不動産ファンド「みんなで大家さん」シリーズ。約3万8000人が2000億円以上を出資したものの、7月末から出資者への分配金が突然停止した。
なぜ分配金が停止したのか。
徹底取材を通じて見えてきたのは、開発が進んでいない現状と、出資金を分配金の原資にして“自転車操業”のように支払われていたという疑いだった。

■「みんなで大家さんシリーズ成田」とは
関東に住む71歳のAさんは、老後の生活資金に不安を感じ、「みんなで大家さんシリーズ成田」に出資した。
Aさん:株は変動するでしょう。毎日値動きしたり、上がったり下がったりとか、そういうのがこう怖かったもんですから。『大家さんプロジェクト』というのは、定期的に配当収入が入ってくるもんですから、こちらの方が安定した見込みができるかなという思いがありました。
商品名は、「みんなで大家さんシリーズ成田」。
成田空港から車で3分の場所に、東京ドームの10倍の敷地にスクリーンを備えた5000席のドームや、エリア最大級のホテルなどのグローバルスペックを備えた「価値創造の拠点」。新しい街「ゲートウェイ成田」の開発への出資を募るもの。
不動産特定事業法に基づく商品で、1口100万円から投資でき、年に6%から7%ほどの分配金がうたわれていた。
「みんなで大家さん」には、「シリーズ成田」以外の商品も含めて、およそ3万8000人が出資。総額2000億円以上を集めていた。

■投資経験ほとんどなかったが400万円出資 “手ごたえ”もあったというが…
Aさんは投資経験がほとんどなかったものの、退職金を取り崩して400万円を出資。
約1年以上にわたり月2万円弱の分配金を受け取り、投資の手応えを感じていた。
400万円を出資 Aさん(71):インバウンド需要とかを考えると空港に近くて、これだけの開発プロジェクトだったら、これは本当にいいプロジェクトじゃないかと思って。
成田市とかが絡んで開発許可を出したりだとか、計画的には大きなプロジェクトなんです。それがあったから安心した。

■今年7月末、突然分配金の支払いがストップ
しかし、今年7月末、突然分配金の支払いがストップする。
「みんなで大家さん」グループの代表は、動画で出資者に向けてこう謝罪した。
みんなで大家さん代表:ご信頼をいただいた事業参加者の皆様には大変なご心配とご迷惑をおかけしておりますことを心から深くお詫び申し上げます。
この不動産ファンドを運営するのは、大阪市の不動産会社・都市綜権インベストファンド。
出資金で「ゲートウェイ成田」の土地を購入し、それを同じグループの開発業者に貸し出して得た賃料を分配金として投資家に還元してきたと説明している。
しかし、グループ内の開発業者からの賃料収入がストップし、分配金が滞っているという。

■6年前にスタートしたプロジェクトは現在もほぼ更地
プロジェクトの実態を確かめるため、取材班は千葉県成田市の建設現場に向かった。
6年前にスタートしたプロジェクトですが、現地はほぼ更地のままで、重機が数台稼働しているものの、大規模開発の工事中には見えない。
近くで営業するタクシー運転手に話を聞いた。
タクシー運転手:最初に工事が始まって、造成が始まったんですけど、それからまもなく工事が止まっちゃって。工事車両も全然入っていく様子がなかったんです。
タクシー運転手:私も若干の投資をしようと思ったんです。何ができるんだろうと完成予想図をネットで全部見てたんです。いいものができるなと思ってましたけど。
行政に提出された工事の進捗状況報告書によれば、当初の開業予定は2021年だったが、今年1月時点の進捗率はわずか2.3%。
去年6月には計画変更について出資者への説明を怠ったなどの理由で、大阪府と東京都から行政処分を受けていた。

■「分配金についてコメントする立場にない」と成田市
成田市の担当者は取材に対し、次のようにコメントした。
成田市の担当者コメント:みんなで大家さんグループの申し出を受けて、あのエリアを商業施設などにするまちづくり(地区計画)を決定したのは、確かに成田市です。造成工事(開発)の許可も出しました。
成田市の担当者コメント:しかし、我々はプロジェクトの発注者ではなく、開発主体はあくまでも民間事業者で、分配金についてコメントする立場にありません。
また、「民間事業である以上、工事の延期が続いても基本的には完成を待つのみ」とも話した。

■出資金1561億円は「土地購入資金に」も不動産関係者「高く見積もって約125億」
関西テレビの問い合わせに対し、「みんなで大家さん」グループはメールで回答した。
「みんなで大家さん」グループからのメールより:山林であったところを造成しているわけですから更地であるというのは造成工事が進んでいる証左。造成工事完了の後、建築工事へと進んでまいります。
また、集めた出資金については「シリーズ成田に集まった出資金1561億円は全て土地の購入資金に当てられています」と説明した。
しかし、地元の不動産関係者によると、ゲートウェイ成田の全体の土地の価格は、高く見積もってもおよそ125億円という。
1560億円もの出資金が全て土地購入に消えるはずがないと追及すると、「開発用地としての評価が加わっているため妥当」との回答が。

■元関係者2人に接触すると衝撃的な内情が明かされた
取材班がグループの元関係者2人に接触すると、衝撃的な内情が明かされた。
「みんなで大家さん」元関係者:成田に関しては何十年前から10年以上前から言ってるんですよ。あの人(グループ代表のこと)。『成田に町を作る』みたいな。
「みんなで大家さん」元関係者:やる気はあると思いますけど、ずさんな計画で走り始めて、1、2年ですぐ頓挫してしまって、自転車操業になってしまったんじゃないのかなというのが正直な感想ですね。
「みんなで大家さん」グループの代表の「夢のプロジェクト」として走り出した「ゲートウェイ成田」だが、元関係者によれば、グループにいるのは50人程度の社員で、実現性は最初からほとんどなかったという。
「みんなで大家さん」元関係者:『このままだと温泉とか建てられませんよ』と、異を唱えた人間は排除されていますから。予測できた人間を排除してしまうので。プロとかいろいろと協力体制を取っていればこんなことになっていないと思います。

■出資金は「もうほぼない…いろんなものに全部使っています」
さらに、分配金が遅れている真の理由について、元関係者は驚くべき内情を語った。
構図はこうです。実はファンドが購入した土地の代金の支払い先は、「ゲートウェイ成田」の開発を担うグループ会社。
つまり出資金は一度グループ会社に入ったことになる。
分配金は、このグループ会社である開発業者に土地を貸した賃料が原資と説明していましたが、この構図により出資金が原資になっていた疑いがあるというのだ。
「みんなで大家さん」元関係者:だから、何一つ収益が上がっていなくても、グループ内で収益を立ててぐるっと回したことによって、分配金が出されている。
(Q:建付け上は賃料から払っていることになる?)
「みんなで大家さん」元関係者:そうですね。でも、この中でただ回っただけです。
(Q:集めた出資金は今どうなってるんですか?)
「みんなで大家さん」元関係者:本当のこと言っちゃっていいですか?もうほぼないです。いろんなものに全部使ってます。

■「単なる事業の失敗では許されない。半分でも100万円でも返してほしい」
分配金が遅延し始めておよそ3カ月。解約にも応じない状況が続いている。
400万円を出資したAさんは「単なる事業の失敗では許されない」と憤る。
Aさん:被害者も何千人とか本当にすごい人数があって。2000億という金がどこに行ったか分からない、返ってくるかも分かんないという状況。これってものすごい大事件だと思うんですよね。半分でも100万円でもいいから、本当に返してほしい。
Aさんの代理人弁護士によると、早ければ今月下旬にも1000人を超える出資者が原告となり、100億円規模の損害賠償を求め提訴する方針だという。

■「形がないものに投資するっていうのはリスク」菊地弁護士
この集団訴訟にかかわっている、小幡歩弁護士によると、「“貸し出す物件の元の価格”や“どこに貸し出すのか”など十分な説明が果たされていない。投資家は理解できないまま投資させられているのが現状」ということだ。
菊地幸夫弁護士:完成予想図を見ると、素晴らしい街だなと思うんですね。ただ、最近、建設費の高騰とか人件費の高騰とか、こういう計画が頓挫したり見直されたりしている。どれだけ計画は現実性を持っていたのか、そこは怪しいということです。
菊地幸夫弁護士:そこをしっかり当事者に開示をすることは、必要だろうと思います。また、投資をされる方も不動産に投資するわけですから。一般的に普通不動産に投資するとなると、現地を見て、こういう土地なんだ、駅に近いのかとか、自分で現場を見ることが求められると思うんですね。
菊地幸夫弁護士:だから投資する方も慎重の上には慎重に、現にまだ形がないものに投資するっていうのはリスクがありますし、ましてや担保を取ってということではないですからね。勉強して、慎重に投資をする姿勢は持たなければいけないなと思いますね。
(関西テレビ「newsランナー」 2025年10月23日放送)

