死ぬまで心の中にあると思います。

「過失運転」と「危険運転」違いは

「過失運転」致死傷罪は、運転上必要な注意を怠り人を死傷させた場合に適用され、7年以下の拘禁刑が科される。一方「危険運転」致死傷罪は、より厳しく、20年以下の拘禁刑が科される。

その適用条件は、飲酒などによる正常な運転が困難な状態での走行など「8つの行為」に限定されており、現在は数値基準がないため、適用のハードルが高いのが現状だ。このため、判決に納得できない遺族は少なくない。

弁護士法人きさらぎの高山桂弁護士は、「危険運転致死傷罪の成立要件である『正常な運転が困難な状態』が極めて抽象的。これを客観的に証明しないと罪として成立しない」と指摘する。

こうした状況を受け、国は2025年3月、「危険運転致傷罪」の法改正に向けた議論を開始した。

法改正に向けた動き 課題は

国の法制審議会では、飲酒運転における「アルコール濃度」やスピード違反の「速度超過の幅」など、具体的な見直し案が示されている。しかし高山弁護士は、「数値基準の導入」にはデメリットもあるという。

弁護士法人きさらぎ 高山 桂 弁護士:
数値を客観的に定めるのは、分かりやすいという意味においては、非常に良いことである一方で、客観的な数値を定めてしまうと、それ以下だと危険運転致死傷罪にならないということになってしまう。法律の柔軟さが失われる、そういったところも実は問題意識としてある。

法改正による社会的な効果について、高山弁護士は「改めて、車というのが一歩間違えれば、人を殺し、重いけがを与える凶器なんだと。安全意識を持っていかなければならない、そういった強いメッセージになる」との思いを語った。

事故で妹を亡くした藤本さんは、法改正に向けた動きを評価しつつも、数値基準の設定については、議論を重ねるべきだと訴えている。

事故で妹を亡くす 藤本 優さん:
自分が亡くなるまでの運命だろうと思います、背負ったね。自分が亡くなるまでは、やっぱり事故で亡くなった人のことを思ってるんじゃないでしょうかね。

藤本さんの言葉は、事故の悲劇を風化させず、二度と同じような悲劇が繰り返されない社会への強い願いを物語っている。

(テレビ宮崎)

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